インタビュー
日本政府観光局(JNTO)の中国版とでも言うべき、中国駐東京観光代表処(前中国国家観光局駐日本代表処)で首席代表を務める王偉氏。日々研究を怠らない王氏に、中国人の旅行の傾向や、中国での流行などのお話を伺った。流暢な日本語でのとても分かりやすいお話には、中国市場へ向けた効果的な情報発信方法など、具体的な手法も多く登場する。中国の国民性はもちろん、旅行業界をも熟知された王氏のインタビューを、3回に分けてご紹介します。
中国人は日本に「癒し」を感じている
——訪日中国人の数は2017年に735万人。今年10月の国慶節の連休でも、中国から海外への渡航先として、日本が一番人気でした。それにはどのような理由があるのでしょうか。
中国人は、日本に「癒し」を感じています。
急速な発展を続けている中国での生活は競争が激しく、とてもストレスフルです。激務の中、人間関係で衝突することもしばしばあります。そんな日常の職場から離れて日本に来ると、日本人は礼儀正しくて、もてなしの気持ちで接してくれるので癒されると中国人は感じています。
中国では今、中国語で言うと「治愈」、日本語だと“癒し”が重要なキーワードとなっています。国内旅行でも癒しが求められ、”治愈系”(日本語:癒し系)という言葉は、人や音楽や服などの表現にも使われ、特に若い世代ほどネット上でよく話題にしています。彼らは自分を忘れてしまうほど忙しい日々の中で、どうしたら自分を取り戻せるかをいつも探しているのです。
日本の丁寧なサービスも癒し、日本語の響きも癒し、当然静かで美しい小道も癒し。小皿に盛り付けられ、目で楽しめる日本食も癒しなんです。それが人気の理由です。
——中国では食事を残すことで満足感を示すため、大皿に量を多く盛り付けて出した方が、中国の方には喜ばれると日本では言われていますが。
中国も変わってきています。この5、6年は「最後まで食べなければならない」「お皿の底が見えるまで食べつくしなさ」と、提唱されています。古くからの慣習では大きなお皿に山盛りの料理が出てくる、というのがあります。特に北の方では豊かではない時代が長くありましたので、“夜中にお腹が空いて眠れない……”とならないように、取れる時にしっかり取っておく習慣がありました。
そんな中国も時代が移り、南の方から段々と変化してきています。北の方のレストランでも一皿の量が少なめになってきています。また、残りを持ち帰ることもあります。
——今年、四半世紀ぶりに上海を訪れ、その発展ぶりや人の雰囲気など、ほんの25年でこんなにも変わるのかと、息をするのも忘れるほどの驚きの連続でした。上海だけでなく中国全体が変わりつつあるんですね。
中国はどんどん変わっています。とはいえ、まだ変化の途中ですし、人口が多すぎて何十年か、百年、二百年とかかるかもしれませんが、それでも中国は変わっていきます。変化はインフラからスタートしてだんだんと広がっていきます。例えば、大連からスタートした「環境は人を育つ」という街づくりの考え方も、ブームとなって他の街へと広がっています。きれいな街にはゴミは捨てません。街がきれいだとファッションやお化粧も変わってきます。
——「癒し」をキーワードに今は日本の人気が高いということですが、その日本人気も変化していくでしょうか。
もちろん変化はしていきます。最近では、国をあげて観光客誘致に取り組んでいる韓国の人気も上がってます。一方で、中国と貿易問題のあるアメリカの人気は下がっています。
——中国では現在、パスポートを持っている人の割合はどれくらいでしょうか。
中国のパスポート取得率は現在7%です。海外旅行をしたいと多くの人が思っていますので、これからどんどん増えていきます。ちなみに日本人のパスポートの取得率は24%だそうです。
——ざっくりとした計算でも、中国13億の人口の7%ということは9100万人、日本の人口1億3000万人の24%ということは、3100万人。すでに日本の約3倍の人がパスポートを持っているということですね。その人達が海外に行くというのは大きなことですね。
中国では、沿岸部の人の方が海外へ行っている率が高かったですが、内陸部の人も海外へ行き始めています。とはいえ、内陸の人はまず上海や蘇州などの沿岸地方へ旅行に行き、沿岸地方の人は海外へ行く傾向があります。
中国国内旅行に掛かる費用も場所によっては高く、特に中国のハワイと言われる海南島は日本へ行くのと同じくらい、掛かります。そんな航空料金を比べて、日本やタイへ行く方がいいと考える人も多くいます。日本とタイでは、タイのほうが中国に近いですし、現地で掛かる費用も安いので、日本に旅行する人の方が収入の高い人達となっています。
——国慶節の渡航先として昨年1位だったタイ(昨年日本は2位)。日本ではタイを「微笑みの国」と呼び、ある意味癒しを感じる国とされていますが。
中国ではタイは「情熱の国」と言われています。熱い気持ちで、心を暖めてくれる情熱の国なのです。一方、日本は「礼儀の国」。礼儀正しくおもてなしをしてくれることで、心を癒してくれる国だと中国人は感じているのです。
→Part2:「中国の旅行マーケットを引っ張る女性達」
→Part3:「中国市場へ情報発信には、ナビが必要」
編集部おすすめ関連記事:
→【訪日外国人の傾向を知る】中国編:急速に変化する訪日中国人市場、個人・リピーターが急増
最新のインタビュー
日本一のインバウンド向けローカル体験を創ったツアーサービスMagicalTripが、未経験ガイド9割でも最高評価を獲得できる理由 (2024.07.26)
やんばる独自の文化体験を提供する宿の若手人材育成術「育てるよりも思いをつぶさない」の真意 (2024.04.26)
人口の7倍 62万人のインバウンド客が訪れた岐阜県高山市の挑戦、観光を暮らしに生かす地域経営 (2024.03.22)
国際環境教育基金(FEE)のリーダーが語る、サステナビリティが観光業界の「新しい常識」になる日 (2024.02.09)
パラダイムシフトの渦中にある観光業に経営学を、理論と実践で長期を見据える力をつける立命館大学MBA (2023.11.14)
2024年開講、立命館大学MBAが目指す「稼げる観光」に必要な人材育成 (2023.10.26)
【海外での学び直し】キャリア形成への挑戦、ホテル業界から2度の米国留学で目指すものとは? (2023.09.29)
広島にプラス1泊を、朝7時半からのローカルツアーが訪日客を惹きつける理由 (2023.08.04)
異業種から観光業へ、コロナ禍の危機的状況で活かせたMBAでの普遍的なスキルとは? (2023.06.09)
台湾発のグローバルSaaS企業「Kdan Mobile」の電子署名サービスは、いかに観光業界のDXに貢献するのか? (2023.05.17)
【提言】アドベンチャートラベルは「体験」してから売る、誘客に必要な3つの戦略 (2023.04.21)
世界一予約困難なレストランでも提供。北海道余市町を有名にした町長の「ワイン」集中戦略 (2023.04.14)