インタビュー
当初はバラバラだった地域を一つにまとめあげ、地域で一体となってプロモーション活動などに取り組んできた大歩危・祖谷いってみる会代表の植田佳宏氏。前回は、同会設立の背景や、取り組みについてお伺いした。今回は、大歩危・祖谷地域がどのようにして地域住民を巻き込んでインバウンド客を受け入れ、魅力的な観光地域づくりをしてきたのかを聞いた。
地域のキャパシティを考慮し、香港・欧米豪圏を重点地域に
—先ほど外国人のお客様は香港が多いということでしたが、インバウンドのターゲット市場についてはどう考えていますか。
四国の外国人宿泊者数は、香川、愛媛、高知は全て台湾が1位ですが、徳島だけ香港が1位なんです。これは、先行して香港市場に取り組んできた結果だと思います。私たちは、日本全体で見ると多い中国や韓国の訪日客をターゲットとはしていません。ホテル5軒の年間宿泊者数が7〜8万人泊なので、中国や韓国に積極的なPRをすると、宿のキャパを超えてしまう可能性があるからです。今は、ターゲットを香港や台湾、シンガポール、マレーシア、欧米豪に絞り込んでいますね。
—最近は、欧米豪圏からのファムトリップの受け入れなど欧米豪からの訪日客誘致に向けた取り組みも活発になっていますね。
せとうちDMOは欧米豪を中心にプロモーションに取り組んでいるので、欧米豪を重視する大歩危・祖谷地域との相性も良いため、何かあれば相談いただくこともあります。香港や台湾ほどの規模ではありませんが、欧米豪市場も、アメリカ(西海岸)、フランス、オーストラリア、イギリスを重点地域と定め積極的に取り組んでいます。
地域住民を巻き込むことで「住んでよし訪れてよし」の観光地域づくりを目指す
—外国人を迎え入れる上で、具体的にはどのような取り組みを実施していますか?
私たちは、観光立国の実現に向けて整備された、全国に13ある観光圏のうちの一つとして事業をしているのですが、観光立国の基本理念には「住んでよし訪れてよし」というスローガンが掲げられています。つまり、観光地域づくりは観光業者だけではなく、観光に直接関係のない地域住民を巻き込んでいくことが重要なんですよね。
私たちは最近、欧米豪の「SIT(スペシャルインタレストツアー)」にも力を入れているのですが、その中で地域のおばちゃんたちが着物の着付けやそば打ちを教えるなど、地元住民との接点も増えてきました。
また、子供たちは授業の一環として訪日客のガイドをすることで、地元にいながら国際感覚を養うことができています。子供たちだけでなく、大人も「英語を勉強しよう」という機運が高まっていますし、面白い街になってきましたよ。こうして、外国人が来てくれることが地域住民の国際感覚や誇りにもつながっています。
世界中から注目を集める地域へと進化
—地域を誇りに思う気持ちは、人口減少に歯止めをかけるという意味でも有意義な取り組みですね。
そうですね。2017年には農水省が選定する「農山漁村活性化の優良事例」で、フレンドシップ賞をいただきました。
また、徳島県の中でも三好市では若い方の移住者が一番増えています。最近ではアメリカのメディアにも取り上げられるようになり、2017年には米大手旅行雑誌『トラベル+レジャー』の「2018年に訪れるべき世界の旅行地50選」で、かずら橋のある祖谷渓が日本で唯一選ばれたんです。同年に高知県と徳島県を流れる吉野川でラフティングの世界選手権が開催され、世界から一層注目を集めるようになりました。
さらに、2018年には農水省の世界農業遺産にも選ばれ、2000年以上もの歴史を持つ伝統農法の体験ツアーが外国人に人気です。ラフティングや剣山でのトレッキングのほか、雲海を見に来る観光客も多いですね。アレックス・カーさんプロデュースによる古民家を改装した宿泊施設などもありますし、メインの観光スポット以外の場所も活性化しています。
世界に通用するブランドとして確立するために必要なこと
—世界から選ばれる観光地域になるために必要な要素とは何でしょうか?
世界から選ばれるにはブランドが必要です。ブランドというのは、「そこにしかないものやそこでしかできないことを、そこにいる人が介在する」ということだと思います。「大歩危・祖谷」というブランドを求める人たちを誘客するにはターゲットを絞り込むことが大事ですし、我々のライバルは国内の他地域ではなく世界なんです。
これを痛感したのは、以前アメリカの富裕層向けの旅行会社に営業に行った時ですね。その時に三好市の説明をしたところかなり興味を持ってくれたのですが、「ベトナムでは農業体験をやっていますが、あなたのところでは何ができますか?」と聞かれた時に、何も答えられませんでした。今であれば、着付けやそば打ち体験、餅つきなど、紹介できるコンテンツは多数ありますが、当時は突出したコンテンツがなかったんです。
欧米豪の誘致を目指すには、「自然が豊かで田舎です」「温泉があります」という漠然としたものではなく、そこにしかない世界で唯一無二のものを探す必要があることが、その時にわかりました。特に富裕層と呼ばれる人たちに満足してもらうには、ハード面の整備も大切なのですが、それ以上にいかに飽きさせないコンテンツをつくるかがカギになってくると思います。
各市町村が得意分野を持ち寄り、広域で連携して売り出すことで魅力向上
—飽きさせないコンテンツをつくるためにも、地域がそれぞれ得意分野を寄せ合って、全体としてコンテンツをつくり上げていくのですね。
そうですね。観光地域づくりと、観光地づくりでは意味合いが異なります。観光地は点をつくるだけなのですが、観光地域づくりは地域住民を巻き込んで、観光という産業を使って場をつくるということです。先ほども言いましたが「住んでよし訪れてよし」でないと世界から観光客は来ません。富士山のように強力なスポットがあれば別ですが、そうでない地域の場合は、人が介在していくことで世界に通用する観光地域づくりを目指していくことが重要なのです。
先ほど観光圏についてもお話しましたが、私たちは「にし阿波~剣山・吉野川観光圏」のプラットフォームとして、2011年に「そらの郷」というDMOを設立し、三好市を含めた4つの市と町で連携して世界水準の観光地づくりを推進してきました。4つの市と町はそれぞれ強みもあるけど、弱みもあります。例えば、A市では宿泊施設があるのが強みで、B町ではラフティング体験ができるのが強み。一方で、B町には宿がない、といったように。この状態で各市町村が単体で観光客を誘致しても「観光客の滞在先は?」「他に面白いコンテンツはないのか?」といった観光客のニーズには応えられません。
広域連携して全体でPRすることで、観光客にとっての選択肢が広がり、地域の魅力も深まります。そうすることで、周遊や滞在長期化、消費額アップにもつながりますね。
地域内での連携から観光圏同士の連携で、日本全体を活性化
—先ほどもお話していたように、世界のライバルに勝つためには、各地域の連携が欠かせませんね。
そうですね。世界広しといえど、この狭い国土の中にこれだけ表情の異なる地域がある国は珍しいと思います。だからこそゴールデンルート以外の地方にもお客さんを誘致して、日本の顔となる観光地域の良さを知ってもらいたいですね。私は、全国にある13の観光圏を統括するワンストップ窓口をやってみたいと思っています。それが実現すれば、世界に向けたPRが一括でできますし、例えば雪国観光圏に行った後にここ(にし阿波)へ来てもらって、その後九州で文化体験をするといった飛び石のように日本全国を楽しむ旅行者も増えてくるでしょう。各地域のブランドを磨いていき、日本全体の観光地域を活性化させたいですね。
—観光プロモーションは行政区分ごとで分けられるケースが多いですが、観光客にとっては行政区分とは関係ないですよね。近隣市町村との連携だけでなく、離れた地域との連携が進むことで、日本全体の魅力が発信されていけばいいですよね。ありがとうございました。
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