インタビュー

「みちのく潮風トレイル」のオーストラリア出身ガイドが実践する、地域と旅行者の双方に価値ある観光

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観光・インバウンドの現場で挑戦を続ける人々に迫るインタビュー連載。今回は、東北の太平洋沿岸をつなぐロングトレイル「みちのく潮風トレイル」でガイドとして活動する階ケイティさんに話を伺った。

ケイティさんはオーストラリア出身。そのバックグラウンドを生かし、みちのく潮風トレイルで海外からの旅行者を迎えながら、地域の自然や暮らし、震災の記憶を丁寧につないでいる。異なる文化背景を持つガイドならではの視点から、東北の自然や暮らしをどのように体験として届けているのか。その工夫と想いを語ってもらった。

ケイティさんプロフィール写真

 

「歩く旅」を軸に地域と世界をつなぐ

― 現在のお仕事を教えてください。

現在は、「みちのく潮風トレイル」を中心に、英語でのトレイルガイドとして活動しています。

みちのく潮風トレイルは、青森県八戸市から福島県相馬市まで東北の太平洋沿岸をつなぐ全長約1000kmのロングトレイルで、震災復興を目的に整備されました。2019年の全線開通以降、国内外のハイカーを惹きつけています。

みちのくトレイルの全体マップ▲青森から福島まで約1000km。太平洋沿岸をつなぐ「みちのく潮風トレイル」の全体図(出典:環境省

私は、東北を拠点とする合同会社THREE GOATSで、旅行商品の企画・手配や海外向けのセールスを手がけながら、同トレイルを中心にガイド業務を行っています。

同社は、以前勤めていた旅行会社・株式会社みちのりトラベル東北の同僚とともに立ち上げました。トレイルと震災学習を組み合わせた体験や、FIT(個人旅行者)向けの少人数ツアーにより注力したいと考え、そうしたツアーの企画・実施を行っています。現在も、みちのりトラベル東北とは協業関係にあり、私自身もパートとして関わっています。

春と秋はガイド業務が中心で、7〜9日間ほどの行程を、お客様と同じ宿に泊まりながら一緒に歩くことも多いです。一方、冬などのオフシーズンには、ツアーの企画づくりや商品開発や海外向けのセールスに力を入れています。

合同会社THREE GOATSのみなさん▲東北を拠点に活動する旅行会社「THREE GOATS」のメンバー。震災学習と体験を組み合わせたツアーを企画・実施

 

ホテル勤務から英会話教室、そして再び観光業へ。震災後の東北で見つけた天職

― これまでの経歴を教えてください。

私はオーストラリア・ブリスベン出身です。小学生の頃から学校で日本語を学び、自宅では日本からの留学生をホームステイで受け入れていました。日本の文化や暮らしに自然と親しむ中で関心が深まり、高校卒業後は交換留学制度を利用して千葉県で1年間過ごしました。

その後、オーストラリアの大学で日本語と国際観光・ホテルマネジメントを専攻し、日本の大学への短期留学も経験しました。大学時代はオーストラリアで日本人向けの現地ガイドとして働いていました。ご縁があり、北海道・札幌のホテルでインターンを経て、2006年頃から約5年半、コンシェルジュとして勤務しました。

katyさんの過去写真▲左:大学在学中の日本留学時、右:札幌のホテルでコンシェルジュとして働いていた頃のケイティさん

2012年、東日本大震災の翌年に岩手県一関へ移住し、一度旅行業を離れて、子ども向け英会話スクールで働きました。2017年に盛岡へ移り、株式会社みちのりトラベル東北に入社。添乗員やインバウンド向けセールスを担当する中で、コロナ禍を迎えました。

その頃、岩手県内を歩く機会が増え、「みちのく潮風トレイル」と出会いました。もともとカヤックやSUPなどのウォータースポーツは好きでしたが、歩く旅にはあまり関心がありませんでした。ただ、海沿いを歩き、場所によっては海のアクティビティも楽しめるこのトレイルは自分にとても合っており、気づけば現在のトレイルガイドの仕事をしていました。

 

国内70代から海外のアドベンチャートラベル層まで、柔軟なアクティビティ設計

― 現在取り組んでいるツアーやガイド活動の内容について教えてください。

私は現在、みちのく潮風トレイルを中心としたツアーのガイドをしています。

THREE GOATSでは、三陸沿岸の美しい区間を歩くトレイルツアーに加え、シーカヤックやサイクリングを組み合わせた体験を提供しています。ほかにも、東北の山を歩くハイキングや岩手山周辺のサイクリング、震災をテーマにした学習プログラムなどもあります。また、海外の旅行会社と連携し、専用のオリジナルコースを造成することもあります。

私がガイドを担当するお客様は、国内旅行者と訪日客の両方です。国内向けでは、岩手県内の方を中心に、平均年齢70歳前後の女性グループが月に1〜2回、バスツアー形式でトレイルを歩いています。

一方、春と秋のメインシーズンは海外のお客様が中心です。オーストラリアが最も多く、次いでアメリカ、ヨーロッパではフランスやイギリス、ドイツなどが多く、年齢層は50〜60代が中心です。

みちのく潮風トレイル沿いでガイドを務めるケイティ▲みちのく潮風トレイル沿いでガイドを務めるケイティさん。歩きながら東北の自然や文化を案内する

海外のお客様の多くは、中山道や熊野古道など日本の他のトレイル経験者で、「別の地域も歩いてみたい」とみちのく潮風トレイルを選ばれています。トレイル自体を目的に訪日し、ハイキング専門の海外旅行会社を通じて参加する方も少なくありません。

2025年秋からは、トレイルの一部区間を自転車で巡る「バイク&ハイキング」ツアーも始めました。こちらには、トレイル初心者や日本が初めての方も多く参加しています。その分、驚きや感動が大きいようです。長い方では1カ月ほど日本に滞在し、東北でのトレイルツアーの前後で東京周辺を観光し、京都や大阪、広島まで足を延ばす方もいます。

 

ただ歩くだけではない、「暮らし」と「記憶」に出会う旅

― これまで多くの方のガイドをしてきたなかで、特に印象に残っているゲストはどんな方でしたか。

2025年の秋に担当した二つのグループが、特に印象に残っています。雰囲気はまったく違いましたが、どちらも「ガイドをしていて本当に楽しい」と感じたツアーでした。

一つ目は、オーストラリアから参加したバイク&ハイキングツアーのグループです。8人中4人が友人同士で、全員が初めての日本でした。年齢は60歳前後で、とにかく元気。ハイキング経験は豊富でしたが、「自転車は子どもの頃以来」という方も多く、最初は不安そうでした。それでも数日で慣れ、最後は勢いよく走っていました。

私が通訳兼ガイドとして同行し、各地で現地ガイドにも入ってもらいましたが、すぐに打ち解け、ガイドの方にニックネームを付けて呼び合うほど和やかな雰囲気でした。ツアー後もWhatsAppでつながり、「あのガイドさんは元気?」と連絡をもらったり、京都や大阪を旅する写真が届いたりしています。ツアー後も関係が続いているのは、ガイドとして嬉しいですね。

みちのく潮風トレイルのハイキングツアー▲みちのく潮風トレイルのハイキングツアー。景色を楽しむだけでなく、参加者同士の会話や交流も旅の一部となる

もう一つは、アメリカからのグループです。2023年に開催された北海道アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)の際、私たちが企画した「みちのく潮風トレイル」のプレ・サミット・アドベンチャー(PSA)ツアーに参加した方の一人が、今回改めて企画してくれたツアーでした。

その方は、アドベンチャートラベル系ブロガーの方で、今回は自身のフォロワーを中心に12人が参加。年齢層は30代半ばから80歳までと、幅広い構成でした。

初対面同士でしたが、価値観の近い方が集まっていたこともあり、すぐに一体感が生まれました。気仙沼のお祭りと重なり、そこでもらったご当地キャラクターのマスコットをお揃いでリュックにつけて歩いたり、最終日はハロウィンの仮装をして地元のお店でサービスしてもらったりと、自然な交流も印象的でした。

ツアー最終日はハロウィン。地元の店での交流も自然に生まれる▲ツアー最終日はハロウィン。地元の人との交流も自然に生まれる、思い出深いひとときに

このツアーでは、歩くだけでなく、震災の経験を地域の方から直接聞くプログラムを多く取り入れました。震災を経験したリンゴ農家さんの体験談を伺ったり、塩づくり体験や陸前高田の震災遺構を自転車で巡ったりと、地域の暮らしや記憶に触れる内容です。満足度は非常に高く、「また1年おきに続けたい」と言ってもらえています。

震災を経験した地域の方の話に耳を傾けるプログラム。写真はリンゴ農家さんを訪ねたときの様子▲震災を経験した地域の方の話に耳を傾けるプログラム。写真はリンゴ農家さんを訪ねたときの様子

 

震災体験も景色の良さも、実感をもとに伝える旅へ

― ケイティさんはオーストラリア出身ですが、その目線をどのような時に活かせていると感じますか。

商品プランを考える際、オーストラリア出身というバックグラウンドは大きく影響していると思います。日本と海外では、旅のスタイルが根本的に違うと感じているからです。

日本では限られた時間で効率よく回る旅が一般的ですが、海外の方は休暇として旅をするため、時間の使い方が比較的ゆったりしています。移動や体験を詰め込みすぎず、「余白」や「考える時間」を大切にしたいという声も多いので、プランはあえて入れすぎないよう意識しています。常に「自分が旅行者だったらどう感じるか」を基準にしています。

もう一つ大切にしているのは、自分自身が体験して「良かった」「心に残った」と感じたものをツアーに取り入れることです。多少私のテイストは入りますが、実感を持っておすすめできる体験でなければ、海外のお客様には伝わらないと思っています。

オーストラリアの旅行会社とも、ツアーを作って終わりではなく、毎年見直しを重ねています。担当者が訪日し、実際に体験した上で意見を出し合い、内容を少しずつアップデートしています。

これまでに私の体験からツアーに取り入れた具体的な事例でいうと、震災をテーマにした体験です。たとえば、当時中学生で津波から避難した経験を持つ女性が、語り部として一緒にトレイルを歩くプログラムがあります。彼女はUターンして岩手に戻り、この活動を始めたばかりでしたが、私自身が話を聞き、「これは海外の方にも伝わりやすい」と感じました。

重くなりすぎず、実体験として震災の話を聞けることに加え、本人に直接質問できる点も大きな特徴です。海外のお客様にとって、ニュースだけでは分からない震災学習につながる体験になっています。その日は彼女が作ったお弁当を一緒に食べるのですが、現在はパティシエとして働いている背景を知った上で味わう食事は、体験としても好評です。和食が続く旅の途中で、洋食になる点も良いアクセントになっています。

他にもカヤックなどのウォーターアクティビティなども取り入れました。城ヶ浜や八戸の蕪島(かぶしま)周辺などで、自分たちが歩いてきた海岸線を「海から見る」体験をしてもらいます。同じ場所でも視点が変わると、景色の印象はまったく違います。これは海外の方にもとても評判が良いですね。

カヤック体験の様子▲カヤック体験の様子。歩くだけでなく、海からも風景を味わう

 

“地域に無理なく受け入れてもらう”関係構築の積み重ね

― ガイドのお仕事をする上での心がけを教えてください。

ガイドをする上で一番大切にしているのは、沿岸地域で暮らす地元の方々に、できるだけ負担をかけないことです。みちのく潮風トレイルでは、震災を経験された方が今も生活している場所を歩きます。興味を持って話を聞くことは大切ですが、相手の気持ちや日常を乱してはいけないと考えています。そのため、お話を伺う際は事前に時間を確認し、長くなりすぎないよう配慮しています。

地域の方との関係づくりも慎重に進めています。沿岸出身で震災学習に長く関わってきたメンバーと連携し、日頃から丁寧にコミュニケーションを重ねています。私自身も何度も顔を合わせ、信頼関係が築けた方のもとへだけ、お客さまを案内しています。

旅行者にとって地元の方と直接話す体験は貴重ですが、あくまで双方に無理のない関係であることが前提です。地元の方からは「話せる機会がありがたい」「経験が誰かの役に立つなら嬉しい」と言っていただくこともありますが、そうした関係を築くまでには時間をかけて向き合ってきました。

私が目指しているのは、旅行者と地元の方の双方にとってプラスになる関係です。交流を通じて生活が少しでも豊かになり、観光が地域にとって持続的な力になること。震災や高齢化といった課題を抱える東北だからこそ、観光を通じて若い世代が地域に残る流れをつくれたらと思っています。

「地元の方に無理なく受け入れてもらう」ことを大切にするケイティさん▲「地元の方に無理なく受け入れてもらう」ことを大切にするケイティさん。旅の交流は信頼関係の積み重ねから

 

「知られていない日本」を案内するガイドのやりがい

― ケイティさんがガイドをしていて感じているやりがいについて教えてください。

一番のやりがいは、私自身が大好きな岩手の沿岸エリアを、お客さまと一緒に歩きながら紹介できることです。現在は、内陸部である盛岡に住んでいますが、休みの日にも沿岸に出かけてパドルウォークやカヤックを楽しむほど、純粋にこの場所が好きなんです。北海道に住んでいた頃から何度か訪れていましたが、実際に暮らしてみて、宮古や山田の透明感のある海の美しさに改めて惹かれました。

特に、ツアーの終わりにお客様から「ここが一番良かった」と言ってもらえると、本当にガイドをやっていて良かったと感じます。

また、「日本にこんな場所があるなんて知らなかった」という声もよく聞きます。日本というと、東京や大阪、京都の印象が強い分、青く澄んだ海や人の少ない「みちのく潮風トレイル」の景色に、皆さん驚かれます。「この景色を独り占めできる感じがいい」と言っていただくことも多く、静かな自然の中を歩く時間そのものが特別な体験になっているのだと感じます。

 

泊まれる場所がないという現実。だからこそ“旅の拠点”を地域に

― 今後、取り組んでいきたいことについて教えてください。

将来的には、トレイル沿いに「泊まれて、体験もできる拠点」となる施設をつくれたらいいなと思っています。みちのく潮風トレイルのなかでも、とくに北部エリアでは宿泊施設が不足しており、それが大きな課題です。

修学旅行などと重なる時期は宿の選択肢が限られ、トレイル自体は日々場所を移動していくにもかかわらず、同じ宿に連泊し、そこから移動するケースも少なくありません。時間や体力の負担も大きく、「ここで泊まれたらいいのに」と感じる場面は多いです。ホテル業界で働いてきた経験もあり、宿泊と体験を組み合わせた拠点づくりは、今の活動の延長にあると感じています。

とはいえ、必ずしも自分が運営することにこだわっているわけではありません。同じ思いを持つ方がいれば、ぜひ応援したいです。トレイルを軸にした拠点が増えること自体が、地域の価値につながると思っています。

また、直近では、みちのく潮風トレイルの中でも八戸〜宮古に集中している人の流れを、さらに南側へ広げていきたいと考えています。アクセス面の課題はありますが、南側にも魅力的な場所やストーリーがたくさんあります。気仙沼まで足を延ばすツアーも増えてきており、今後は相馬(福島)の方まで南へと広げていきたいですね。

バイクツアーのガイドをするケイティさんの様子

 

観光に必要なのは特別さよりも視点。地元の日常こそ、旅人の心に残る

― 観光の現場に立つお立場から、今この業界に関わっている方、そしてこれから観光業界を志す方に向けて、伝えたいメッセージがあればお願いします。

まず、東北、とくにトレイルを案内できる英語ガイドは、まだまだ圧倒的に足りていません。片手で数えられるほどしかいないのが現状です。英語ができて、自然や地域に興味がある方がいれば、ぜひ声をかけてほしいです。

またもう一点は、「一緒に日本を盛り上げていきましょう!」ということです。魅力は、意外と目立たない場所に隠れています。地元の方ほど「うちは特別なものはない」と言うことが多いですが、私たちにとって当たり前の景色や暮らしが、海外の方にとっては強く心に残る体験になることが本当に多いです。ぜひ、いつもとは少し違う目線で地域を見てみてほしいなと思います。

 

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