インタビュー

インバウンド成功事例から学ぶ、岐阜県高山市の取り組み ~「市民」の幸せを一番に考えることが行政の役割~

2017.11.07

堀内 祐香

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人口9万人に対して5倍以上に相当する、年間46万人もの外国人が宿泊する岐阜県高山市。なぜ、高山市はこんなにも外国人の心をつかんで離さないのか。
前編では、同市で長年海外戦略を担ってきた田中氏に、“地域の魅力・集客・受入環境整備”の3つの視点から、インバウンドの取り組みを2回にわたって紹介。
後編(本編)では、行政の担当者がインバウンドに取り組む際に必要な、心構えや覚悟、官民連携や地域連携をするにあたってのコツをお伺いする。

過去の記事:
Part1:岐阜県高山市のインバウンド戦略に学ぶ ~なぜ人口の5倍以上、46万人の外国人を集客できるのか~
Part2:岐阜県高山市のインバウンド戦略に学ぶ ~訪日客を集客する動画作成のコツ~

 

<目次>

  1. 地域の魅力の見極めのコツ、それは「今あるもの」で勝負する
    1-1.地域の魅力を絞り込んだうえで「普段の暮らし」をいかに魅せるか
    1-2.自治体の方が見せたいものと、外国人観光客が見たいものは違う
  2. プロモーションにあたっての高山市のこだわりとは?
    2-1.一番大切なことは、何においても「人間関係」
    2-2.実績を出すためのコツは、積極的な民間企業を応援すること
    2-3.プロモーションビデオは最大3分 動画制作も「絞り込み」が必須
  3. 受入環境整備における行政の役割は『インフラ整備』
    3-1.高山市のコンセプトは「一人歩きできる街づくり」 
    3-2.MAPの言語はできるだけ豊富に、ただし街中の看板はシンプルに
  4. インバウンドに本気で取り組むならば、真剣さと覚悟が必要!
    4-1. このままでは…という危機感が高山市の原動力に
    4-2. 「継続は力なり」5年後10年後を見据えた計画が結果へつながる?!
  5. インバウンド対応にあたっては、民間企業の巻き込みが必須!
    5-1.行政の存在意義は『地域住民の幸せ』を追求すること
    5-2.行政ができることは、「売るサポート」実際に売るのは民間企業
  6. 訪日外国人の集客には、周辺地域との連携が必要不可欠!
    6-1.競争ではなくて共生! 周辺エリアとは積極的に連携を
    6-2.考え方の基本は、「外国人視点」連携先を選ぶ際のポイントは?
  7. 最後に「インバウンド成功の鍵は、そこに住む人々」

 

 

行政がインバウンドに取り組むに際しての心構え、連携が必須の理由は?

4.インバウンドに本気で取り組むならば、真剣さと覚悟が必要!

4-1.このままでは…という危機感が高山市の原動力に

現在は、人口の5倍以上の外国人が宿泊するようになった高山市ですが、インバウンドを重要視するようになったきっかけは「危機感」の一言に尽きます。

2005年に高山が近隣の市町村と合併した時の人口は9万7千人でしたが、2016年には、8万9千人まで減少しました。たった11年間で8千人、1年間に700人以上の人が、高山市からいなくなったのです。また、高山市内の総生産額は2005年の3581億円に対して、2013年は2271億円。8年間で210億円も減少しています。若い世代の高山離れに加え、高齢化が進んでおり、今後も経済規模の縮小が進むことは明白で、これらが私たち高山市の抱える課題であるという共通認識があります。

一方で、高山の核となる産業は観光です。“観光客が高山市内を歩く姿が日常的に見られる”というのは当たり前の光景で「高山が生き残る道は観光しかない」という意識が、昔から人々に根付いています。

日本人観光客だけをターゲットにしていても限界がありますが、外国人観光客には今後伸びしろがあると感じています。

本気でインバウンドに取り組むと腹をくくった高山市長の決意に従い、市役所の職員が一致団結して本気で取り組む姿を見せることで、市民の方々の理解を徐々に得ることができました。その結果、今は官民一体となって取り組むことができているのだと感じています。

 

4-2.「継続は力なり」5年後10年後を見据えた計画が結果へつながる

高山市がインバウンドに取り組み始めたのは、今から30年以上も前になります。その間、民間と行政が一緒に取り組みを続けてきました。最近では1996年頃から本格的に海外でのプロモーションを開始し、現在の市長が新たに就任した翌年の2011年には、インバウンド、海外への物販、海外との交流を一体的に行うために海外戦略部署を立ち上げました。このように、高山は長年にわたって一貫してインバウンドに取り組み続けています。高山の地域振興のためには外国人観光客の誘客に取り組む必要があると腹をくくり、実践し続けてきたからこそ、人口の5倍以上の外国人に高山で宿泊してもらえるようになりました。

インバウンドに関しては、5年後、10年後を見据えて、計画を立てて実行することが必要不可欠です。

 

5.インバウンド対応にあたっては、民間企業の巻き込みが必須!

5-1.行政の存在意義は『地域住民の幸せ』を追求すること

「長期的な視点を持ってインバウンドに取り組む」と腹をくくった行政の私達が忘れてはいけないことは、「行政の役割を果たす」ことです。では、行政の存在意義とは何でしょうか。それは、「その地域に住む人々の暮らしを守る」ことだと考えています。地域の方々が「今日も1日良かったね」と感じて暮らせるように、サポートをするのが行政の役割だと考えています。

そのために行政がすべきことは、市民の声を聞くことです。つまり、そこに住む人々が何を課題と感じているのか、まずは耳を傾けることです。もし、市民の話を聞いて、インバウンド対応をしなくても、その地域がしっかりと稼いでいけるのであれば、特に施策を打つ必要はないと思います。あくまでもインバウンドは地域の課題を解決する一つの手段だと考えています。

 

料理体験の様子

また、インバウンド対応を始めようと行政が一生懸命取り組んだとしても、その思いと地域住民の思いがかけ離れていると、うまくいきません。「あ、それいいね。面白そう。やってみよう」と思う市民の方が現れ始めたら、積極的な意識を持つ市民の方と一緒になって外国人対応をはじめてみるとよいのではないかと思います。

その地域が持つ強みを見極め、それに特化した魅力を打ち出していくことこそが、行政の役割だと思います。

 

5-2.行政ができることは、「売るサポート」実際に売るのは民間企業!

先ほど、行政の役割は、市民の暮らしを守ることだ、とお伝えしましたが、そのためには、稼げる地域でなければいけません。仮に観光客の方に来ていただいて、楽しんでいただいても、そこで消費をしていただけなければ、意味がありません。

稼げる地域になることが大切ですが、行政は、肝心な「売り物」を持っていません。宿泊施設も、飲食店も、お土産屋も、観光施設も、外国人による消費が生じるのは、民間企業。

そのため、「売る」のは民間の方々の役割です。行政ができることといえば、売りやすい環境を整えることだけです。

実際に売るかどうかは民間の方々次第です。行政が売るサポートをし、民間の方が実際に売る、という役割を明確にし、民間の方々が当事者意識を持って取り組むことが大切です。

 

Part4(最終回)では、高山市がどのようにして近隣エリアと連携をしてきたのか、具体的な事例とともに紹介する。

Part4(最終回)へ続く

 

photo_tanaka160rv高山市役所 企画部 部長 田中明 氏

1961年岐阜県県高山市生まれ。
大学を卒業後、都内商社に勤務し貿易を担当。
昭和62年、高山市役所入所。16年間の国際交流担当を経た後、教育委員会、久々野支所次長、地域振興室長(課長級)、地域政策課長を務め、平成23年4月から6年間、海外戦略部門の部長を務める。

 

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