インバウンドコラム
中小企業のまち大田区からはじまる ものづくり日本再興プロジェクト
著者:辻村 裕寛
出版社:ダイヤモンド社
本書では、高精度な加工技術で日本の製造業を牽引してきた東京・大田区の製造企業が、イノベーションを起こし、新しいビジネス基盤構築を進める6年間の活動の軌跡が、詳細に紹介されている。
なお、著者の辻村裕寛氏は(株)日立コンサルティングに勤務し、2016年から6年間、プロジェクトマネージャーとして当取り組みに参画。企画構想の立案から実行までの責任者として、プロジェクトを推進した。
ものづくりのまち大田区を支える大きな基盤は、複数の製造業の集積地という強みを生かして、近隣の同業者が構築するネットワークにある。これまで、特定の技術に強みを持つ複数の専門業者同士が協力して1つの案件に対応する「仲間回し」を通じて、切磋琢磨や協力しながら技術力を磨き、競争力を高めてきた。
ところが、ITバブルの崩壊やリーマンショック、東日本大震災など度重なる逆風により、工場は減少を続け「仲間回し」が維持できないケースが増加していた。
こうした状況を脱却するべく立ち上がった今回のプロジェクトでは、1)「仲間回し」再構築に向けたコンソーシアムの立ち上げ、2)「デジタル化」と「下請けから提案型へのモノづくり改革」によるイノベーション、の2つを軸に据えている。
この本のテーマは「大田区の製造業のイノベーション」であり、一見すると観光業とは関係ない分野のように見える。ただし、案件受注のために、複数の中小規模の事業者が競争や協力する必要がある点、下請けから提案型へ付加価値の高い商品やサービス作りが重要である点、業務効率のためにも、デジタル化が欠かせない点など、両者に共通するエッセンスが多数ある。
本書を通じて、改めて地域における観光、インバウンド推進にあたり、DMOなど地域のかじ取り役となる組織が重要な役割を担うことを実感した。と同時に、DMOが存在意義や役割を持ち、明確な評価指標を持つことも、大切になるだろうと痛感させられた。
大田区プロジェクトは立ち上げから6年が経過し、いくつかの成果を出したものの、取り組みは道半ばであるが、プロジェクト推進にあたり直面する様々な課題も、共感できる内容が多い。
大田区の取り組みとの共通点を探しながら、地域のインバウンド推進において、何が不足しているのか、今後何が必要なのかを知るきっかけになるのではないか。DMOなど、地域のかじ取り役となる組織に所属する方に読んでいただきたい1冊だ。
文:株式会社やまとごころ 堀内 祐香
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