インバウンドコラム

観光地の二次交通をどう変える?特定小型原付がもたらす“歩く以上、車未満”の新しい移動

2026.02.05

楠田 悦子

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観光地の移動課題に対し、バス、タクシー以外の選択肢について「何か手を打つ必要がある」と感じながらも、具体策を描き切れずにいる自治体は少なくありません。二次交通は重要だと分かっていても、導入コストや安全性、運用体制を考えると、踏み出しにくいテーマでもあります。そうした中で、2023年の法改正により位置づけられた特定小型原付は、比較的低いハードルで検討できる新たな選択肢として注目されています。

本稿では、特定小型原付がどのような観光地と相性が良いのか、車両タイプと共に解説するとともに、導入前に整理しておきたい制度・運用面でのポイントを見ていきます。

 

なぜ今、観光地の「移動」が問題になっているのか

観光地における長年の課題の一つである「二次交通」。「最寄り駅から徒歩では遠い」「坂道が多い」「バスの本数が少ない」「タクシーがつかまらない」といった課題は、地方部に限らず都市型観光地でも共通して見られます。インバウンド観光の回復・拡大が進む中で、土地勘のない観光客でも直感的に利用できる移動手段の整備は、満足度や回遊性、滞在時間の向上に直結する重要なテーマとなっています。

また、夏の猛暑で自転車を漕ぐと汗をかくので乗りたくない。観光客は便利さを求めるので自転車はちょっと。「電動キックボードは安定感がないので、若い人には良いがそれ以外の方にとっては怖い」といった声をよく耳にします。

こうした背景のもとで注目されているのが、2023年の道路交通法改正によって新設された「特定小型原付」です。特定小型原付は電動キックボードのイメージが強いかもしれませんが、近年は着座式や三輪・四輪など、安定性を重視した車両も登場しており、観光地の新たな移動手段として可能性が広がっています。電動アシスト自転車のようにスッとこぎ出せて、スクーターのように座れて、しかも免許不要。自転車やクルマより気軽に移動できる観光地の“ラストマイルモビリティ”としてうってつけです。

特定小型原付出典:警視庁

 

特定小型原付とは何か?観光で使われ始めた理由

特定小型原付とは、2023年の法改正により定義された新しい原動機付自転車の区分です。主な特徴は以下の通りです。

特定小型原付原動機付自転車は、
・16歳以上で免許不要
・最高速度 20km/h
・特例特定小型原付は6km/hで歩道走行も可能

16歳以上なら免許がなくても乗れる気軽さが魅力。駅から少し離れた坂道の多い観光スポット、街中の周遊まで、徒歩や自転車よりラクに、クルマより自由に移動できるという、観光地での使い勝手の良さが大きな特徴です。

車両のタイプは一つではなく、現在は大きく次のように分類されます。
・立ち乗りの電動キックボード型
・サドル付きの着座式(二輪)
・安定性を重視した三輪・四輪タイプ

左より、MU 出典:パナソニックサイクルテック/NFR-01 出典:glafit /SUZU-RIDE2 出典:スズキ

特定小型原付が観光地と相性が良い理由は、コンパクトで静音、低速運用が可能で、免許が不要という点にあります。自転車よりも体力的な負担が少なく、クルマほどの駐車スペースやインフラを必要としないため、観光地の環境制約とも親和性が高い移動手段といえます。

 

観光地にとって何が変わる?特定小型原付の導入効果

特定小型原付を導入するメリットは、観光客の回遊性向上、高齢者・訪日外国人のアクセシビリティ向上、公共交通の補完機能などが挙げられます。

徒歩では行きにくい距離や坂道のあるエリアでも、移動の心理的ハードルが下がることで、立ち寄り先が増え、滞在時間の延長や消費機会の拡大につながります。

また、免許不要で操作が比較的シンプルな着座式や安定型の車両は、立ち乗りに不安を感じる高齢者や、日本の交通事情に不慣れな訪日外国人にも受け入れられやすい特徴があります。「誰でも使いやすい移動手段」として、観光地の受入環境整備に寄与します。

さらに、バス路線の縮小や本数不足が進む中、特定小型原付は既存の公共交通を補完するラストマイル交通として機能します。シェアリングサービスやMaaSと組み合わせることで、より柔軟な移動の選択肢を提供できます。

 

実際どう使われている?観光地での導入事例

・都市型観光地で広がるシェアリング活用(Luup)

電動キックボードや電動アシスト自転車などの小型モビリティを、アプリで自由に借りて返せるシェアサービスを全国で展開しているLuup。ポート数は1万5300箇所以上、アプリダウンロード数は500万を超え、展開エリアは20都道府県、合計68市区町村に拡大しています(2025年11月現在)。

加えて、立ち乗りが不安な人でも使いやすい着座式の「シートボード」の導入も2025年11月に横浜から開始しました。坂の多い街でも安定して移動でき、観光地や商業エリアを快適に回遊できるのが特徴です。多様なモビリティを組み合わせ、誰もが移動しやすい都市づくりを進めています。

・坂道の多い地域で活きる着座式モデル(glafit)

glafit(グラフィット)は、和歌山から誕生した日本発のモビリティベンチャーで、特定小型原付市場を切り開いてきたパイオニア的存在です。自転車とバイクの魅力を融合した着座式モデルの「NFR-01 Pro」「NFR-01 Lite」は、安定性が高く観光客でも乗りやすいのが特徴。坂道の多い地域でも力強い走行ができ、徒歩では行きにくい観光スポットへのアクセスを大きく広げます。

その扱いやすさからシェアリング利用との相性も良く、幅広い世代に受け入れられやすい点も強み。glafit の特定小型原付は、地域観光の回遊性を高め、“歩く以上・車未満”の新しい移動体験を提供してくれます。

さらに自転車をはじめとするモビリティのシェアリングサービスを展開している「HELLO CYCLING」でもglafitの特定小型原付NFR-01 Shが導入されていています。

特定小型原付glafit NFR-01 Sh 出典:glafit

・「自転車感覚」で導入できる新しい選択肢(Panasonic MU)

2026年2月発売となるパナソニック サイクルテックの「MU(エムユー)」は、長年自転車づくりを続けてきた同社ならではの安全性と信頼性が詰まった、着座式の特定小型原付です。創業者・松下幸之助以来の“自転車へのこだわり”を受け継ぎ、フレーム強度試験やブレーキ性能試験など、自転車メーカー基準の厳しい品質検査をクリア。電動アシスト技術を背景に、坂道でも安定して走れる力強さが特徴で、全国の自転車販売店で修理・メンテナンスが可能なように配慮して作られています。自転車販売店で、特定小型原付が一緒に販売される日が遠くないかもしれません。

特定小型原付パナソニックサイクルテック「MU」(写真:筆者撮影)

<実証実験・次世代モデルの動き>

大阪・関西万博で展示されたglafitの「WAKUMOBI」や、スズキの「SUZU-RIDE2」など、三輪・四輪の安定型モデルも登場しています。これらはもともと免許返納後の高齢者の移動課題を背景に開発されたものですが、高齢者のみならずその世代でも乗れて、観光地の“ラストワンマイル”や広いエリアの周遊に適しています。まだコンセプトで市販前の段階ですが、観光シェアリングや地域交通の補完として導入可能性が高く、幅広い世代が安心して使える次世代モビリティとして注目されています。

特定小型原付SUZU-RIDE2(写真:筆者撮影)

 

導入前に知っておきたい注意点と運用のポイント

特定小型原付は免許不要で利用できますが、16歳未満の運転は禁止されています。法律上は“努力義務”ですが、安全性の観点からはヘルメットの着用が強く推奨されています。事故時の頭部損傷リスクは大きく変わるため、実質的には必須装備と捉えておくと良いでしょう。

またすべての特定小型原付が歩道を走れるわけではありません。ルールを知らずに歩道を走行すると、重大な事故や罰則につながりかねません。歩道を走るには、次の条件を満たす必要があります。車両が「特例特定小型原付」として型式認定されていること、時速6kmの“歩道モード”に切り替えていること、歩行者を最優先し、徐行することです。

そして、車両のみならず道路インフラにも注意しましょう。特定小型原付が向いている地域は、自転車が安全に走れる環境がある地域です。歩行者で混雑して、歩行者と自転車が歩道を走ったり、接触してしまったりするような地域には向きません。若年層中心なのか、高齢者が中心なのかによって、立ち乗り型、着座式、三輪・四輪といった車両選択は異なります。

このように新しい乗り物だからこそ新しいルールを頭に入れてうまく使っていく必要があります。

特定小型原付出典:警視庁

<特定小型原付の主な注意点>
1. 16歳未満は利用禁止
2. ナンバープレートの取付や自動車損害賠償責任保険の加入が必須
3. ヘルメットは努力義務だが、着用が望ましい
4. 車道では最高速度20km/h、歩道は6km/h(歩道を走れるのは「特例特定小型原付」のみ)
5. 酒気帯び・スマホ操作・イヤホン利用は通常の原付と同様に禁止
6. 車道は左側通行 歩行者との事故は“車扱い”で過失が重くなる
7. 自賠責保険の加入は必須

 

観光地の移動はどう変わる?特定小型原付のこれから

特定小型原付は、単なる新しい乗り物ではなく、観光地の二次交通という課題に対する現実的な選択肢の一つになりつつあります。今後は、車両のさらなる多様化や、シェアリング・MaaSとの連携、観光施策や地域交通政策との組み合わせにより、地域に根づいた活用が進んでいくと考えられます。観光地の移動を「点」ではなく「面」で捉え直すとき、特定小型原付は「歩く以上、車未満」のちょうどよい存在として、地域の可能性を広げてくれるはずです。

 

著者プロフィール:

モビリティ・ジャーナリスト 楠田 悦子
心豊かな暮らしと社会のため、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境に関する活動を行う。モビリティビジネス専門誌『LIGARE』創刊編集長を経て独立。国土交通省の交通政策、MaaS関連の委員、スタートアップのナレッジ共有『DIMENSION NOTE』元編集長を歴任。グロービス経営大学院大学英語MBA卒。編著に『「移動貧困社会」からの脱却:免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)など。

 

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