インタビュー
観光業界では人材不足が課題と言われる一方、「やってみたい人」が最初の一歩を踏み出しづらい現実もある。
多言語人材マッチングを手がけるスタートアップ「Reelu」で、インバウンド事業を手がける事業者と多言語スキルを活かして働きたいワーカーをつなぐカスタマーサクセスを担当する、株式会社Reeluの伊藤駿さんは、自身もツアーガイド経験を持ちながら、現場視点で人材支援や研修づくりに取り組んできた。
今回は、観光現場で求められる人材像や、“挑戦しやすい入口”をどうつくるかについて話を聞いた。

“現場に合う人”をどうつなぐか、多言語人材マッチングの現場
― まずは、Reeluについて教えてください。
多言語人材の即戦力マッチングサービスを展開しています。インバウンド対応や語学力が求められる現場へ、必要なタイミングで1時間単位から人材をアサインできるのが特徴です。
案件は、他社が催行する訪日客向けツアーのガイド業務をはじめ、飲食店での接客、宿泊施設や免税店でのインバウンド対応、観光案内所でのコンシェルジュ業務、国際展示会やコンベンションでの通訳、空港送迎時のアテンド、イベント・催事での運営サポートなどさまざまです。
▲ツアーガイドや接客、通訳、空港アテンドなど、多様なインバウンド案件を取り扱う(Reelu公式サイトより)
また、自ら訪日客向けツアーの造成・運営を行っており、自社ツアーのガイド募集も行っています。
求人はプラットフォーム上で募集されるものに加え、Reeluに登録している多言語人材(登録ワーカー)へ限定公開されるケースもあります。ワーカー登録時には、日本語と対応言語での動画登録が必須となっており、語学力だけでなく、接遇力や人柄も含めて確認を行っています。
登録ワーカー数は2026年5月時点で約5000名。外資系企業経験者や海外駐在経験者、学生など、幅広い方が活躍しています。
現在は北海道から沖縄まで全国で展開し、対応言語も8言語ほどに広がっています。人手不足対応にとどまらず、訪日客体験や現場運営の質向上につながる支援を目指しています。
― 伊藤さんご自身は、Reeluの中でどのような役割を担っているのでしょうか?
私はカスタマーサクセスとして、主にインバウンド対応を行う事業者とワーカーのマッチングを担当しています。事業者から依頼を受けた後、「どんなスキルが必要か」「どんな人材が現場に合うか」を整理し、登録しているワーカーへ案件共有や応募者の調整、アサインまでを行っています。
案件は、ツアーガイドだけでなく、忍者ショー施設や築地の訪日客向けポップアップ店での接客対応などさまざまです。そのため、自分自身でも現場へ足を運び、「現場で何が求められているのか」を理解することを大切にしています。実際に現場を体験しながら、必要なスキルや働きやすい導線を確認し、マッチングに反映しています。
また、現場で感じた課題をもとに、事業者向けにオペレーション改善の提案を行うこともあります。事業者側とワーカー側の両方を理解しながら、より良いマッチングや仕組みづくりにつなげていきたいと思っています。
さらに、自社ツアーに関しては、ワーカー向けの研修やマニュアル作成、ツアーガイドテストなども担当しています。浅草でツアーテストを実施したり、オンラインで研修を行ったりしながら、「初めてでも安心して働ける環境づくり」を意識しています。こうしたガイドテストを通過した方が、自社ツアーだけでなく、他事業者のツアー案件も担当していく形です。

「英語力を活かしたい」から観光スタートアップの現場へ
― そもそも、伊藤さんはどのような経緯でかかわるようになったのでしょうか?
私は2025年3月頃に、Reeluの登録ワーカーとしてツアーガイドを始め、その後インターンを経て、同年10月から社員として働いています。
もともと私はかなりの「言語オタク」なんですが、高校まではほとんど英語に触れておらず、理系寄りでした。大学入学時がコロナ禍だったこともあり、「何か将来につながることをやってみよう」と思って独学で英語を始めたのがきっかけです。YouTubeで海外動画を繰り返し見ながら、シャドーイングや音読を続けていました。加えて、言語交換アプリで知り合った海外の方と実際に会話するなど、少しずつスピーキングにも挑戦していきました。
その後、大学の留学プログラムでオックスフォード大学に行ったことを機に、海外や言語の面白さにハマりました。大学2〜3年時にはヨーロッパを中心にバックパッカーとして約30カ国を回っています。
▲大学時代には約30カ国を訪問。海外や言語への関心を深めていった
帰国後は、「英語を活かして人と関われる仕事がしたい」と思い、Reeluのツアーガイド募集に応募しました。実は、ヨーロッパ旅行から帰国した翌日に、初めてガイドの仕事をしています。
最初は「英語を使いたい」という気持ちが強かったのですが、実際にガイドをすると、お客様の大切な時間に関われることに大きなやりがいを感じるようになりました。特に印象に残っているのは、イタリア人カップルのプロポーズをサポートしたツアーです。事前に何度も打ち合わせや下見を重ね、当日無事に成功した瞬間は、私も泣きそうになりました。
その後、代表から声をかけてもらい、インターンを経て社員になりました。私には、「言語を活かせる機会をもっと増やしたい」という軸がずっとあり、大手企業からも内定はいただいていましたが、一番やりたいことに近かったのがここでした。
休学をしていたため、現在も大学には在籍していて、卒業研究ではネイチャーガイドの育成について研究しています。地方ではネイチャーガイドの担い手不足も課題になっているので、若い世代がどうすれば観光や自然ガイドに関わりやすくなるのかを、仕事と重ねながら考えています。
ガイド経験から見えてきた 働きやすい現場づくりのヒント
― 多くの事業者やワーカーと関わる中で、日々大切にしていることは何でしょうか?
一番意識しているのは、関わるすべての方にリスペクトを持って接することです。私は、事業者へのヒアリングから、ワーカーとの調整、案件のアサイン、研修など幅広く担当しているので、本当に多くの方と日々やり取りがあります。だからこそ、誠実に向き合い、相手を理解しようとする姿勢は大切にしています。
事業者の方と話す際は、「どんな人材が必要か」「何を大切にしているか」をかなり細かく確認しています。例えば、浅草の着物店では、英語力以上に「海外の方へ物怖じせず話しかけられるか」が重視されていました。一方で、グローバルカンファレンスの運営スタッフというポジションでは、落ち着いたコミュニケーション力が求められます。だからこそ、「英語ができる人」ではなく、「その現場に合う人」を考えることが大切だと思っています。そのためにも、現場に足を運び、空気感や求められていることを理解するようにしています。
また、ワーカーとのコミュニケーションも大切にしています。求人の募集や事前説明、研修などを通じて、「どこに不安を感じるのか」「どんな情報があれば安心して働けるのか」を常に考えています。「Reeluだから安心して挑戦できる」と思っていただける環境をつくることを心がけています。
▲説明会や研修を通じて、未経験者でも挑戦しやすい環境づくりに取り組む
― ガイド経験が、今のお仕事に活きていると感じる場面はありますか?
現在は、事業者とワーカーのマッチングに加え、自社ツアー造成やマニュアル作成なども担当していますが、自分自身がガイドとして現場に立っていたからこそ見えることは多いです。
まず、マッチング業務では、登録ワーカーの方が「初めての現場でどこに不安を感じるか」が分かるのは大きいですね。私も同じようにReeluで仕事を始めたので、「ここは事前に伝えた方がいい」「この情報がないと困るだろうな」という感覚は、自身のガイド経験があるからこそだと感じています。
また、事業者の方と話す時も、「現場で何が起きるか」という視点を持てるのは大きいですね。現場目線と運営目線の両方を持ちながら、「どうすればお客様にもっと楽しんでいただけるか」「ガイドが働きやすくなるか」を考えられるので、その経験は今の業務に活かせています。
さらに、自社ツアーにおける登録ワーカー向けのマニュアル作成時も、自らのガイド経験を踏まえて、単に情報を並べるのではなく、「当日どう動くか」「ゲストが何を楽しみにしているか」をイメージしながら作っています。どこで質問が来そうか、どう説明すると伝わりやすいかまで意識しています。
また、海外のお客様と接してきた経験は、自社ツアー造成にも活きています。例えば、日本のトイレや自動販売機、コンビニなど、日本人には当たり前でも、海外の方には面白いことが多いんです。実際にガイド中によく聞かれたことを、ツアー内容に反映することもあります。
▲自身のガイド経験が、マッチングや研修設計にも活かされている
現場理解から運営改善へ 人材支援の先にあるもの
― これまでのお仕事の中で、特に印象に残っている成功体験はありますか?
印象に残っているのは、新宿・歌舞伎町で訪日客向け忍者ショーや、忍者をテーマにした英語ガイドツアーを展開する事業者との取り組みです。
もともとその施設では、ショー受付や英語案内はReelu経由でスタッフをアサインして担当していました。一方ツアーガイド対応は同施設が直接雇用するスタッフを中心に運営していたそうです。そのため、ツアー開催日に合わせてスタッフが待機する必要があり、仮に予約がなくても人件費が発生していたそうです。また、スタッフ手配の関係で営業日も限られ、直前予約への対応も難しかったとのことです。
そこで、「ツアーガイド部分も任せたい」という相談をいただき、私たちがガイドのアサインも行うようになりました。結果として、待機コストを削減できただけでなく、直前予約にも対応しやすくなり、ツアーを毎日開催できるようになったんです。
実際に売上も伸びたと聞いており、「人材面から事業者の運営を支えられた」という実感がありました。
また、この施設には自分自身も何度も足を運び、スタッフ業務やツアーガイドも経験しました。実際に現場に入ったからこそ、「現場で何が起きているのか」を理解した上で改善提案ができたと思っています。
― 観光系スタートアップで働く中で、感じている難しさはありますか?
大変なことも多いですが、その分学びも多い環境だと感じています。
スタートアップは裁量が大きく、事業者から「こんなことはできますか?」と新しい相談をいただく機会も多いです。自分自身「できる限り応えたい」と思ってしまうタイプですが、最近は「全部を受ければいいわけではない」と感じています。
事業者、ワーカー、ゲスト、全員にとって本当に良い形なのかを考えた上で、時には「今は難しいです」と判断することも必要だと学びました。限られた人数と時間の中で、「何が本当に必要なのか」を見極めることは、今の大きな課題です。
一方で、スタートアップだからこそ、身の丈以上の挑戦をさせてもらえる環境でもあります。最近では、沖縄の観光系カンファレンスで一人で事業ピッチも担当しました。正直かなり緊張しましたが、「まだ早い」と避けるのではなく、挑戦しながら自分を成長させていく感覚に近いですね。
▲観光系カンファレンスで事業ピッチを担当。スタートアップならではの挑戦機会も多い
観光人材不足の前にある「最初の一歩」の課題
― 日々現場に関わる中で、観光業界の課題をどのように感じていますか?
観光業界では「人が足りない」とよく言われますが、私は必ずしも“人がいない”わけではないと思っています。むしろ、「やってみたい人」は多いのに、「どう始めればいいのかわからない」「自分にできるのか不安」という方が多い印象です。
実際、私もそうでした。英語を使って働きたい気持ちはあっても、「ツアーガイドってどうやってなるんだろう」と、最初はかなりハードル高く感じていました。
そのため、課題は人材不足というより、「入口の分かりづらさ」に近いと思っています。必要なスキルや始め方が見えづらいから、一歩踏み出せない方が多いんです。だからこそ、「どう関われるのか」を分かりやすくすることが大事だと思っています。
また、私は、日本に住んでいる人みんなが、ある意味「観光人材」になれるとも感じています。海外の方が求めているのは、日本の文化や暮らしそのものだからです。特別な資格がなくても、日本で生活している感覚や文化を伝えること自体に価値があると思っています。
一方で、今後特に課題が大きくなるのは地方だと感じています。現在は全国で展開しているものの、案件はまだまだ都市部が中心です。ただ、訪日リピーターが増える中で、今後はより地域性のある場所へ人が流れていくと思っています。
その時に、地方ではインバウンド対応できる人材不足がより深刻になるはずです。だからこそ、地方でも「やってみたい人」が安心して挑戦できる環境をつくり、地域で活躍できる人材を増やしていきたいと考えています。私たちが「インバウンドの人材インフラをつくる」くらいの気持ちで取り組んでいます。
「言語を活かしたい」を仕事につなげる仕組みをつくる
― 今後、どのようなことに取り組んでいきたいと考えていますか?
現在は、「こういうキャリアを歩みたい」というより、自分の実現したいビジョンや大義を軸に動いている感覚の方が強いです。私の中でずっとあるのは、「言語を学んだ人が、それを活かせる機会をもっと増やしたい」という想いですね。
これは、自分自身が言語を通じて大きな成功体験を得たからだと思っています。初めて海外に行った時、人生で初めてネイティブの方と英語で会話できたんです。その「伝わった」という感覚が、今でも心に残っています。
私にとって言語は、単なるスキルではなく、人とつながれるものです。だからこそ、「言語を活かしてみたい」と思っている方にも、そういう成功体験を届けられる機会を増やしたいと思っています。
実際のところ、Reeluでは、若い世代だけでなく、60~70代のシニア層の方も多く活躍されています。海外駐在経験を活かしたい方や、「ずっとやってみたかったことに挑戦したい」という方も多く、そういう方々が自分らしく社会と関わっている姿を見て、自分自身も多くの刺激を受けています。
そのため、年齢に関係なく、「自分のスキルや経験を活かして挑戦したい」という方が、安心して一歩踏み出せる機会をもっと広げていきたいです。
▲「言語を活かせる機会を増やしたい」という想いが、現在の仕事の原動力になっている
― 最後に、観光の現場に立つ立場から、観光業界に関わる方や、これから目指す方へメッセージをお願いします。
観光業界は、「人手不足」や「大変そう」といったイメージを持たれることも多いと思います。実際、体力的に大変な部分もありますし、働く環境もまだ改善の余地があると感じています。ただ、その一方で、お客様の大切な時間に関われる、本当にやりがいの大きい仕事でもあります。だからこそ、もっと多くの方に関わっていただけたら嬉しいです。
同時に、業界としては、待遇面の改善に加え、初めての方でも不安なく始められる仕組みやサポートなど、安心して挑戦できる環境づくりが必要だと思っています。自社としても、研修やサポート体制を通じて、「やってみたい」と思った方が安心して挑戦できる環境を整えていきたいです。
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