インタビュー

地域との関係性を旅の価値に、山形発DMCが挑む高付加価値インバウンド

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「知られざる日本」の魅力を、海外視点で世界へ発信し、旅行事業へと展開する企業がある。山形県を拠点とする「The Hidden Japan」だ。

同社は英語メディアの運営を起点に、現在は訪日外国人向けの旅行事業とプロモーション事業を展開。地域の事業者と連携しながら体験コンテンツを開発し、オーダーメイドツアーやパッケージツアーとして提供している。

地方でインバウンド向けの着地型旅行ビジネスを成立させるには、商品造成だけでなく販路開拓や地域連携を一体的に進める必要があるが、同社はその実践例の一つとして注目されている。

今回は、The Hidden Japan合同会社代表の山科沙織氏に、山形で訪日客向け旅行事業を展開するまでの経緯や、地域と連携した商品づくりについて伺った。

The Hidden Japan合同会社代表の山科沙織氏  

 

英語メディアから始まった、「知られざる山形」の世界への発信

―まず、山科さんが「The Hidden Japan」を立ち上げられた経緯を教えてください。

大学を卒業してから一般企業に1年半ほど勤め、その後はフリーランスの広報として活動していました。転機となったのは、現在のビジネスパートナーであるアメリカ人男性との出会いです。彼はもともと英語講師として山形に来ていたのですが、あるイベントで知り合い、意気投合しました。

そこで彼が「英語で山形のことを調べても、驚くほど情報が出てこない。こんなに魅力的な場所なのに、なぜ誰も発信していないんだ?」と話していました。

確かに調べてみると、英語のページは非常に少なく、あっても行政の機械翻訳のような、旅行者の心に響くものではありませんでした。それなら自分たちで、外国人の視点から山形の魅力を伝えるWEBメディアを作ろうと考え、2017年頃から準備を始め、2018年に「The Hidden Japan」というメディアを立ち上げました。

山形での山寺ツアーの様子▲Webメディアでは、山形の多面的な魅力を伝えている

― メディア運営からスタートされたのですね。そこからどのように旅行業へと繋がっていったのでしょうか。

メディアを立ち上げてからわずか1カ月後のことです。「このサイトを見て山形に来た」というアメリカからの旅行者がいたんです。自分たちが発信した情報が、海を越えて誰かの行動を変えた。そのことに強い衝撃と喜びを感じました。

それと同時に、課題も見えてきました。情報は届けることができた一方で、現地に来た旅行者の「受け皿」が圧倒的に不足していることも見えてきたんです。二次交通の不便さや、言語の壁、そして何より「何を体験すればいいのか」という具体的なプランがない。

そこで、自ら旅行業の免許を取得し、旅行者を案内する体制づくりへと踏み出しました。これが、メディアから旅行業へと発展した大きな転機です。

 
同社が展開するそば作り体験ツアー同社が展開するそばづくり体験ツアー

 

地域の営みを訪日客向け体験に変える旅行事業

― 現在の事業構成について教えてください。

現在は「旅行事業」と「プロモーション事業」の2軸で運営しており、売上の約8割を旅行事業が占めています。

旅行事業では、大きく分けて3つの形態で商品を展開しています。1つ目は地域で造成した体験コンテンツの単体販売、2つ目はテーマや季節に応じたパッケージツアー、そして3つ目が最も多いオーダーメイド型のツアーです。

オーダーメイドでは、お客様の興味関心に応じて、東北や新潟を中心に10日間から2週間ほどの行程を組み立てます。例えば「釣りがしたい」という方には漁師の船と釣りガイドを手配し、「料理に興味がある」という方には地域の料理人との調理体験や、包丁の産地や市場を巡るプランを提案します。

船とガイドを手配しての釣りツアーの様子船とガイドを手配しての釣りツアー

一方で、数日間のパッケージ商品も展開しており、お客様の要望に合わせて内容を柔軟にカスタマイズすることも多いです。

ツアー当日は自社スタッフや地域ガイドが同行し、単なる通訳ではなく、文化や背景を補足しながら伝えていきます。お客様にとって理解と体験の深度が増すことで、満足度の高い旅行体験へとつながっています。

 

ターゲットは「日本を深掘りしたい」欧米豪の個人旅行者

― 実際に利用されるお客様は、どのような層が多いのでしょうか。

メインはアメリカ市場で、次いでフランスを中心としたヨーロッパ圏です。最近は台湾やシンガポールなどアジア圏からのニーズも増えています。年代は30代から、上は90代まで非常に幅広いです。ハネムーンのカップルもいれば、3世代のファミリー、あるいは一人旅の方もいらっしゃいます。

共通しているのは、「ゴールデンルート(東京・京都・大阪)」をすでに経験した、あるいは最初からそこには興味がない、リピーター層や高感度な旅行者であることです。「ガイドブックに載っていない日本を見たい」「地域の人々の暮らしに触れたい」という強い欲求を持っています。

同社が提供するわかめツアーの様子

― 集客はどのように行っているのですか?

BtoC(直接販売)が6~7割、海外のエージェント経由のBtoBが3割ほどです。

自社のWEBサイト「The Hidden Japan」からの直接問い合わせが非常に多いのが特徴です。SEO対策というよりは、コンテンツの質を重視しています。また、SNS(Facebook, Instagram, YouTube, TikTok)での発信も強化しており、そこでファンになってくださった方が、半年から1年前ほどかけて旅行を計画し、問い合わせにつながるケースが目立ちます。

また、一度参加された方の口コミや、リピート率が非常に高いのも私たちの誇りです。ハワイのお客様で、3年間で8回も来てくださった方もいらっしゃいます。

ハワイの学生たちを受け入れたツアーの様子▲ハワイの学生たちを受け入れたツアー

 

地域との信頼関係をどう築き、体験価値を磨き続けるか

― 3年で8回!それは驚きです。それほどまでに彼らを惹きつけるものは何なのでしょう。

「地域の人とのつながり」だと思います。私たちは、お客様を単なる「観光客」としてではなく、地域の「友人」としてお迎えすることを大切にしています。そうしたことを実現するために、私たちは地域の中に入り込み、地元の方たちと日常的に関係性を築くことを重視しています。

その結果として、スタッフが介在することで、ゲストが旅の中で地元の飲み屋で店主と笑い合ったり、農家の家でお茶を飲んだりするような、予定調和ではない地域の日常そのものとの出会いが生まれています。

― なぜ、それが実現できているのでしょうか?

ただ「ガイド」としてかかわるのではなく、日常的に地域のコミュニティに関われるよう、10名強の多国籍なスタッフは全員が山形や宮城に拠点を置いています。

例えば、昨年アメリカから日本に移住して入社した女性スタッフは、もともと2年前に私たちのツアーに参加してくれた「お客様」でした。彼女は山形が大好きになり、ここで働きたいと志願してくれたんです。彼女はいま、地域の茶道教室に通ったり、地域の祭りに参加したりして、地域の人々と深い信頼関係を築いています。

地域を知り、地域を愛し、地域の方々に顔を覚えてもらう。そのプロセスがあって初めて、型にハマらない、地域の暮らしに根差したツアーが生まれるのだと信じています。

羽黒山斎館にて

 

― 地域との連携において、意識されていることはありますか?

「期待値のコントロール」と「アップデート」です。WEBサイトに掲載しても、すぐに翌日から予約が入るわけではありません。また、せっかく商品化しても、3年前の内容のままでは、今の旅行者のニーズとはズレてしまうことがあります。

ですから、私たちは常に現場をアップデートし続けています。価格設定も、地域の物価上昇やサービスの質に合わせて、職人さんたちと相談しながら適正な価格に引き上げています。地域の持続可能性を守るためにも、安売りはしません。

だからこそ、地域の事業者の方々と継続的にコミュニケーションを取りながら、価値そのものを磨き続けていくことが重要だと考えています。

 

人材確保を課題に、山形から南東北へ広げる次の一手

― 地方でDMCを運営していく上で、特に課題と感じていることはありますか?

やはり「人材の確保」です。単に英語ができるだけではなく、地域の魅力を深く理解し、事業者の方と信頼関係を築き、さらに旅行業の実務もこなせる。そうした人材を地方で確保する難しさを感じています。

一方で、現在メンバーも県外出身者が多く、最初から地域の文化や歴史に詳しかったわけではありません。旅行業の経験者も少なく、私自身も異業種の出身です。だからこそ、経験の有無よりも、前向きに学ぶ姿勢を重視しています。新しいツアーのアイディアを出したり、外国人スタッフだけでなく日本人スタッフも積極的にガイド業務に挑戦したりと、一人ひとりの成長が、地域の魅力を伝える力につながっていると感じています。そうした挑戦を後押しできる環境をつくることも、経営者としての大切な役割です。

 
ガイドとしても活躍する同社のスタッフ▲ガイドとしても活躍する同社のスタッフ
 

また彼らが安心して定住できる環境を整えることも重要な仕事です。移住に伴う住まいのサポートや、多様な働き方の許容など、試行錯誤の連続です。

 

― 今後の展望について教えてください。

大きなトピックとして、2026年に向けて山形が「ナショナル ジオグラフィック」などで注目すべきデスティネーションとして取り上げられるなど、国際的な注目度が高まっています。この波を逃さず、より質の高い受け入れ体制を整えていきたいと考えています。

また、拠点の拡大も進めています。これまでは山形が中心でしたが、東北全体のゲートウェイである仙台にも支店を構えました。宮城県内のニーズも非常に増えており、県内各地の事業者の方々と連携しながら、新たな観光コンテンツや体験型ツアーの造成に取り組んでいます。

お客様をガイドする代表の山科氏▲お客様をガイドする代表の山科氏

― 最後に、地方でこれからインバウンドに取り組もうとしている方々へメッセージをお願いします。

地域の人にとって当たり前のものでも、海外からの旅行者にとっては非常に魅力的であることが少なくありません。大切なのは、自分の地域を信じること、そして地域の方々と一緒に「ワクワク」することだと思います。

最初は小さなことからでいいんです。先日も地元の美容室の方が「外国人を迎えたい」と相談に来てくださいました。そんな小さな繋がりの積み重ねが、大きな波になります。

地方には、未だ十分に発信されていない魅力が多く残っていると感じています。それを丁寧に拾い上げ、現代の言葉で翻訳して届けていく。地道な作業ですが、その先にこそ、地域が輝き、旅人も幸せになる「観光の未来」があると確信しています。

「The Hidden Japan」という名前の通り、まだ隠されている日本の魅力を、これからも東北から世界へ、全力で伝えていきたいと思っています。

(写真提供:The Hidden Japan合同会社)

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