インバウンドコラム

【海外メディアななめ読み】第6回 :ジブリの新作と聖地巡礼

2017.05.24

清水 陽子

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宮崎駿監督が、新しい長編アニメ映画を制作すると発表し、そのニュースは世界を駆け巡りました。

米国のガジェット紹介サイト「Engadget」は『スタジオジブリの宮崎駿がこの秋に最後の映画に着手』と言う記事で、監督が引退宣言を撤回したことと、新作に関わるアニメーターと背景美術スタッフを募集していることを報じました。宮崎氏を「アニメーションのマエストロ(巨匠)」と呼び、「2020年のオリンピック前に完成させたいとの意向を示している」と伝えています。「東京五輪まで」などと聞くと、「オリパラを前に、日本にまた新たな“聖地”が誕生するのか?!」と、映画公開のその先のインバウンド事情に思いを馳せてしまいます。

海外での評価が高いジブリ作品はこれまでも、『もののけ姫』の森のイメージ作りに、監督が何度も訪れたと言われる屋久島や、『千と千尋の神隠し』の湯屋のモデルがあると噂される渋温泉などへ、外国人をいざなってきました。イギリスの大手一般紙「ガーディアン」は2015年、『日本の屋久島: 自然の不思議が溢れる島』と言う記事を掲載しています。「屋久島で最も有名なのは、島の大部分を覆っている広大で美しい森である」とし、その特徴として「樹齢数千年の屋久杉」や「苔に覆われた曲がりくねった木の根っこ」を挙げ、「しっとりとした温帯雨林を歩いていると、この島からインスピレーションを受けて『もののけ姫』が誕生したと聞いて頷ける」と、屋久島の神秘的な魅力を、映画のスチール画を添えて表現しています。

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渋温泉は、優れたデザインやコンセプトのホステルを紹介するサイト「Hostelgeeks」で、『宮崎アニメに出てくる、魔女の居る古い風呂屋に行ってきた』というショート・トラベル・コラムに掲載されました。

映画や小説などのファンが、その舞台やモデルとなった場所を実際に訪れる行為は、今では「聖地巡礼」と呼ばれていますが、そんな言葉がなかったその昔、私も一度だけ“聖地”を訪れたことがあります。それは『赤毛のアン』の舞台となったプリンス・エドワード島です。オフシーズンにふらりと一人で行ってしまった為、宿やレストランの多くは閉まっているし、島内の移動もままならないしで苦労は多かったのですが、その荒削りさが私には心地良く、小説内でアンが描写するままの自然に触れられた気のする忘れ難い旅となりました。

物語の舞台を目指す聖地巡礼者たちの心理は複雑です。私自身の経験から言うと、作品を彷彿させるものもなく、移動手段も皆無で、途方に暮れてしまうようでは困りますが、あまりに作り込まれ観光地化し過ぎていても興ざめしてしまうのです。ジブリ作品の“聖地”は、「ここがモデルだと言われている」とか「この場所が宮崎監督をインスパイヤしたらしい」とか、作品との関わり自体が謎めいていることも、作品についてもっと知りたいファンの心を掴んでいるように感じます。新しいジブリ映画の舞台はどこなのか、作品の完成を楽しみに待ちましょう。 

 

 

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