インバウンドコラム

世界の富裕層旅行会社は、日本の地域の何に価値を感じているのか?

2026.06.02

村山 慶輔

印刷用ページを表示する



日本政府観光局(JNTO)は2026年5月、大阪で「Japan Luxury Showcase 2026」を開催した。欧米豪を中心とした富裕層旅行市場向けの商談会で、海外バイヤー約40社、日本側セラー約60社が参加。商談会に加え、全国各地でファムトリップも実施され、海外バイヤーたちはその地域ならではの魅力を実際に体験した。

筆者は今回、奈良県・明日香村で実施されたファムトリップと、大阪で開催された商談会の両方を取材した。その中で強く感じたのは、海外バイヤーたちが単なる豪華さだけではなく、日本の地域体験や人との接点、手仕事、食文化などに深い関心を示していたことだ。

JapanLuxuryShowcase2026
欧米豪を中心とした海外バイヤー約40社、日本側セラー約60社が参加した「Japan Luxury Showcase 2026」

 

海外バイヤー40社が参加した「Japan Luxury Showcase 2026」

会場となったウォルドーフ・アストリア大阪では、12分の商談と3分の休憩を繰り返しながら、各テーブルで次々と商談が進んでいった。海外バイヤーたちは短い時間の中で、日本側事業者に具体的な質問や相談を投げかけていく。話題は観光地の紹介にとどまらず、地域文化、宿泊、ガイド、体験、移動導線、ターゲット像など多岐にわたった。

商談会に先駆けて、海外バイヤーが日本各地を実際に視察・体験するファムトリップも行われた。明日香村を含む紀伊山地コースのほか、東北海道、山形、富士山麓、せとうちなど、全国各地の多様なコースが用意され、各エリアでは、自然、歴史文化、食、職人技、アクティビティといった多彩な地域資源にスポットを当て、その土地の真髄に触れられる構成となっていた。観光庁の「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり」で選定されたモデル観光地などもコースに含まれ、地域側で進む受け入れ環境整備の一端を感じさせる内容だった。

 

明日香村で見えた、参加する地域体験への反応

明日香村のファムトリップで、午前中に訪れたのは、創業100年を超える醤油蔵「徳星醤油」。参加していたのは、フランス、イギリス、メキシコ、オーストラリアの旅行会社関係者たちだ。体験では、醤油づくりの工程説明を受けた後、木桶の見学、もろみ絞り、瓶詰め、ラベル作りなどを行った。最後には、自分たちで絞った醤油と販売用の醤油を豆腐につけて食べ比べる時間も設けられていた。

JapanLuxuryShowcase2026明日香村の醤油蔵では、海外バイヤーたちが実際にもろみ絞りや瓶詰めなどの体験に参加した

特に盛り上がっていたのがラベル作りだった。自分の名前を日本語シールで貼り付けたり、写真を撮り合ったりしながら、参加者たちは楽しそうな様子を見せていた。前掛けを着用し、実際に作業をすること自体にも関心を示していたのが印象的だった。

JapanLuxuryShowcase2026自分の名前を日本語シールで貼り付けながら、海外バイヤーたちはラベル作りを楽しんでいた

参加者からは、「寿司や刺身と組み合わせると面白そう」「プライベート体験にすると良さそう」といった声も聞かれた。単に見るだけではなく、作る、絞る、食べる、持ち帰るまで含めた一連の流れに、海外バイヤーたちは好反応を示していた。

 

歴史文化への関心と、その先にある地域の日常

午後は、甘樫丘展望台や高松塚壁画館などを巡りながらのサイクリング体験。明日香村は、日本国誕生の舞台ともいわれる歴史を持つ地域であり、海外バイヤーたちも古墳や壁画、当時の都の成り立ちについて、ガイドの説明に熱心に耳を傾けていた。移動中や各スポットでも質問が出ており、歴史文化への関心の高さがうかがえる。

JapanLuxuryShowcase2026甘樫丘展望台では、海外バイヤーたちが明日香村の歴史や地域文化についてガイドの説明に耳を傾けていた

その上で興味深かったのは、歴史や文化そのものだけでなく、「今この地域でどんな暮らしが営まれているのか」にも関心を示していたことだ。特にフランスの旅行会社からは、「地域の人と話してみたい」「今の暮らしを感じたい」「その土地に住む人の感覚を知りたい」という声も聞かれた。

古くから続く土地の記憶と、今そこに暮らす人々の生活がどうつながっているのか。その接点に関心が向いているようだった。ガイドや地域側の説明にも熱心に耳を傾ける一方で、地域の人と話す時間や、暮らしに触れる場面があれば、さらに印象は深まりそうだと感じた。

 

商談会で聞こえてきた、日本の再発見

明日香村で行動を共にした海外バイヤーたちは、その後、奈良など各地を訪問していた。商談会で再会した際にも、各地での体験について様々な感想を聞くことができた。

奈良での食体験については、「和牛の印象が非常に強かった」という声。有名産地だけではない、日本各地の食の奥行きに驚いている様子だった。

また、オーストラリア、メキシコ、フランスのバイヤーが、それぞれ別々に茶筅(ちゃせん)づくり体験の写真を見せながら、「とても良かった」と話してくれた。単に体験しただけではなく、誰かにその様子を見せたくなるほど心に響いていたことが伝わる。

さらに、「旅館のイメージが変わった」「日本にこれだけホテルの選択肢があるとは思わなかった」という声も多かった。高級ホテルだけではなく、小規模宿や地域固有の宿泊施設への関心も高く、日本の宿泊スタイルの幅広さそのものが、バイヤーにとって新たな発見になっていたようだ。

複数の海外バイヤーからは、「まだ知られていない日本がたくさんある」という声も。彼らが価値を見出していたのは、有名観光地だけではない。地域ごとの食、手仕事、小規模宿、そして何よりそこにある文化や暮らしそのものだった。

 

日本側セラーが感じていた手応え

商談会では、日本側セラーからも多くの前向きな話を聞くことができた。精力的に商談を進めていた参加者からは、「これだけ多くの海外バイヤーと一度に会えるのは貴重」「海外商談会より効率が良い」という効率性の高さを歓迎するコメントが相次いだ。

その理由として多く挙がっていたのが、ファムトリップ後の商談の価値だ。バイヤーが既に地域を訪れ、食べ、泊まり、体験しているため、具体的な商品造成の話がしやすいという。

JapanLuxuryShowcase2026会場では12分ごとに商談が行われ、海外バイヤーと日本側セラーによる意見交換が続いた

また、大阪のホテル関係者からは、今回の大阪開催について、海外バイヤーに実際に足を運んでもらいやすかったことに加え、視察には約20社のバイヤーが訪れたと聞いた。ホテル側にとって、商談会で話すだけでなく、現場を見てもらえることの価値は大きい。

DMC関係者からは、会津のサムライや沖縄のブルーゾーン体験など、地域固有のストーリーへの反応が良かったという指摘もあった。会場では、全国対応のNational DMCだけでなく、地域に特化したRegional DMCの参加も目立ち、地域との深い接点や専門性が重要になっていることを感じさせた。

 

都市から地方へ、富裕層を惹きつけるこれからの商品設計

今回の商談会は大阪開催だったことも特徴的だった。万博後の大阪・関西エリアは、IR開発や高級ホテル開業なども含め、富裕層旅行市場において存在感を高めつつある。

一方で、海外バイヤーたちからは、「初めての訪日旅行では東京・京都・大阪を中心としたゴールデンルート提案が多くなる」という現実的な声も挙がった。ただ、その中でも、地方の食文化や温泉地、地域体験、小規模宿などを部分的に組み込む提案は十分可能だという。リピーター層やテーマ性を持った旅行については、今回のファムトリップで得た地域とのつながりを活かし、地方提案を積極的に行いたいという声も多かった。

富裕層旅行市場では、商品情報だけでなく、「誰と組むか」「どの地域に信頼できる接点があるか」が重要になる。その意味で、ファムトリップ、商談会、ネットワーキングが一体となった「Japan Luxury Showcase」は、単なるマッチングの場を超え、日本の地域と世界の富裕層市場をつなぐ接点をつくるプラットフォームになっていた。

地域への送客がすぐに大きく広がるわけではない。地域の魅力を海外市場に届けるには、ガイドの質、ストーリーの言語化、移動や宿泊を含めた商品設計が欠かせない。 それでも、今回のように海外バイヤーが地域を実際に訪れ、体験し、事業者と直接言葉を交わしたことは、将来的な提案の幅を広げる一歩になる。世界の富裕層旅行会社が価値を感じているのは、単体の観光素材だけではなく、その土地で過ごす時間や人との接点なのだろう。今回のJapan Luxury Showcaseは、そのことを現場で実感する機会になった。

 

著者プロフィール:

株式会社やまとごころ 代表取締役 
インバウンド戦略アドバイザー 村山慶輔

神戸市出身。米国ウィスコンシン大学マディソン校卒業後、アクセンチュアを経て、2007年にインバウンド観光情報サイト「やまとごころ.jp」を立ち上げる。以来、観光事業者・自治体・DMO等に向けて、情報発信、人材育成、研修、コンサルティングを通じ、インバウンド戦略の立案・実行を支援。観光庁をはじめ、国や地域の観光政策・事業に関する委員・アドバイザー等を務め、持続可能な観光地域づくりにも取り組む。著書に『観光再生』など計10冊。やまとごころ.jpでは、観光・インバウンドの現場視点を綴る連載「観光フィールドノート」を執筆中。

▼関連記事はこちら
2026年米国のラグジュアリー旅行、投資意欲と計画性が加速。日本は人気渡航先3位に浮上

価格ではなく価値で選ばれる旅へ、現場実践者が見る「高付加価値化」の本質

最新記事