インバウンドコラム

北海道・倶知安町に学ぶ、宿泊税・計画・DMOの3つが揃って広がった「対応できる課題の幅」

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宿泊税は、導入すれば地域が変わるわけではない。使い道を描く「計画」と、それを動かす「組織」があって、はじめて「財源」が生きる。北海道・倶知安町では、2019年11月の宿泊税導入と並行して、観光地マスタープランの策定と、観光協会のDMO化を進めてきた。

当初は行政の事業が中心だった宿泊税の使い道は、6年余りを経て、DMOが機動的に課題に向き合える形へと変わってきた。計画・財源・組織の三つを組み合わせ、地域が対応できる課題の幅を広げてきた歩みをたどる。

羊蹄山と倶知安町▲羊蹄山と倶知安町(筆者撮影)

 

宿泊税の導入から、「計画・財源・組織」が揃うまで

倶知安町は、国際的なスキーリゾートとして知られるニセコひらふ地区を擁する。インバウンドが急増するなか、リゾート地が抱える課題への対応や観光振興の財源が必要だとして、町内の民間事業者も交えた議論を経て、2019年11月に全国で初めて定率制(宿泊料金の2%)の宿泊税を導入した。

導入が年度の途中だったこともあり、初年度は約1億7600万円の税収のうち約1億5100万円を後年度の事業のために基金に積み、残る約2570万円を9事業に充てた。ひらふ坂のロードヒーティングの電気代や来訪者の誘導体制の強化など、使途は行政の事業が中心で、観光協会への支援は観光案内所の機能強化にとどまった。

町は導入当初、宿泊税を安定した財源と見込んでいた。ところが直後にコロナ禍が始まり、税収は2020年度に約5200万円、2021年度に約6700万円まで落ち込む。そうしたなかでも、2020年度には「地域DMO支援事業」が立ち上がり、宿泊税からの充当は約1800万円だった。税収が落ち込むなかでも町は、一般財源を加えてDMOへの補助を続けた。

税の導入と並行して、町は二つの仕組みづくりを進めていた。一つは、行政とDMOなどの観光関係団体が協働で「倶知安町観光地マスタープラン(2020〜2031年度)」を策定したことだ。「国際競争力を持つリゾートの要件」に照らし、空間デザインの整備から住民QOLの向上まで含めて地域のあり方を描いた計画である。もう一つは、倶知安観光協会のDMO化だ。マスタープランでは、この時期に、「計画(戦略)」「財源」「組織」の三つのピースが揃ったと整理している。

倶知安町の宿泊税収の推移(2019〜2025年度)

 

地元事業者が事業を組み、官民で確かめ合う観光地経営

三つが揃っても、それだけで事業は動かない。必要なのは、地域の課題を拾い、事業として動かしていく仕組みだ。倶知安町では、誰が事業を組み、誰がそれを支え、確かめるのか。

2026年度時点で、DMOには二次交通、着地型連携、サステナブル、サマーコンテンツ、MICE、戦略的広報プロモーション、エデュケーションの七つの部会がある。部会ごとに事業計画と評価シートをつくり、それぞれの事業がマスタープランのどこに位置づけられるのかを明確にする。部会を担う業務執行理事は、DMOの職員ではない。宿泊や飲食、不動産、アウトドアなどに携わる地元の事業者が就き、正会員による投票で選ばれる。

こうした部会の活動を支えるのが、プロパー職員による事務局だ。2021年には、旅行会社で国内外の地域コンテンツづくりに携わり、ハワイでMICE誘致やイベント財団の運営を経験してきた事務局長が着任。観光地経営の実務のノウハウがDMOに加わった。事務局は部会の枠にとらわれず、目の前の課題にも機動的に対応する。

町も、宿泊税の使途を決める過程に民間の視点を取り入れている。宿泊税を充てる事業は、課長級が集まる庁議で、税の目的に合っているかを確認したうえで決まる。2022年度からは、庁内各課が挙げた充当案についてDMOに意見を求め、その内容を判断に取り入れるようになった。

さらに、官民が同じテーブルにつく場もある。年3回開かれる「観光地経営会議」だ。DMOが事務局を務め、町長が顧問、町の関係部局もオブザーバーとして加わる。観光事業者のほか商工、農業、交通、地域団体が参加する。マスタープランの進捗を確認し、成果を評価するだけでなく、計画に書かれた事業や課題を官民で議論し、その時々に生じる新たな課題への対応についても話し合っている。

 

税収が伸び、裁量が広がる。対応できる課題の幅も拡大

この決め方が動き始めた頃、税収も本格的に伸び始めた。2023年度は約4億4400万円、2024年度は約5億6800万円、2025年度は約6億5200万円。定率制の宿泊税は宿泊料金に連動するため、需要の回復に加え、宿泊単価の上昇も税収に反映される。

町は税収をいったん基金に積み、翌年度以降の事業に充てている。充当額は2023年度の2億円から、2026年度予算では5億5000万円へと拡大した。このうちDMOへの補助に充てる分は約3億2600万円にのぼる。補助額は、税収に対する一定の割合や上限を決めて配分するのではなく、DMOの事業に必要な予算を積み上げて決まる。その結果、宿泊税の概ね4〜6割程度がDMOに充てられている。

宿泊税の充当額とDMO(観光協会)への補助

こうしてDMOが事業に充てられる予算が増え、裁量が広がったことで、部会や事務局が地域の課題に対し、機動的に対応できる環境が整ってきた。ニセコのような国際リゾートには、観光地やリゾートならではの課題が、国内の他の地域よりも早く表れる。冬と夏の繁閑差、交通の混雑、物価や地価の高騰による住民の観光への理解の揺らぎ、人材や住宅の不足。いずれも、観光振興を担う側が受け止めるべき課題だ。

閑散期にはMICE部会がグリーンシーズンの誘致に取り組み、2025年度にはグリーンシーズンの延べ宿泊数の伸びにも貢献した。従業員の通勤車両による渋滞にはパーク&バスライドを走らせ、住民の理解に向けては町民優待サービス「Kutchan ID+」や、町民限定で飲食店を割安で楽しめる「Kutchan Magical Experience」を始めた。これらの取り組みは、住民の暮らしを守りながら観光への理解を広げる事例として、2026年9月の第10回ジャパン・ツーリズム・アワードで経済産業大臣賞を受けた。町民が自らのまちの魅力を体験する機会をつくることで、観光への理解にとどまらず、シビックプライドの醸成にもつなげている。

「Kutchan ID+」と町民限定の体験「Kutchan Magical Experience」で経済産業大臣賞を受賞▲第10回ジャパン・ツーリズム・アワードの表彰式(2026年9月24日)。「Kutchan ID+」と町民限定の体験「Kutchan Magical Experience」で経済産業大臣賞を受賞した(写真提供:(一社)倶知安観光協会)

宿泊税を活用して対応する課題は、DMOが担う領域だけにとどまらない。行政の側も、冬季に外国人スタッフの転入で混み合う住民登録窓口の改善に、住民環境課の事業として宿泊税を充てている。

繁閑差や交通、住民の観光への理解、人材や住宅の不足といった課題は、観光地経営会議でも官民で議論され、2024年度のマスタープラン改訂に反映された。

宿泊税を充てる主な事業と実施主体(2026年度)

 

循環を支える仕組みと、人のつながり

振り返れば、宿泊税を財源に、地域の課題への対応を広げてきた歩みは、マスタープランが当初から描いていた姿でもある。計画は宿泊税を事業の原資と位置づけ、次のような循環を示している。

税収を基金に積み、DMOへの補助などを通じて、計画に記載された事業に機動的に取り組む。それが質の高い滞在体験につながり、需要と消費単価が高まる。定率制の宿泊税は、その伸びを税収として町に還元し、増えた税収が次の投資や課題への対応に回る。魅力をつくり続けることと、観光によって生じる課題に対応することを、一つの循環で進めていく設計だ。</

倶知安町観光地マスタープラン▲出典:倶知安町観光地マスタープラン(改訂版)本編 p.5「マスタープランの実行と宿泊税活用の関係」

この循環を回すのに必要なのが、計画と財源と組織である。計画が事業の方向を示し、定率制の宿泊税がそれを支え、DMOと行政が連携して動かす。どれか一つが欠けても、循環は止まってしまう。倶知安町では、この三つが組み合わさることで、地域が対応できる課題の幅を広げてきた。

そして、この仕組みを回し続けるなかで、もう一つ蓄積されていくものがある。部会で議論を重ね、経営会議に多様な主体が集まり、地域の事業者が理事として選ばれ続ける。その繰り返しは、事業を決める手続きであると同時に、地域の中で人と人のつながりを強める過程でもある。計画・財源・組織という仕組みに加えて、こうしたつながり、いわば社会関係資本(ソーシャルキャピタル)を積み上げていくことも欠かせない。景観を損ないかねない開発や住宅不足など、観光地には次の課題も生まれる。倶知安町はいま、仕組みを回しながら、その蓄積を重ねている途上にある。

観光地経営のバージョンアップとは、循環を設計することと、それを回し続けることの両方を指している。

 

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