インバウンドコラム

中国・韓国・台湾・米国で「売れる理由」は違う 多国籍マーケティングチームが見た、市場の違いと共通点

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2026年4〜6月期の訪日外国人旅行消費額は約2.51兆円。市場が拡大するなか、多くの企業がインバウンド市場への参入や施策の強化を検討しています。一方、「インバウンド」と一口に言っても、中国、韓国、台湾、米国など、国・地域によって、情報収集の方法や商品を選ぶ基準、購買行動はさまざまです。同じ商品を同じように紹介しても、ある市場では反応が良く、別の市場ではほとんど響かないこともあります。

そのため、単に「インバウンド向け」と一括りにして考えるのではなく、それぞれの市場がどのような特徴を持ち、どこに共通点があるのかを知ることが重要です。

本稿では、訪日外国人旅行消費額の5割超を占める中国・韓国・台湾・米国を中心に、市場ごとの「違い」と、国・地域を越えた「共通点」の両面から、インバウンド市場を捉えていきます。市場選定や、自社の商品・サービスの訴求を考える際のヒントとしてご覧ください。

中国・韓国・台湾・米国で「売れる理由」は違う 多国籍マーケティングチームが見た、市場の違いと共通点

 

「一括り」にも「分けすぎ」にもしない、インバウンド市場の捉え方

「インバウンド」という言葉は、とても便利です。文化や購買行動の異なるさまざまな国・地域からの旅行者を、「訪日外国人=インバウンド」という一つの言葉で捉えることができます。しかし、実際にマーケティング施策を考えるうえでは、この大きな括りだけでは十分ではありません。

では、反対に、国・地域ごとに細かく分析すればよいのでしょうか。それも簡単ではありません。市場ごとに使われているプラットフォームだけでなく、人気商品の見つけ方、旅行中の行動、口コミの広がり方まで異なります。一つひとつを個別に捉えようとすれば、扱うべき情報は膨大になります。結果として、「まず訪日客数が多い国から」「すでに売上がある国から」と市場を決め、実は相性の良い潜在市場を見逃してしまうこともあります。

一方で、各市場を見続けていると、国・地域が違っても同じ商品が話題になったり、旅行中に同じような困りごとを抱えたりするなど、共通する部分も見えてきます。

私たちは普段、中国、韓国、台湾をはじめ、さまざまな市場のインバウンド調査やPR支援に関わっています。そのなかで感じるのは、各市場は確かに大きく異なる一方で、すべてをゼロから別々に考える必要もないということです。重要なのは、「何が市場によって異なり、何が共通しているのか」を切り分けて考えることです。

ここからは「違い」と「共通点」の両面から、インバウンド市場を見ていきます。まずは、中国、韓国、台湾、米国を例に、市場ごとの違いから見ていきましょう。

 

市場の違いを知ることが、伝え方を変える第一歩

情報を届けるなら、まず市場ごとの「情報の入口」を知る

旅行者が情報収集に使うプラットフォームは、市場によって大きく異なります。

中国では小紅書(RED)や抖音(中国版TikTok)などのSNSが旅行・商品情報の収集に大きく関わっています。近年では、対話形式で情報を検索、整理できるAIサービスを利用して、旅行先や商品を調べる動きも見られます。その際にも、バイトダンスの「豆包」やアリババの「千問」(英語名:Qwen)など、中国発のAIサービスが使われていて、情報収集の環境そのものが日本とは異なります。

一方、韓国ではNAVERの検索、ブログ、カフェ(コミュニティ)などが現在も重要です。台湾ではInstagramに加えてThreads上で日本旅行や商品の情報が広がるケースも増えています。米国ではGoogleやInstagram、TikTokだけでなく、Redditのような掲示板型コミュニティで「実際に訪れた人」の体験や口コミを詳しく調べるケースも見られます。

つまり、同じ「日本で何を買うか」を決める場合でも、商品を知る入口そのものが違うのです。そのため、日本語のSNS投稿をそのまま多言語化するだけでは、十分に情報が届くとは限りません。ターゲットとする旅行者がどのプラットフォームを利用し、誰が発信するどのような情報を参考にしているのかまで考えることが重要です。

同じ商品でも、市場によって「魅力に感じるポイント」は違う

さらに面白いのが、同じ商品や店舗を見ても、評価されるポイントが異なることです。

例えば中国市場では、商品の品質はもちろん、パッケージの見栄えや“きちんと感”が購買理由になるケースがあります。日本のお土産について見ても、中国には「旅行に行ったら職場の全員に必ず配る」という文化が強いわけではありません。その一方で、家族や親しい相手、仕事上重要な人に、少し良いものを贈る場面があります。そのため、箱のデザインや高級感、限定感などが商品価値につながることがあります。

店舗体験についても同様です。日本では「商品がぎっしり並んでいること」が楽しさとして受け入れられている店舗でも、中国人旅行者の口コミを見ると、「狭い」「混雑している」といった声が見られることがあります。一方、ゆっくり商品を比較できるドラッグストアなどが好まれるケースもあります。

韓国市場では、また違った視点が見られます。韓国のお土産購買を見ていると、個包装の商品が好まれる傾向があります。家族や親しい友人だけでなく、学校、会社、知人などにも気軽に配れる商品は便利です。「あとから渡していない人を思い出した時にも対応しやすい」という実用的なメリットもあります。

台湾市場では、日本の商品やコンテンツに日常的に触れる機会が多いことに加え、訪日リピーターが多いことも特徴です。有名観光地だけでなく、地方や温泉、鉄道、商店街など、より深く地域を楽しむ旅行との親和性も見られます。そのため、日本国内で流行した商品やコンテンツが、比較的早い段階で台湾のSNS上に登場することもあります。

一方、米国市場では「日本ならではの文化・体験」が購入や訪問の動機になることが目立ちます。有名観光地を巡るだけではなく、スキー、美術館、伝統文化体験、専門店巡りなど、自分の興味を入り口に日本を深く体験する旅行です。例えば合羽橋で調理器具や箸を買うといった行動も、その延長線上にあります。

同じ商品を売る場合でも、単に「人気商品です」と紹介するより、「なぜ日本で生まれたのか」「日本人がどう使っているのか」といった背景まで伝えることで、魅力が伝わりやすくなる場合があります。

商品の見た目や実用性、日本ならではの文化・体験など、市場によって魅力として受け取られるポイントは異なる▲商品の見た目や実用性、日本ならではの文化・体験など、市場によって魅力として受け取られるポイントは異なる

商品を変えなくても、市場に合わせて「伝える価値」は変えられる

こうした違いがあるため、私たちが複数市場に同じ店舗・商品をPRする際には、商品そのものを変えるというより、「どこを強調するか」を市場に合わせて変えることがあります。

例えば、ある菓子メーカーの直営店舗を中国・韓国・台湾に紹介するとします。台湾向けには、「店内そのものが楽しい」「日本らしい売場や装飾を楽しめる」といった体験性を強調します。中国向けには、「日本限定」「パッケージがきれい」「ギフトにも使いやすい」といった商品の見せ方。そして、韓国向けには、「個包装で配りやすい」「何個入りなのか」「友人や会社へのお土産に使いやすい」といった実用性について言及します。

同じ商品、同じ店舗であっても、このように訴求ポイントを少し変えるだけで、情報の受け取られ方は変わります。市場別マーケティングとは、「国・地域ごとにまったく違う施策を作ること」ではなく、「同じ商品の中から、その市場に合う魅力を見つけること」なのかもしれません。

ただし、ここで注意したいのは、「中国人は高級感が好き」「韓国人は個包装が好き」といった形で、市場の傾向を国民性として固定的に捉えないことです。市場ごとの差は、旅行者を決めつけるためのものではありません。「この市場には、この価値が響くのではないか」という仮説を立て、実際の反応を見ながら検証の精度を上げるために使うものだと考えています。

 

国・地域の枠を越えて見えてくる、旅行者の共通点

ここまで市場ごとの違いを見てきましたが、各市場を見続けていると、国・地域の枠を越えて共通する部分も見えてきます。ここからは、そうした「共通点」に目を向けていきます。

市場は違っても、同じ商品・トレンドが広がる

その一つが、市場は違っても「意外と同じものが流行る」ことです。背景の一つに、SNSによって流行が国境を越えて広がるスピードが速くなっていることがあります。例えば、台湾では日本のInstagramを参考にする人がいて、日本では韓国の美容やグルメトレンドが広がっています。中国でも、日本や韓国に暮らす中国人が現地の流行を紹介し、それが中国国内のSNSへ広がるケースがあります。

食の分野でも、塩昆布を料理に使うアレンジや、ビスケットをヨーグルトに入れるアレンジなど、同じような食べ方が韓国・台湾など複数市場で話題になることがあります。

国・地域が違っても、「旅行者」としての課題は共通する

もう一つ、国・地域を越えて共通するのが、「旅行者」という視点です。例えば、旅行中の疲れ対策として飲料を紹介するSNS投稿では、「日本旅行で一日2万歩歩いた」「足が疲れた」「翌日もたくさん歩きたい」といった文脈が、国を問わず見られます。

考えてみれば当然かもしれません。日本旅行中に歩きすぎて疲れることは、中国人でも韓国人でも台湾人でも同じです。空気が乾燥する、荷物が増える、時間がない、ホテルで小腹が空く。文化が違っても、「旅行者」という同じ状況に置かれれば、同じ課題が発生します。

こうした旅行中の課題を解決する商品やサービスは、国・地域を越えて売れる可能性があります。

国・地域が異なっても、旅行中に直面する課題には共通点がある▲国・地域が異なっても、旅行中に直面する課題には共通点がある

国籍だけでなく、「旅行者の状況」からニーズを捉える

さらに、同じ国・地域から訪れる旅行者であっても、その人が置かれている状況によって求める情報や行動は異なります。

同じ台湾人でも、初めて日本を訪れる人と何度も訪日しているリピーターでは、求める情報は異なります。同じ韓国人でも、家族旅行と一人旅、買い物目的とグルメ目的では、行動も変わります。

つまり、市場を見る軸は「国籍」だけではありません。「初訪日か、リピーターか」「旅行前か、旅行中か」「都市部か、地方か」「誰と旅行するのか」といった状況を掛け合わせることで、より具体的なインサイトが見えてきます。

 

「共通価値」を見つけ、市場ごとに「翻訳」する

インバウンド市場を考える時に重要なのは、「国・地域ごとの違い」と「旅行者としての共通点」を同時に見ることだと思います。中国人、韓国人、台湾人、アメリカ人では、普段利用しているSNSも、文化も、購買習慣も違います。だから、すべてを「外国人」とまとめてしまうと、重要なインサイトを見落としてしまいます。

一方で、市場を細かく分けすぎて、「中国人向け施策」「韓国人向け施策」「台湾人向け施策」と完全に別物として考えてしまうと、共通して存在する旅行者ニーズを見失うことがあります。

ここで重要なのは、国・地域別にゼロから別の施策を作るのではなく、「共通価値→市場別の翻訳→反応の検証」という順番で考えることです。

まず、「この商品は旅行者のどんな課題を解決するのか」を考える。そのうえで、「その魅力を中国ではどう伝えるか、韓国ではどう伝えるか、台湾ではどう伝えるか」と、市場に合わせて訴求を調整します。さらに、施策を出して終わりではなく、保存率やクリック率、コメント、検索キーワード、来店・購買などの実際の反応を見ながら、仮説を更新していきます。一定の商材では、この順番で考えることで、複数市場を対象としたマーケティングも整理しやすくなります。

「インバウンド」は一つの市場ではありません。しかし、すべてがバラバラな市場でもありません。

市場ごとの違いを理解しながら、その奥にある旅行者としての共通点を捉える。そして、自社の商品やサービスが持つ価値を、それぞれの市場に届く形へ翻訳する。それが、これからのインバウンドマーケティングで、より重要になっていく視点の一つではないでしょうか。

 

(写真提供:株式会社グローバル・デイリー)

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著者プロフィール:

元 正壬(げん じょん いむ)株式会社グローバル・デイリー 海外消費者リサーチ・トレンド分析担当

中国生まれ、母語は韓国語と中国語。小学校から大学まで一貫して日本語を学び、大学では観光学を専攻。卒業後、日系大手メーカーの中国法人でプロジェクトマネージャーを務め、日中間の開発案件を推進。来日後、株式会社グローバル・デイリーに入社し、訪日・越境マーケティングの領域へ。現在は中国・韓国・台湾・香港・東南アジアを横断する多国籍マーケティングチームの一員として、現地SNSやメディアの定点観測、在留外国人へのモニター調査、商談現場でのヒアリングを担当し、市場ごとに売れ方が変わる理由を読み解いている

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