インバウンドコラム
福岡市が、いま世界のデジタルノマドから選ばれる都市になりつつある。その背景にあるのが、独自の滞在型プログラム「Colive Fukuoka」だ。2023年10月の初開催からわずか3年で参加者は10倍以上に増え、世界的なアワード受賞など実績を重ねてきた。
なぜ福岡はここまで支持を集めたのか。本記事では、Colive Fukuokaの運営を担うキーパーソンへの取材を基に、その要因と地域にもたらした変化をひもといていく。
▲2025年10月開催の「Colive Fukuoka」
参加者3年で10倍、デジタルノマド滞在型プログラムの内容
「アジアのゲートウェイ」を標榜する福岡市は、国際的なリモートワーカーを長期滞在型のデジタルノマドとして受け入れ、関係人口の創出を通じて、同市が推進するビジネス・スタートアップの発展につなげることを目指してきた。
その一環として、2023年より年に一度、デジタルノマド向けの滞在型プログラム「Colive Fukuoka」を主催。市内拠点での滞在をベースに、コワーキングスペースでの業務環境の提供、ビジネス交流イベント、福岡・九州各地での観光や地域住民との交流などを組み合わせたプログラムを展開している。
参加者数は年々拡大しており、2023年は24カ国49名(平均滞在21日)、2024年は45カ国436名(同19日)、2025年は57カ国496名(同23日)と、初年度の10倍超に成長した。地域経済効果も、初年度の約2200万円から3年目には約1.4億円へと拡大している。
評価が広がり、世界的な支持を得た理由
こうした取り組みは国際的にも評価されている。デジタルノマド向けのプラットフォーム「Nomad Retreats」が主催する第1回「Nomad Retreats Awards」では、福岡市が「Best Global Nomad Fest(ベストグローバルノマドフェスト)賞」を受賞した。
「Colive Fukuoka」の運営を担う株式会社 遊行の大瀬良亮氏は、成果と認知拡大のプロセスを次のように振り返る。
「当初は“フクオカ”の発音がままならないほど、認知自体が低かったものの、参加者が実際に滞在し体験することでファン化し、口コミによって評価が広がりました」
その結果、現在ではデジタルノマドが選ぶおすすめの都市ランキングでも福岡市が上位に入る存在となっているのだ。
なぜ“地域とのつながり”が新たな価値を生むのか
こうした高い評価の背景には、単なる滞在ではなく、地域と関わる中で価値が生まれる仕組みがあるという。
「参加者アンケートからは、デジタルノマドが重視している価値として“地域とのつながり”が浮かび上がっています。単なる滞在ではなく、地域との関係性の中で学びや成長を得ることが、結果として新たなビジネス機会の創出にもつながっているようです」(大瀬良氏)
実際のプログラムでは、福岡市が主催するスタートアップの祭典「RAMEN TECH」との連携により、福岡を拠点に日本やアジアでビジネスを立ち上げようと試みるデジタルノマドが現れた。福岡県内の新宮町、宗像市、うきは市、古賀市など周辺地域への訪問では、参加者自らが地域に貢献しようとする姿勢や、「地域の役に立ちたい、改善提案があればしたい」といった声が多く挙げられた。
大瀬良氏からは、同社が長崎県から受託して企画運営する「Digital Nomad Nagasaki」での事例が挙げられた。長崎では質屋(買取業者)が、デジタルノマドから中古着物を法被にアップサイクルする提案を受け、法被(はっぴ)の商品化と販売事業に発展。また、参加者によるWebサイト制作よる事例も生まれたという。
▲「RAMEN TECH」での海外デジタルノマド起業家ピッチ
地域に価値をもたらす滞在者の特徴とは
2023年10月開催の第1回から、福岡市の担当者が課題としていた欧米豪市場の取り込みも進んでいる。福岡市を訪れる訪日客の9割超がアジア圏である中、「Colive Fukuoka 2025」では参加者の58.2%が欧米豪からとなり、特定地域に依存しない旅行者層の分散や、新たな顧客層との接点創出に成功した。
さらに、滞在の長期化も特徴的だ。2025年の参加者は、福岡市内で平均23日、日本全体では平均42日と、一般的な訪日観光客と比較しても大幅に長い。
「参加者の多くはウェルビーイングに関心が高く、自己成長をテーマに旅を続け、地域に貢献し、持続可能な相互成長に取り組んでいます。彼らは世界中の観光地が来てほしいと望む要素を持ち合わせた『“超”付加価値層』だと確信しています」と大瀬良氏は語る。
実際に筆者が関わった宗像市での「宗像大社正式参拝と漁師の船での釣り、及び釣った魚の料理体験と旅館ステイ」という1泊2日の有料モニターツアーにも、9人ほどが参加してくれた。そこで文化財としての宗像大社の価値やアジアのゲートウェイにつながる玄界灘、自然への信仰と漁などへの理解と共感を各人が述べていた。その上で「宿の滞在時間をもっとのばしたほうがいい」と積極的な改善の意見を提示してくれた。彼らが世界中の観光地に望まれるだろう存在であることもうなずける。
単発の滞在から継続的な関係づくりへ
こうして実績を重ねてきた「Colive Fukuoka」は今、毎年10月に開催してきたいちプログラムから、年間を通じたデジタルノマドの受入コミュニティに、その姿を変えている。
「デジタルノマドがいつ福岡を訪れても地域とつながれる環境を整えています。Colive Fukuokaを通じて、福岡や九州各地が世界とつながり、新たなビジネスやソーシャルインパクトが生まれる仕組みをつくりたい」と大瀬良氏は意気込む。
▲コワーキングスペースでは新しいビジネスのアイデアが次々と出てくる
現場で見えてきた「価値を生む滞在者」の実像
筆者は、2023年度の企画立上げ時から現在に至るまで約3年間、本プロジェクトを取材し続けてきた。その中で今や世界中のデジタルノマドたちが、「Colive Fukuoka」という名称や「Fukuoka」という都市を認知するようになったという実感がある。
「Colive Fukuoka」は当初からブルガリア・バンスコーで開催されるデジタルノマドのイベントに参加して福岡のプログラムを紹介するなど、積極的にプロモーションを行ってきたが、実際に参加者の声を聞くと、「デジタルノマドの友人からおすすめされた」といった口コミが、参加の強い動機づけになっていることがわかる。
もともとデジタルノマドは、起業家やインフルエンサーなど広いネットワークを持つ層が多い。彼らが福岡での体験に高い満足感を抱き、それが口コミの拡大につながったと考えられる。
こうした「ファン」の存在は、数字にも表れている。2025年のアンケートでは、参加者の実に94%が「また参加したい」と回答しているという。彼らは単なるリピーターに留まらず、コンテンツやプロジェクトに対して積極的に改善策を提案してくれる「価値を生む滞在者」として定着しつつある。
ただ観光を楽しむだけではなく、ビジネスの創出に関わろうとする彼らに、福岡や長崎が選ばれている。こうした強固な関係人口の存在は、東京や大阪などの大都市に肩を並べる、福岡の大きなアドバンテージとなっていくはずだ。
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