データインバウンド
自治体・DMOが次に狙う訪日市場はシンガポール、高付加価値化を重視へ ーじゃらんリサーチセンター調査
2026.06.10
やまとごころ編集部リクルートの観光に関する調査・研究、地域振興機関「じゃらんリサーチセンター(JRC)」はこのほど、全国157の自治体・観光協会・DMOを対象に実施した「インバウンド市場の注力ターゲット調査2026」の結果を公表した。調査では、現在の注力市場は台湾が最多となる一方、「今後狙いたい市場」ではシンガポールが首位となった。訪日客数の拡大だけでなく、消費単価や地域内消費を重視する傾向が強まっており、地域のインバウンド戦略が高付加価値化へシフトしている実態が明らかになった。
なお、この調査は、各地域の訪日プロモーションにおけるターゲットの可視化を目的に定期実施されているもので、5回目となる今回は2025年12月から約2カ月間、全国157の自治体や観光協会、DMOなどのインバウンド担当者から回答を得た。
自治体・DMOが狙うはシンガポール、高単価市場への関心高まる
現在、各地域が注力している市場は台湾が最多で、米国、香港が続く。一方、「今後狙いたい市場」ではシンガポールが首位となった。背景には、訪日客数の拡大だけでなく、消費単価や滞在日数、地域内消費の広がりを重視する傾向の強まりがある。
シンガポールは人口規模こそ限定的だが、高い購買力を持ち、地方体験への関心も高い市場として知られる。2025年の訪日客数は72万6200人、前年比5.1%増で、訪日市場全体では9位となった。規模では上位市場に及ばないものの、消費単価の高さやリピーター率の高さから、高付加価値市場として地域の注目を集めている。

地方誘客の壁となる「二次交通」と「ガイド不足」
じゃらんリサーチセンターの調査では、インバウンド誘致における課題として、「二次交通の整備」が最も多く挙げられた。続いて「ガイド不足」「誘客・プロモーション戦略」が上位となった。
訪日需要が高水準で推移する一方、地方では目的地までの移動手段や体験プログラムを支える人材不足が深刻化している。特に地方分散型観光を推進する地域にとって、鉄道やバスなどの交通インフラ整備と、地域の魅力を伝えるガイド人材の育成は喫緊の課題となっている。
市場選定が進む一方で、受け入れ体制の整備が追いついていない現状が浮き彫りとなった。

また、プロモーション戦略についても、単なる情報発信ではなく、ターゲット市場ごとの戦略設計やデータ活用の高度化が求められている。
東北がアドベンチャートラベル需要を開拓、広域ガイドの育成で対応
調査によると、こうした課題に対応するため、各地域では受け入れ体制強化に向けた取り組みが進んでいることがわかった。
東北観光推進機構では、広域で活躍できるガイド人材の育成とネットワーク構築を推進。英語ガイド向け研修や通訳アプリを活用した実践研修などを実施し、アドベンチャートラベル需要に対応できる体制づくりを進めている。
ガイド同士の横連携も進み、地域間での相互送客やDMC間の協力体制強化にもつながっているという。地域の歴史や文化を伝えるガイドと、自然・伝統文化体験を掛け合わせることで、高付加価値型コンテンツの造成にも取り組んでいる。
熱海は、多言語コンテンツ強化で閲覧数4.6倍に
また、静岡県熱海市では、訪日客の「旅ナカ検索」に着目した多言語コンテンツ強化に取り組んでいるという。
Google AnalyticsやGoogle Search Consoleの分析から、訪日客が東京滞在中に「Onsen near Tokyo」「Day trip from Tokyo」といったキーワードで周辺観光地を検索している傾向を把握。これを踏まえ、インバウンド向け公式サイト「Visit Atami」で検索意図に沿った記事制作やリライト、多言語化を進めた。
その結果、サイト閲覧数は約4.6倍、Google検索表示回数は15.3倍に増加。観光案内所や宿泊施設でQRコードを活用することで、オンラインとリアルをつなぐ導線づくりも進めている。
市場選定と受け入れ整備の両立が次の成長戦略に
じゃらんリサーチセンター研究員の松本百加里氏は、「どの市場に、どのような価値を届けるかという視点が重視される段階に入っている」と指摘する。
インバウンド市場は、コロナ禍からの回復を経て、持続的成長を見据える局面に入った。今後は、ターゲット市場のポートフォリオを踏まえた「量の設計」と、高付加価値化による「質の向上」を両立させる戦略が、地域観光においてますます重要になる。
【編集部コメント】
インバウンド戦略は「集客」のその先へ
今回の調査で注目したいのは、各地域の関心が「どれだけ来てもらうか」から「誰に、どんな価値を届けるか」へ移りつつある点だ。シンガポール市場への期待の高まりは、その象徴といえるだろう。一方で、二次交通やガイド不足といった受け入れ課題は依然として大きく、誘客戦略だけでは成果につながらない。自地域が狙う市場と地域資源の相性を改めて整理しながら、広域連携や人材育成も含めた受け入れ体制をどう設計するか。次の施策を考えるうえでの重要な視点になりそうだ。
(出典:じゃらんリサーチセンター、インバウンド市場の注力ターゲット調査 2026)
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