インバウンドコラム

タビナカを熱くすることが、インバウンドの質を高める― Tabinaka Summitで見えた体験価値と地域還元のこれから

2026.06.22

村山 慶輔

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訪日客数や消費額が伸びる中で、これからより問われるのは、旅行者が日本滞在中にどのような体験をし、その消費が地域にどう届くのかではないか。その意味で、タビナカはこれからのインバウンドを考えるうえで、ますます重要なテーマになっている。

先日、都内で開催されたTabinaka Summitに参加した。タビナカ、すなわち旅の最中に生まれる体験価値に特化した観光業界イベントで、ツアーオペレーター、体験事業者、行政、OTA、DMOなど多様なプレイヤーが集まった。

ここでは、会場で耳にした議論や事例を踏まえて、筆者自身が考えたことを整理してみたい。

 

タビナカへの関心の高まり

会場に足を運んでまず感じたのは、タビナカという領域に対して、思っていた以上に多様な人たちが本気で向き合い始めているということだった。オンライン配信は無料だった一方で、リアル参加は有料である。無料で視聴できる選択肢がある中で、あえて時間とお金をかけて現地に足を運ぶ人がこれだけいたことに、この領域への関心の高まりがうかがえた。

観光関連のイベントでは、比較的フォーマルな雰囲気になることも多い。しかし今回の会場では、スーツ姿の方はむしろ少数派だった。若い世代、女性、外国人、異業種からの参加者も目立ち、学生たちが運営を支える姿もあった。スポンサー企業のブースでも、具体的な相談や商談につながりそうなやり取りが生まれているように見えた。

 

挑戦の裏側には、高速で改善を回す現場がある

最初に参加したのは、「沖縄から日本の未来をつくる ジャングリア沖縄の挑戦」をテーマにしたセッションだった。

筆者自身は、まだジャングリア沖縄の現地を訪れていない。そのため、ジャングリア沖縄の体験そのものを評価する立場にはない。ただ、セッションを通じて、開業後に寄せられたさまざまな指摘や課題に向き合いながら、現場で改善を重ねているという話を聞き、新しい観光に挑戦することの難しさと意義を強く感じた。

▲「ジャングリア沖縄の挑戦」をテーマにしたセッション

特に印象に残ったのは、高速で改善を回していく姿勢である。

日々、現場で多くの改善点を洗い出し、課題を共有し、対策を実行していく。そうした改善を短いサイクルで回し続けてきたという話があった。新しい観光の挑戦は、最初から完璧に進むものではない。運営を通じて見えてきた課題を受け止め、改善を重ねながら体験の質を磨こうとしている姿勢が伝わってきた。

外から意見を言うことはできても、実際にリスクを取り、地域に新しい観光の可能性をつくろうとする現場には、外からは見えにくい努力がある。華やかな観光コンテンツの裏側にある、挑戦する人たちの覚悟と、高速で改善を積み重ねることの大切さを改めて感じた。

 

タビナカの販売は、検索の前に「現場」で起きている

次に印象に残ったのが、「地域タビナカは、どこで売るべきか?」というテーマのラウンドテーブルだった。

タビナカ商品をどう販売するかという議論になると、どうしてもOTA、自社サイト、SNS、広告といったオンラインの話になりがちである。もちろん、オンライン販売は重要である。旅行者が事前に検索し、比較し、予約する流れは今後も広がっていくだろう。

しかし、このセッションで見えてきたのは、オンラインだけでは語れないタビナカ販売のリアルだった。

▲「地域タビナカは、どこで売るべきか?」をテーマにしたラウンドテーブル

聞いていて感じたのは、タビナカ商品の販売は、OTAや自社サイトだけでは語れないということだ。実際には、DMCや旅行会社、ガイド、リピート、紹介など、さまざまな導線がある。オンライン上で見つけてもらうことは重要だが、それだけで十分とは限らない。

さらに印象的だったのは、旅行者やガイドとの接点を、現場でつくっていく視点である。具体的な方法は事業者によってさまざまだが、観光バスが到着する場所や、旅行者が集まる現場でガイドや関係者と接点をつくり、困りごとを聞きながら、休憩場所や食事の受け入れを提案していく。あるいは、近隣の観光地にいる旅行者に地域での体験を案内し、実際に足を運んでもらう導線をつくる。

オンラインで見つけてもらうのを待つだけではなく、旅行者がいる場所に出向き、そこで接点をつくる。そうした非常にアナログな導線づくりが、タビナカの販売において重要な意味を持っているという話は、正直かなり面白かった。

タビナカビジネスというと、どうしても「どうネットで売るか」に意識が向きやすい。しかし、タビナカには、旅行者がすでに現地にいるからこそ生まれる需要がある。その需要は、検索窓だけではなく、ガイド、添乗員、旅行会社、ホテル、観光案内所、バスの到着場所といった、旅の最中の接点から生まれる。

タビナカは、旅行前に予約される「商品」であると同時に、旅行中の偶然や現場の判断によって組み替えられていく「体験」でもある。

地域の事業者にとっては、自社の商品をどこに掲載するかだけでなく、誰が旅行者との接点を持っているのかを見極めることが重要になる。オンラインで見つけてもらう力と、現場で需要を拾い上げる力。この両方があってこそ、地域のタビナカ商品は旅行者に届いていくのだと感じた。

 

高付加価値旅行では、情報よりも「誰とつながるか」が問われる

高付加価値旅行者が求める日本体験について議論するセッションも、非常に学びの多い時間だった。

特に印象に残ったのは、高付加価値な体験ほど、必ずしもネット上に広く公開されているわけではないという点である。

一般的な体験商品であれば、OTAや自社サイトに掲載し、検索され、比較され、予約されることが重要になる。一方で、高付加価値な体験の中には、誰でも検索・比較できる場所に載せることが、必ずしも価値を高めるとは限らないものもある。

これは、AI時代にはさらに重要な論点になるかもしれない。

これからは、旅行者もエージェントも、AIを使って多くの情報を簡単に集められるようになる。セッションの中では、登壇者の一人からスマートグラスについての言及もあった。目の前の観光地に関する情報が、その場で表示される時代が近づけば、単にネットにある情報を説明するだけでは、ガイドや旅行を組み立てる側の価値は十分に発揮されない。

大切なのは、検索された情報をどう解釈し、誰とつなぎ、どの文脈で体験に変えるかである。むしろ価値になるのは、ネット上に出ていない関係性や、現場でしか生まれない出会い、その人にしか語れないエピソードなのだと思う。

▲高付加価値旅行ではガイドの役割も変わっていく

豪華なものを並べるだけでは、旅の価値は生まれない。誰に会うのか。どのような文脈で体験するのか。その体験が、旅行者の関心や価値観とどう結びつくのか。そこに、高付加価値旅行の本質がある。

ガイドの役割も、ここで大きく変わっていく。AIやデバイスが進化すれば、一般的な観光情報は旅行者自身が取得できるようになる。だからこそ、ガイドには、情報を説明する力だけでなく、旅行者の関心を読み取り、地域の人や文化との接点をつくり、その場の体験を豊かにする力が求められる。

ガイドの価値が下がるということではない。むしろ、情報を超えた部分で、ガイドの存在価値はより明確になる。同じ場所を訪れても、誰と歩くかによって、旅の意味はまったく違うものになる。

検索できる情報が増える時代だからこそ、ネット上の情報だけでは届かない関係性や、現場でしか生まれない価値が、より重要になるのだと感じた。

 

リアルの場だからこそ話せることがある

もう一つ参加したセッションに、「稼ぐために変えていくべき観光ルールメイキングとは」というテーマがあった。

このセッションは現地参加者向けのオフレコの場だったため、具体的な内容には触れない。ただ、非常に面白く、現地に足を運んだからこそ聞ける議論だった。

オンライン配信が広がる中で、イベントにリアル参加する意味は何か。今回、オフレコの議論や会場での何気ない会話に触れながら、その意味を改めて感じた。

公開情報として整理された話ではなく、現場のプレイヤー同士が、率直に課題や違和感を共有する。外に出しにくい論点も含めて、これからの観光に必要なルールについて考える。そうした議論は、やはりリアルの場だからこそ生まれやすい。

また、イベント後半では、タビナカビジネス・ピッチバトルも行われた。若い登壇者が、新しいサービスや事業アイデアを発表し、審査員がフィードバックする。AIを活用したものや、これまでの観光業界とは少し異なる切り口の提案もあり、タビナカ領域にはまだまだ新しい余白があることを感じた。

今回の会場には、若手、学生、女性、外国人、異業種のプレイヤーが混ざっていた。この混ざり方が、とても良かった。若手や異業種の視点が入ることで、観光業界の当たり前が少しずつ揺さぶられていく。そうした空気を感じられたことも、今回の収穫だった。

▲主催メンバーによるクロージングトーク。会場全体を通じて、タビナカ領域への関心の高まりを感じた

 

タビナカを熱くすることが、地域への還元につながる

ここでいう「タビナカを熱くする」とは、単に体験商品を増やすことではない。

旅行者が地域と出会い、価値を感じ、対価を払い、また誰かに伝えたくなる接点を増やしていくことだ。ガイド、体験、食、移動、宿、地域の人との出会いを、単なる点ではなく、旅の流れの中で意味あるものとしてつないでいくことだ。

タビナカを熱くすることは、単に旅行者を楽しませることではない。それは、インバウンドの消費を高め、満足度を高め、地域への還元を高めることにつながる。

そのためには、体験、ガイド、宿、食、交通、販売導線を点ではなく線でつなぐ必要がある。少し硬い言い方をすれば、地域のタビナカ・サプライチェーンをどうつくるかが問われている。

自治体やDMOにとっても、これは民間事業者だけに任せるテーマではないように思う。個々の事業者の努力に任せるだけでなく、体験、ガイド、宿、交通、販売導線をつなぎ、適切な対価が地域に残る仕組みをどうつくるか。そこに関わる余地は大きい。

今回、会場で感じたのは、タビナカに関わる人たちの仕事は、決して表に出やすいものばかりではないということだ。それでも、旅行者の満足度を左右し、地域にお金を落とし、また次の旅につながる接点をつくっている。

タビナカを見つめることは、インバウンドの質を考えることにつながる。そして、タビナカを熱くすることは、日本の地域を元気にすることにもつながる。

タビナカを熱くする人たちが増えるほど、日本のインバウンドはもっと面白くなる。今回のサミットは、そう感じさせてくれる場だった。

※本記事は「観光フィールドノート」の一編です。続きの思考は、月1回配信しているメール版で記しています。 → メルマガのご案内はこちら

 

著者プロフィール:

株式会社やまとごころ 代表取締役 
インバウンド戦略アドバイザー 村山慶輔

神戸市出身。米国ウィスコンシン大学マディソン校卒業後、アクセンチュアを経て、2007年にインバウンド観光情報サイト「やまとごころ.jp」を立ち上げる。以来、観光事業者・自治体・DMO等に向けて、情報発信、人材育成、研修、コンサルティングを通じ、インバウンド戦略の立案・実行を支援。観光庁をはじめ、国や地域の観光政策・事業に関する委員・アドバイザー等を務め、持続可能な観光地域づくりにも取り組む。著書に『観光再生』など計10冊。やまとごころ.jpでは、観光・インバウンドの現場視点を綴る連載「観光フィールドノート」を執筆中。

 

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