インバウンドコラム

熊本地震から10年、再び地震に見舞われた熊本から考える「観光危機管理」―災害への備えから復興まで

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2016年4月の熊本地震から10年を迎えた2026年。7月28日、熊本は再び最大震度7の地震に見舞われた。

地震などの自然災害への備えは、観光に携わる事業者や自治体にとって避けて通れない課題だ。災害が起きたとき、まず優先されるべきは地域住民の安全であり、その地域を訪れている国内外の旅行者についても、安全をどう確保するのか、必要な情報をどう届けるのかを考えておく必要がある。特に外国人旅行者には、言語や土地勘、情報取得など特有の課題もある。

熊本地震以降も、日本の観光地は北海道胆振東部地震や能登半島地震など、幾度となく災害に直面してきた。この10年の経験から見えてくるのは、観光危機管理は災害が起きてから始まるものではないということだ。ここでは、これまで「やまとごころ.jp」で伝えてきた各地の事例や専門家の知見、現在の仕組みやツールをもとに、観光に携わる私たちが改めて考えておきたい災害への備えと対応を整理する。

 

1.「観光危機管理」とは何か。発災前から復興までを一体で考える

「観光危機管理」というと、災害発生時の避難誘導や旅行者への情報提供を思い浮かべるかもしれない。しかし、その範囲はもっと広い。

観光庁の「観光危機管理計画等作成の『手引き』」では、「減災」「危機への備え」「危機への対応」「危機からの復興」という4つのフェーズで整理している。つまり、「災害が起きたときにどうするか」だけでなく、「起きる前に何をしておくか」、さらに「起きた後に地域や観光事業をどう立て直すか」までが観光危機管理だ。

その重要性を物語る事例の一つが、熊本県人吉市にある。2020年7月の豪雨で、人吉・球磨地域は甚大な被害を受け、100年以上の歴史を持つ「球磨川くだり」の運営会社も被災した。

やまとごころでは災害から約1年後、球磨川くだりの事例から防災・危機管理の重要性を考える記事を掲載。そこで浮かび上がったのは、非常時になって初めて考えるのではなく、経営者自身が地域の災害リスクを把握し、日頃から備えておくことの重要性だった。

人吉の経験が示すように、観光危機管理は発災時の対応だけを指すものではない。地域のリスクを知り、危機に備え、発生時に対応し、その後の復旧・復興へつなげていく。その一連の取り組みをどう地域や事業の中に組み込むかが問われている。

▲2020年7月豪雨の被災状況を伝える人吉のサイクリングツアー。地域を巡りながら、当時の被害や災害の経験を伝える。
現在は休止中(2023年撮影、写真:帆足千恵)

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人吉 球磨川くだりの事例に学ぶ、防災・危機管理の重要性。企業経営者が語る災害時に備えたい3つのポイント

 

2.旅行者は災害時、何に困るのか。外国人旅行者特有の課題

災害が発生すれば、地域住民も旅行者も安全の確保が必要になる。ただ旅行者には、土地勘がない、避難場所が分からない、公共交通機関が止まれば移動できないなど、住民とは異なる難しさがある。外国人旅行者の場合、そこに「言語」という壁も加わる。

2024年1月の能登半島地震発生時、金沢には多くの外国人旅行者が滞在していた。やまとごころでは、ハネムーンで日本を訪れ、金沢で地震に遭遇した米国人旅行者の発災後24時間を取材した記事を掲載している。

旅行者は日本人ガイドと兼六園を散策中に地震に遭遇。「今いる場所は安全なのか」「この後どこへ行けばいいのか」「旅を続けられるのか」といった判断を迫られた。記事では旅行者だけでなく、旅行会社、観光案内所、JNTOの対応も追っている。

そこから見えてくるのは、外国人旅行者への災害対応は、情報を「翻訳」するだけでは十分ではないということだ。今、何が起きているのか。どこへ行けばいいのか。交通機関は動いているのか。旅行者が次の行動を判断できる情報を、信頼できる形で届ける必要がある。

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3.災害時、旅行者を「必要な情報」につなぐための備え

では、災害が起きたときに旅行者を安全な行動や必要な情報につなぐため、観光事業者やDMO、自治体は何を準備しておけばよいのだろうか。

観光危機管理の専門家・高松正人氏は、能登半島地震後に寄稿した地震発生時の対応と事前の備えを解説した記事で、まず旅行者と従業員の安全を確保すること、そのために避難場所や避難方法を事前に確認しておくことなどを挙げている。

また、2018年のやまとごころ.jpのインタビューでは、大阪府北部地震の際、鉄道が長時間運休するなか、外国人旅行者が「何が起きたのか」「鉄道はいつ動くのか」「目的地へどう行けばいいのか」を尋ねる相手が見つからなかった事例を紹介している。重要なのは、現場のスタッフがすべての災害情報を外国語で説明することではない。旅行者を必要な情報につなぐことができるかだ。

現在は、観光庁監修の外国人旅行者向け災害時情報提供アプリ「Safety tips」が15言語に対応し、緊急地震速報や津波警報などをプッシュ通知している。JNTOも、多言語コールセンター「Japan Visitor Hotline」を365日24時間運営するほか、公式X(旧Twitter)や微博(Weibo)の「Japan Safe Travel」では災害や気象の緊急情報を発信している。

こうした仕組みも、旅行者が知らなければ利用できない。宿泊施設や観光案内所、観光施設のスタッフが、「困ったときにはここを見ればいい」と案内できる状態にしておくことも、平時からできる備えだ。

▲2026年8月13日、千葉県内にレベル5大雨特別警報が発表されたことを伝える、「Japan Safe Travel(JST)」のXアカウント

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4.災害後、地域の「今」をどう正確に伝えるか

災害発生後、観光に携わる人たちには、地域の「今」を正確に伝える役割もある。

大きな災害が起きれば、被害の大きな地域や映像が国内外で報じられる。一方、旅行者が判断するためには、どこが被災しているのか、交通機関は動いているのか、施設は営業しているのか、現在どこまで復旧しているのかといった具体的な情報が必要だ。

災害発生直後には旅行を控えることが適切な地域もある。だからこそ、観光側の情報発信には、旅行を促すことよりもまず正確さと適時性が求められる。

東日本大震災後の東北の経験は参考になる。震災が発生した2011年、東北6県の外国人宿泊者数は前年の約3分の1となる18万人泊まで減少したが、2015年には震災前の水準を超えた。

やまとごころが2021年に掲載した東北のインバウンド観光復興を振り返る記事では、海外向け日本旅行情報サイト「japan-guide.com」が震災翌月から被災地を訪れ、その後も継続して地域の状況を海外へ伝えてきた経験を紹介している。

海外では災害直後の映像が大きく報じられる一方、その後の変化が同じように伝わるとは限らない。だからこそ、安全、交通、営業、復旧状況など、「今、その地域がどうなっているのか」を継続的に伝えることも観光危機管理の一部となる。

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5.過去の災害経験を、次の備えと地域づくりへ

災害から得た経験を、その後の地域づくりにどう生かしていくか。

10年前の熊本地震で大きな被害を受けた熊本城では、長期間にわたり修復が続いてきた。やまとごころでは2023年、修復過程を伝える「Re-Construction Tourism」の取り組みを取材。修復中の文化財や、それを担う人々の技術・文化を旅行者に伝え、観光収益の一部を文化財の保全へ還元する試みだ。

ここで考えたいのは、災害そのものを観光コンテンツにすることではない。長い復旧・復興の過程で、地域が守ってきた文化や技術をどう次世代へ継承し、観光がそこにどのような役割を果たせるかということだ。

東北でも、震災の記憶をどう残し、地域外の人々へ伝えるのかが模索されてきた。やまとごころが震災から10年の2021年に掲載した東北のダークツーリズムを考える記事では、被災地を観光で扱うことの難しさも指摘されている。

過去の経験を単なる「復興の成功事例」として振り返るのではなく、そこで得た教訓を次の災害への備えと、より安全で持続可能な地域づくりにつなげる。熊本地震から10年の今、改めて考えたい視点だ。

▲2016年の熊本地震で被災した熊本城の石垣修復現場(2023年撮影)。元の位置にあった石材を特定し、可能な限り利用しながら、どうしても難しい場合に別の石を割って新補材を作り、それらを組み合わせながら修復作業が進められる。(写真:帆足千恵)

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観光事業者・DMOが確認したい、災害対応7つのチェックポイント

最後に、観光庁の「観光危機管理計画等作成の『手引き』」と、これまで紹介してきた事例・専門家の知見を踏まえ、平時のうちに確認しておきたいポイントを整理した。

□ 地域で想定される災害リスクを把握しているか
地震、津波、豪雨、台風、噴火など、地域で起こり得る災害を確認する。

□ 旅行者の避難場所・避難経路を把握しているか
土地勘のない旅行者にも案内できるようにしておく。

□ 災害時の役割分担と連絡体制が決まっているか
誰が情報を集め、誰が旅行者へ伝えるのかを決めておく。

□ 信頼できる情報源を把握しているか
自治体、気象庁、交通事業者など、最新情報の入手先を確認する。

□ 外国人旅行者を災害情報につなげられるか
「Safety tips」や「Japan Visitor Hotline」などをスタッフも把握する。

□ 情報を伝える手段を複数用意しているか
停電や通信障害も想定し、ウェブやSNSだけに頼らない。

□ 発災後、地域の状況を正確に発信できるか
被害、安全、交通、営業状況などを継続して更新する体制を整える。

災害の発生そのものを防ぐことは難しいが、平時から備え、発災時に旅行者の安全を守り、必要な情報を正確に届けることはできる。そして、そこで得た教訓を次の備えにつなげることもできる。

観光危機管理は、災害が起きてから始まるものではない。平時の備えから発災時の対応、正確な情報発信、そして経験を次の備えにつなげるところまで続いていく。

熊本地震から10年。「自分たちの地域や事業では、今、何ができていて、何ができていないのか」を改めて確認する機会にしたい。

 

参考資料・関連情報
観光庁「観光危機管理計画等作成の『手引き』
観光庁「Safety tips
日本政府観光局(JNTO)「自然災害等の非常時の外国語による発信

 

 

 

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