インバウンドコラム

外国人旅行者に人気の「キャナルシティ博多」、開業30年の積み重ねをひも解く

2026.09.28

帆足 千恵

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ある訪日旅行ビジネスサイトの「インバウンド人気商業施設ランキング」で1位になったことから、全国的にも改めて注目を集めた「キャナルシティ博多」。開業30周年を迎え、施設のリニューアルが立て続けに行われ、賑わいを増している。

今回は、外国人旅行者に人気の理由やこれまでのインバウンド対応、今後の展望を担当者に取材した。そこからは、開業当初からの揺るぎない「都市の劇場」への思いも見えてきた。

 

30年前、福岡市に登場した「都市の劇場」

建物の中を約180mの運河=「キャナル」が流れ、その中央にはステージを配置。曲線的な建築の中に、約180のショップや飲食店、アミューズメント施設、映画館、劇場、2つのホテル、オフィスなどで構成される複合商業施設が「キャナルシティ博多」だ。

1996年の開業当時から「都市の劇場」というコンセプトを掲げ、ショッピングだけでなく、噴水ショーやステージでのライブ、パフォーマンスなどのエンターテインメントを無料で楽しめる空間としても、人気を博してきた。

2025年7月には、飲食店21店舗が集結したフロア「KUOHKA」がオープン。さらに、開業30周年を迎えた2026年は、地元博多を中心に全国のラーメンが味わえるラーメンスタジアムのリニューアル、LOWYA(ロウヤ)など大型店舗が入るイーストビルの再始動など新たな動きが相次いだ。

これまでの実績や経緯とこれからについて、運営を行う株式会社エフ・ジェイエンターテインメントワークス キャナルシティ博多事業部販促企画担当の佐々木佑見子さんと木村彩乃さんに話を伺った。

▲地元のディベロッパーである福岡地所が手掛けた斬新なデザインでも注目を集めた(キャナルシティ博多提供)

 

インバウンド対応は現場やゲストの声から

現在では外国人旅行者に人気のキャナルシティ博多だが、開業当初から集客のためのインバウンド施策を積極的に行っていたわけではない。

筆者自身も、開業当時から取材を行い、2001年の台湾・香港向けガイドブックへの出稿を皮切りに、テナントスタッフ向けの受入環境整備や接客研修、外国人旅行者のショッピングや飲食の傾向などを伝える市場レポート、タイ、マレーシアなどの成長市場の調査にも関わらせていただいた。振り返ると、店舗に訪れるゲストの動向や困りごと、成功事例を拾い上げながら、一歩ずつ進めてきた感がある。

▲キャナルシティ博多事業部販促企画担当の佐々木佑見子さん(右)と木村彩乃さん(筆者撮影)

2015年に免税カウンターを設置して以降は、カウンターや店舗独自での免税件数から、外国人旅行者の傾向や売れ筋アイテムを把握できるようになった。

一方、実際の困りごとや要望を知るうえで重視しているのが、現場から上がってくる声だという。

「アンケート調査も時々行ったことがありますが、テナントスタッフから寄せられる現場でのお客様の声や課題、口コミから得られる情報も大事にしています。また、多言語のコンシェルジュが館内を巡って、『なんでもきいてください』とご案内をしていますが、多いときは相談される方の約半数は外国人のお客様。それらの内容を分析して、対応策を構築しています」と佐々木さん。

注目を集める、あるいはルールを伝えるなどの多言語でのPOPは、事務所で共有して対応。「とにかく場所がわかりにくい」という課題に対しては、デジタルフロアMAPを多言語で展開している。

 

売上の3割〜4割は外国人、人気の理由は?

売上全体に占める外国人の割合は3割〜4割で、韓国に加え、最近は台湾からの来館者も大きく伸長しているという。口コミの分析では、人気の理由として、音楽に合わせて行われる「噴水ショー」(ダンシングウォーター)と夜の3Dプロジェクションマッピング「キャナルアクアパノラマ」が楽しめること、多数のショップや飲食店が揃って選択肢が豊富なこと、ゲームなど体験もできること、ラーメンスタジアムやガンダムベースなど、特定のテーマに特化したエリアがあること、などが挙げられている。

では、一番の要因は何か。佐々木さんにきいてみた。

「ひとつの要素ではなくて、いろんなことが一度に楽しめる施設であり、買い物をしなくても楽しい。『この空間にいること自体がエンターテインメント』だとお客様に思っていただいているからだと思います」

開業時から掲げてきた「都市の劇場」というコンセプトが、30年を経た今、外国人旅行者にも支持されているということだろう。

▲3Dプロジェクションマッピング「キャナルアクアパノラマ」。スマートフォンから対戦に参加して、インタラクティブに楽しめるプログラムもある(キャナルシティ博多提供)

プロモーションでは、インフルエンサー招聘などをやってはいるが、特に珍しい施策などをやっていたわけではないという。10年ほど前から、「キャナルシティ博多」の魅力やイベントをSNS(InstagramやFacebookなど)で各国・地域別に地道に自分たちで発信してきた。佐々木さんは、「これまでの積み重ねが現在につながっているのではないか」と語る。

2016年に、筆者が関わったSNSなどでの認知度や口コミに関する調査でも「福岡に来たら行くべきスポット」としてランキング上位に挙げられていた。こうして長年蓄積されてきた口コミも、集客に寄与していると考えられる。

 

開業から一貫しているサステナブルな取組

筆者が開業当時から注目しているのが、サステナブルな取組だ。

常時約1200トンの水が流れている運河には、濾過した雨水を再利用している。親⽔機能と⾮常時の消防⽤⽔としても利用されている。

さらに館内の地下⽔を、非常に細かいRO膜という特殊な膜を使った⽔処理システムで再⽣し、館内で使⽤する上⽔として利用。飲食店の厨房排水も処理して、トイレの洗浄水として再利用している。その他、生ごみの飼料化、緑化、豪雨・河川氾濫に備えた止水板の更新・新設なども行っている。2024年には、DBJ Green Building認証で最高ランクの5つ星を取得した。

ただし残念なことに、「この取組は、国内外のゲストには伝わっていない」と木村さんは言う。

特にサステナビリティへの意識の高い欧米をはじめ、国内外にこうした取組を積極的に発信することで、施設の新たな魅力として伝わるのではないだろうか。

▲毎日午前10時から午後10時まで、毎時00分と30分に上演される噴水ショー(ダンシングウォーター)
※スケジュールは変更になる場合がある(キャナルシティ博多提供)

 

福岡市中心部の周遊拠点にある「都市の劇場」のこれから

開業30周年を迎え、今後目指していくありかたについてきいてみた。

「開業当初から掲げているコンセプト『都市の劇場』はこれからも変わりません。国内外から来館いただいたお客様の一人ひとりが主役になれる、物語が生まれる場所でありたいと常に考えています。緑も多く、木陰や水辺でゆったりとしていただくのもいいし、ショッピングだけでなく、いろんな体験をして、ここで思い出を作って楽しんでほしいですね」と木村さん。

「都市の劇場」として館内で楽しんでもらうだけでなく、キャナルシティ博多は福岡市中心部を回遊するうえでも重要な場所にある。

福岡市の繁華街・天神と博多駅の中間に位置し、バスや車での利用が多かったが、2023年に地下鉄七隈線「櫛田神社前駅」が開業し、福岡市が観光周遊エリアとして注力する「博多旧市街」への周遊拠点にもなっている。近くの清流公園北側一帯は、親会社である福岡地所が那珂川沿いの回遊を高める観光拠点として今冬に完成させる予定だ。周辺の開発が進むことで、キャナルシティ博多だけでなく、周辺エリアを回遊し、天神〜キャナル周辺・博多旧市街〜博多を歩いてゆっくり回遊する動きも、さらに広がっていくだろう。

 

変わり続けながら、大切なものは変えない

「キャナルシティ博多」は、開業当初から外国人旅行者の集客に熱心だったわけではない。来館する外国人旅行者の利便性を高めるよう一生懸命対応してきた結果が、現在につながっているといえる。その姿勢の根底には、「来館したお客様全員に快適に楽しく過ごしてもらいたい」という気持ちがある。それはキャナルシティ博多だけではなく、天神、博多の商業施設に共通するもので、ショッピングや飲食の売上をのばすことが第一目的ではなく、福岡のまち全体を回遊し、楽しく体験をしてもらう。その結果として、滞在時間が伸び、売上がのびるという考え方だ。

筆者が天神、博多のまちづくり協議会によびかけ、2013年から福岡市中心部の商業施設と外国人向けのキャンペーン「Welcome Campaign」を開始したが、キャナルシティ博多では、いち早く歓迎の意思を表す大きなポスターを掲げてくれていた。

▲2013年当時の「Welcome Campaign」で掲げられたキャナルシティ博多でのオリジナルの掲示(筆者撮影)

さらに素晴らしいと思うのは、新しいことを手掛けるが、大切なものはやり続ける姿勢。福岡市民は当たり前に感じているかもしれないが、一施設が、ラスベガスに負けじとばかりに、無料のエンタメショーを毎日継続する意気込み自体に感動を覚える。30年続いている噴水ショーには、今でも多くのゲストが自撮りや記念写真を撮影し、終了後には拍手が起こる。

建築やアートでも先駆的な取組を行っているのだが、それもあまり知られていない。1996年のオープン当時、韓国出身の世界的ビデオアーティスト、ナムジュン・パイクの日本最大のアート「Fuku/Luck,Fuku=Luck,Matrix」が、縦10台、横18台、合計180台のテレビモニターで壁面を飾り、さまざまなイメージを映し出していたのは強烈に誇らしく思った。30年たった今でも1日3時間稼働している。

▲ナムジュン・パイク 「Fuku/Luck,Fuku=Luck,Matrix」1996年(筆者撮影)

時代のトレンドを先取りして変わっていきながら、根幹が揺るがないこの施設で、多くの外国人旅行者が楽しんでいるのをみるといつもワクワクする。これからも福岡・九州を牽引していくのを期待する。

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