インバウンドコラム
訪日客向けの文化体験が増えるなか、単に日本文化に触れるだけではなく、「本物らしさ」を求めるニーズも高まっています。「Samurai Training Experience KENDO in Osaka」は、そうした訪日客から支持を集める剣道体験ツアーです。
案内するのは、5歳から剣道を始め、剣道強豪校として知られる高校・大学で経験を積み、著名な指導者たちのもとで技術と知識を磨いてきたトシさん。提供しているのは、「トレーニング」と呼びたくなるような本格的な剣道体験プログラムです。TripadvisorやKlook、Viatorなどでも5.0の評価を獲得しており、訪日客から高い満足度を得ています。
今回、剣道体験が初めての筆者が実際にツアーへ参加しました。体験の流れや参加者の反応、運営上の工夫を通じて、訪日客から高い評価を得る理由を探りました。

訪日客はなぜ剣道を選ぶのか。参加者像から見えるニーズ
「Samurai Training Experience KENDO in Osaka」ツアーは平日限定で1日2回(10時〜、14時〜)、各回約2時間、料金は5~15歳が1万6500円、16~75歳が1万9800円で開催しています。最大受け入れ人数は14名です。
参加者は5歳〜75歳までと幅広く、最高齢は78歳の受け入れ実績もあるそうです。通常はカップルや友人同士、一人旅など参加形態もさまざまですが、長期休暇中は家族連れの参加が多いそうです。
案内は英語で行っており、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ圏からの参加が多いそうです。ただ、難しい英語を使うわけではなく、見よう見まねでも参加できるため、英語を第二言語とする参加者も楽しめるとのことでした。
参加理由も興味深いです。「日本のアニメや漫画、侍が好き」「日本文化を体験したい」「子どもに日本文化を体験させたい」といった初心者層に加え、「武道経験があり日本の武道に触れてみたい」「ワークアウトが好き」という参加者も一定数いるといいます。前後で、相撲体験や忍者体験を組み合わせる人もいるそうです。
今回参加したのは、オーストラリア在住のフィリピン人4人組。メンバーの一人がアニメを通じてサムライ文化に興味を持ち、他のメンバーを誘って参加したそうです。
▲サムライに興味を持ってみんなを誘ってきた彼女
手ぶら参加で本格体験。自然と気持ちが高まる仕掛けとは
筆者の体験前の剣道へのイメージは、道着や防具の重ね着が多く、着替えが大変そうだというものでした。
しかし、このツアーでは、着用してきた服から、無料貸し出しのUNIQLOのTシャツ短パンに着替え、その上からスタッフが剣道の道着や防具を装着します。手ぶらで参加できるのはありがたいです。驚いたのは、着替えの速さです。立ったままスタッフの案内に従うだけで、体感1分ほどで着替えが完了します。
▲立っているだけであっという間に道着姿に
今回であれば、4人全員が着替え終わるまで10分もかかっていません。スタッフ同士の連携が見事でスピーディーでした。また、着替えを伴う体験のため、男女双方のスタッフがいることも安心感につながります。特に女性参加者にとっては、質問があった際に声をかけやすい環境だと感じました。
着替えた人から順番に写真撮影をします。レプリカの剣や和傘、菅笠(時代劇などでも見られる伝統的な笠)など、侍を彷彿させるアイテムを借りて撮影をするので、序盤から自然と場が盛り上がります。
興味深かったのは、写真撮影を体験の最初にもってきていることです。日本文化体験というと、歴史や所作の説明から始まる少し堅いイメージがありますが、先に「侍になってみる」体験を挟むことで、楽しい雰囲気のまま体験へ入っていける流れになるのがよいと感じました。
参加者は、「笑っていいの?刀をみせながら笑うのは少し変かな」といいながらも楽しそうな様子でした。
▲レプリカの剣をもって写真撮影
ユーモアと緊張感。その切り替えが生む“本物の剣道体験”
5歳から剣道を続けてきた剣道家であり、このツアーを主催するトシさん。さぞ厳しいのだろうと勝手ながらに想像していましたが、開始前に「5歳から剣道を始めて真面目に取り組んできたけど、ユーモアもあるから安心して」と声をかけていました。
最初にストレッチをしたあと、一度座って剣道の歴史を学びます。ここは妻のクミコさんが担当。2人が入れ替わりで進行することで、案内に飽きがこないと感じました。
歴史の説明中には、「漫画ワンピースのゾロは3つの剣をもっているけど、あんなスタイルもあるの?」という質問も出てきました。それに対して「アニメの世界だけだよ」と返し、笑いが起こる場面もありました。訪日客ならではの質問で興味深かったです。
▲最初に剣道の歴史を学びます
剣道といえば、礼節のイメージがありますが、体験でも、最初に正座の仕方、黙想、礼を学び、実際に所作を行ってから練習へ進みます。ここまで、やや笑いもあり楽しい雰囲気でしたが、これから「いよいよ始まる」という緊張感が高まります。
▲正座の方法、黙想、礼を学んでから始めます
実技は、防具なしで約1時間の基本トレーニングから始まり、その間に2回の飲み物休憩を挟みます。その後、防具をつけて約30分の対面練習、最後の約20分は試合です。挑戦したい人は、トシさんとの試合も可能です。筆者も体験してきましたが、対戦相手の目を見るだけで飲まれそうな迫力でした。
印象的だったのは、進行です。ユーモアで楽しませる時間と真面目に集中する時間の切り替えがとても上手だなと見ていて感心しました。武道は一歩間違えば怪我に繋がります。剣道特有の「やぁー」「めん」などの声だし、要所でトシさんが大きな声で全体をしめることで、体験全体にメリハリが生まれ、安全に楽しめるという安心感がありました。
▲トシさんの指導でたった2時間で試合ができるまでに
体験中は動画や写真をたくさん撮影してもらえ、終了後はGoogleドライブで共有してもらえるのも嬉しいポイントです。
なぜ高評価につながるのか。体験して見えた満足度を支える3つの工夫
トシさんのツアーは、約2万円という金額だけを見ると決して安価ではありません。しかし、剣道家から直接学べることや体験全体の満足感を踏まえると、参加者にとっては価格以上の価値を感じられる内容になっているのではないかと感じました。
では、なぜその評価につながっているのでしょうか。体験を通して見えた3つの工夫から、その理由を考えてみました。
「体験」ではなく「トレーニング」。本物らしさを生む向き合い方
ツアータイトル「Samurai training」は、体験してみるとまさにその言葉通りでした。今回の体験は剣道に少し触れるアクティビティ体験というよりは、実際にトレーニングを受けたと感じられるものでした。
その理由は、トシさんが本物の剣道家であるということにあります。ただそれ以上に伝わってきたのは、そのトシさんの立ち居振る舞いや場の作り方でした。必要以上に参加者へ迎合せず、大きな声出しや大きな音を出した踏み込みで場を締める。ドキッとする場面もあるのですが、適度な緊張感があるからこそ、「本物を体験した」という感覚につながっていたように思います。
こうした体験設計の背景には、トシさん自身の歩みもあります。前職は公務員でしたが、「起業したい」と考えたとき、自分にできることを探し、5歳から続けてきた剣道と、トシさんの妻であるクミコさんの英語力を掛け合わせて体験事業を始めたそうです。
開始当初は「やってみよう」という気持ちだったものの、運営を続けるなかで「日本文化をちゃんと伝えたい」という想いが強くなっていったといいます。体験中の進行、参加者との向き合い方を見ていると、その想いは単なるアクティビティ提供ではなく、剣道という文化そのものを届けようとする姿勢にも表れているように感じました。
価格設定が「本気で楽しみたい参加者」を集めている
競合他社の値付けも意識しつつ、現在は1名約2万円で販売をしています。安売りせず、一定の価格で販売することで、参加者の温度感を同じラインで揃えることができます。
この金額を払ってでも文化体験を真剣に楽しみたいという参加者が集まることで、体験全体にも自然と集中した空気が生まれます。その空気感が、結果として参加者一人ひとりの満足度を高め、体験全体の質にもつながっているように感じました。
役割が明確な4名体制が安心感をつくる
今回案内してくれたスタッフは、剣道家のトシさん、留学経験があり英語の堪能なクミコさん、通訳案内士のクミさん、剣道仲間のコウタさんの4名です。
筆者を含む5名の参加者に対して、4名のスタッフという手厚さは安心感の1つですが、4名の役割がそれぞれ異なる点もよかったです。トシさんが全体をリードし、英語案内や撮影はクミコさんとクミさんがサポート、コウタさんは着替えやデモンストレーションのサポートを担当していました。参加者から見ても「誰に何を聞けばいいか」がわかりやすいのが利点です。
現在、FITはOTA経由での予約が中心ですが、旅行会社や企業からのMICE向けの依頼も増えており、団体(15名~100名以上)や出張デモンストレーション等も積極的に取り組んでいるそうです。
「立ち上げて間もなく、小規模でやっているので、柔軟に対応できるのが強み」とトシさんは語ります。一方で、今後提供領域を広げていくには、やはり人材も必要になるため、育成も同時に行うことが大切だと改めて感じました。
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