インバウンド特集レポート

誰が観光地を支えるのか? 二重価格から考える観光価格のあり方

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二重価格の導入をめぐる議論が、日本でも広がっている。しかし、この問題は「導入するべきか、しないべきか」という賛否だけでは語れない。観光地の維持管理や文化財保全、オーバーツーリズム対策、そして公平性。価格の背景には、多様な論点がある。本稿では、二重価格を切り口に、観光価格の役割や、観光地を誰が支えるべきなのかについて、観光学の視点から考察する。

 

1. 二重価格をめぐる議論はなぜ広がっているのか

発展途上国や新興国では以前から外国人旅行者と国民で異なる価格を設定する「二重価格」が一定数存在し、国民に比べて数倍から数十倍の価格が設定されることがある。また、その国民向けの料金が現地語のみで表示され、現地語を解さない外国人旅行者は、二重価格が設定されていること自体に気づかない場合もある。
このように、外国人旅行者に価格差を十分に説明しない運用は、観光地やその国への信頼を損なう恐れがある。
ただ「国外から来た者から多く徴収する」という考えに、外国人旅行者は一定の理解を示しているのも事実である。また、近年ではフランスやアメリカといった先進国においても一定の外国人旅行者にのみ適用される価格設定が見られるようになっている。
日本でも外国人旅行者に対する価格差、すなわち二重価格の是非が議論されるようになった。2015年には「爆買い」が流行語になるなど、中国人旅行者をはじめとする外国人旅行者による国内での買い物消費の大きさが注目され、日本経済を支える存在として歓迎されてきた。しかし、近年ではその消費力を前提として、外国人の支出をより意図的に高く設定しようとする二重価格の議論が生まれるようになった。このことは、外国人旅行者に対する日本社会の意識や、観光を取り巻く環境が変化してきたことを示唆している。

なお、本稿では、同一サービスに対して利用者の属性、特に国籍や居住地を理由として異なる価格設定がなされている状態を「二重価格」と呼ぶ。つまり、サービスが異なっていれば、価格が異なるのは当然であり、それは二重価格とは呼ばない。

 

2. 国内価格と国際市場価格、その違いをどう考えるか

一般的に、観光による経済効果は国内の製品を国外に輸出して外貨を稼ぐ輸出産業と同様の効果を持つ。日本においては、自動車輸出産業(17.6兆円/2025年)に次ぐ第二位の規模(9.5兆円/2025年)にまで成長しているのが訪日外国人旅行者による旅行消費額である。

では、観光という「輸出産業」の価格は、国内市場を基準に考えるべきなのか、それとも国際市場を基準に考えるべきなのだろうか。二重価格を考える上では、この視点が重要になる。

貿易において、製品を国外に輸出すると、輸出先の国は「関税」をかけるため、消費者には関税相当分の追加負担が求められる。それは、安価な輸入品に対して価格競争力で負けないように国内産業を保護したり、国として税収を増加させたりするためである。対して、観光という「輸出産業」には、「関税」に相当する制度はない。

そこで、日本の物価が海外に比べて相対的に安く、訪日外国人の購買意欲も高い現在、国外の物価水準や購買力を踏まえて、外国人旅行者の価格を高く設定しようとする考え方が、昨今議論されている「二重価格」である。

車やバイクの乗り入れが制限されているギリシャのイドラ島(筆者撮影)▲車やバイクの乗り入れが制限されているギリシャのイドラ島(筆者撮影)

確かに、関税が国内産業の保護や国民の利益につながるのと同様に、「外国人価格」を取り入れることで、国民がより安価に国内旅行を楽しめる環境につながるという意味で、一定の正当性を持つようにも思われる。
しかし、関税と二重価格は本質的に異なる。
関税が、国際市場の価格を国内市場の基準に近づけるものであるのに対し、昨今議論されている「二重価格」は、国内市場の価格を外国人旅行者という対象者に限定して、国際市場の価格に合わせようとするものであり、本質的な思想は大きく異なるのだ。
端的に言えば、二重価格は、価格設定を国外の基準に合わせるのか、国内の基準に合わせるのか、という問いでもある。

国際観光は国境を越えた移動を前提とする。国が変われば物価も異なり、それも含めて国際観光で味わう地域の魅力の1つである。ところが、現在議論されている外国人旅行者向けの二重価格は、国間に生じている物価差を外国人旅行者に限って意図的に縮小し、旅行者が体感する価格を国際市場水準に近づけることを是とする議論とも言える。

 

3. 観光地を支える財源をどう確保するか

人口減少や高齢化に伴い、地方財政は厳しい状況が続いている。そのなかで観光は地域経済を支える重要な産業として期待され、近年はDMOによる観光地経営や、それを支える財源確保の重要性が高まってきた。その結果、宿泊税の導入や入湯税の見直しなど、新たな財源確保策を進める自治体も増えている。行政による二重価格の導入という議論は、このような自治体独自の財源確保策の1つとしても位置付けられる。

訪日外国人旅行者は1人あたり平均で22.9万円(2025年、観光庁調査)もの支出をしており、年間の総支出額は約9.5兆円(同上)にものぼる。それなのに自治体の観光財源が十分ではなく、追加で宿泊税や入湯税、二重価格など観光客の負担を求める背景には、観光振興によるお金の循環が十分でないという理由もある。

一般的な製品は、企業が投資を行って商品開発をし、それを顧客にPRし販売することで利益を挙げ、社員の給与や次の投資へとつなげていく。
これを「観光地」という商品に当てはめると、地域が投資を行って受け入れ環境を整備し、観光客にPRし、地域で消費されることで利益が生まれ、それがさらに受け入れ環境の整備につながっていくということになる。

地域で生まれた利益の多くは民間事業者の収益となり、サービス向上や設備投資へと再投資される。一方で、景観整備や公共空間の活用、案内サインの多言語化、文化財の維持管理など、地域全体の受け入れ環境を支えるのは行政の役割である。
しかし、観光客による消費は法人税などを通じて間接的には行政へ還元されるものの、地域の受け入れ環境整備に必要な財源へ必ずしも直接結び付くわけではない。

それゆえ、直接的に行政収入になるような宿泊税や入湯税、さらに二重価格という仕組みが検討されているとも言える。

▲駐車料金の値上げにより、財源を確保する白川郷。それでも今なお多くの観光客が訪れる(筆者撮影)

ただし、宿泊税や入湯税が一律に課される制度であるのに対し、国籍を基準とした二重価格は対象者を限定する制度である。そのため、いずれも観光財源を確保する手段といえるものの、同列に位置付けることは適切ではない。

景観整備や文化財の維持管理といった行政サービスは、必ずしも観光客のためだけのものではなく、地域住民の生活環境を向上させるアメニティでもある。このような行政サービスに観光客から得られる財源を充てることは、観光振興による地域住民への恩恵を高める点で評価できる。しかし、その財源を過度に観光需要に依存することは、観光市場の変動による減少というリスクを伴うものでもある。

 

4. 二重価格はオーバーツーリズム対策になるのか

また、昨今は、観光客の過度な集中が地域住民の生活への悪影響や観光の質の低下を招く「オーバーツーリズム」が課題になっている。これらの対策もまた観光客の受け入れ環境整備の1つと言えるだろう。
オーバーツーリズムの解決策の1つとして課金政策が有効とされている。たとえば、美術館や博物館などでは、施設入場料の引き上げにより、一定程度混雑を低減できると期待される。しかし、混雑の要因となっているのは外国人旅行者のみではない。また、昨今、SNSでとり挙げられる外国人旅行者によるマナー問題が話題になることが多い。そのため、外国人旅行者から多くの金銭を徴収し、マナー対策をすることも考えられる。ただし、全ての外国人旅行者のマナーが悪い訳ではなく、ごく一部の外国人旅行者による観光行動が問題なのである。

また、筆者が川越で実施した調査によると、日本人よりも外国人旅行者の方が地域に配慮した行動を取ろうとする姿勢を見せており、日本人旅行者のマナーが完璧とも言い切れない。
以上を踏まえれば、オーバーツーリズム対策を理由に、外国人旅行者のみに追加で課金することの正当性は疑われる。例えば、混雑緩和を促すには、ダイナミックプライシングや入場者数の限定など、混雑そのものをコントロールする手段の方が有効であろう。

筆者が調査を行った川越にあるカフェ、大勢の人で賑わっている(筆者撮影)▲筆者が調査を行った川越にある土産物店、大勢の人で賑わっている(筆者撮影)

 

5. 二重価格は「公平」なのか

日本国憲法第14条は、「法の下の平等」を定めている。この考え方は国民だけでなく、在留外国人や一時的に日本を訪れる外国人旅行者にも及ぶと政府は示している。そのため、現在の二重価格をめぐる議論では、「公平性」が重要な論点の一つとなっている。
国内の二重価格をめぐる議論のきっかけの一つとなった姫路城の入場料についても、憲法第14条への配慮から、外国人旅行者のみを対象とした料金引き上げは見送られた。

にも関わらず、世論は外国人旅行者からより多くの支出を促す二重価格に対する賛同の声が多く、ある民間調査によると、7割が賛成だという。
また、筆者が2025年6月に実施したインターネット調査(N=470)の結果によると、二重価格を支持する層には、大きく二つの傾向が見られた。
一つは、外国人旅行者の消費による経済活性化を期待する層、もう一つは、外国人旅行者の訪日自体を否定的に捉えている層である。つまり、二重価格への支持の背景には、日本経済の停滞に対する危機感と外国人旅行者に対する排他意識という2つの異なる価値観が存在していると考えられる。
前者について、従来、二重価格は発展途上国や新興国のみで見られた方法であるが、その国の富裕層は外国人旅行者の支出に依存しなければならない国の経済状況に失望していることが研究で明らかになっている。対して、日本では、外国人旅行者の支出が日本経済を支えることへの期待が高まっているが、それは、現在の日本の経済状況に対する悲観的な見方の裏返しでもあると言える。なお、前者は外国人旅行者を否定的に捉えているわけではないことも付記しておく。

▲インドネシア、バリ島にあるタナ・ロット寺院では、外国人と現地の人を分ける二重価格を導入している(筆者撮影)

一方、外国人旅行者を否定的に捉える層は、日本人価格の5倍から10倍という大きな価格差を望む傾向にあった。外国人旅行者は日本にとって迷惑をかける存在であり、二重価格によってできるだけ高い金額を徴収すべきだ、という論調である。しかし、この発想は、結果的に外国人旅行者の支出によって日本の観光地を支えることを肯定するものであり、外国人旅行者への排他意識と経済的依存という逆説的な状況を生み出しかねない。

つまり、外国人旅行者に対する二重価格の導入を進める場合、一部の国民にある外国人排他意識を肯定する可能性にも目を向ける必要がある。
国際観光は、本来、国境を越えた文化交流や相互理解を促す意義を持つものである。しかし、二重価格を通じて排他意識を肯定させるようであるならば、それは、平和産業としての観光の立ち位置を危うくする。

 

6. 旅行者は二重価格を受け入れているのか

ここまでは制度や社会の側から二重価格を見てきたが、支払いが求められる外国人旅行者の立場から検討することも重要である。

発展途上国や新興国における二重価格に対しては、旅行者が比較的好意的に二重価格を受け入れ、支払う意思があることが示されている。筆者の研究室に所属する学生がバンコクで実施した調査においても同様の傾向が確認された。その理由としては、「自分たちの国の物価水準に比べたら安い」「地域の文化財保護や経済に貢献したい」などが挙げられる。こうした外国人旅行者自身の二重価格に対する受け入れ意識を根拠に、二重価格は正当化されるべきという考え方もあるだろう。
しかし、旅行者に支払い意思があることと、二重価格という制度が正当化されることは同じではない。二重価格は、旅行者の意思にかかわらず、一律に適用される制度だからである。

既に二重価格が導入されている国々での外国人旅行者の意識把握では、「二重価格を受け入れる」と回答した旅行者が、制度に対して受動的に理解を示して受け入れているのか、積極的な歓迎の意を示しているのかを区別することができない。
「地域の文化財保護や経済に貢献したい」という旅行者の姿勢は評価できるものである。その背景には、寄付にも通じる意思を読み取ることができる。
しかし、寄付が自主的な行為であるのに対し、二重価格は旅行者の意思にかかわらず適用される制度であることに留意する必要がある。

京都で桜のスポットとして有名な蹴上クランクイン(筆者撮影)▲京都で桜のスポットとして有名な蹴上クランクイン(筆者撮影)

一方で、「自分たちの国の物価水準に比べたら安いから」という考えは、一見すると旅行者の寛容な姿勢を示しているように思われる。しかし、その背景には、「経済的に豊かな国」から、「まだ豊かではない国」を訪れるという関係性がある。それは国際協力にも通じる側面がある一方で、「支援する者」と「支援される者」というヒエラルキーを強調してしまう可能性も否めない。つまり、二重価格は、外国人旅行者と地域住民との経済的な立場の違いを、より際立たせることにもつながる。

もちろん、先進国である日本で二重価格が導入された場合の外国人旅行者からの捉えられ方は、発展途上国や新興国におけるそれとは異なる可能性もある。しかし、円安ですでに新興国から見ても相対的に日本は「安い国」であり、二重価格の導入は、「外国人旅行者の経済力に依存する」日本というイメージを作り出すものになるかもしれない。

 

7. 地域住民を基準とした二重価格

これまでに議論してきた二重価格は、外国人旅行者か日本人か、という国籍や居住地を基準としたものであった。それに対して、姫路城のように、地域住民とそれ以外で料金を分ける考え方もある。

2026年に策定された観光立国推進基本計画では、「インバウンドの戦略的な誘客」と「住民生活の質の確保」の両立が掲げられており、「国民生活の質の確保」とは記されていない。したがって、今後は、観光客の来訪によって得た収入を観光振興と地域住民の生活環境の改善の両者に用いることが期待される。そのため、地域住民とそれ以外の来訪者での二重価格の設定は、一定の合理性があると考えられる。

観光客が外国人か日本人かを問わず、地域住民にとっては観光客の来訪によって混雑や渋滞といった生活上の環境負荷がかかる。だからこそ、観光客の負担によって生活環境の管理を行うと同時に、地域住民は住民価格で利用できる仕組みになれば、居住環境の維持や域内観光の充実にもつながる。その結果、地域住民、観光客、地域の三者に利益をもたらすことができると期待される。

韓国ソウルで伝統的な韓屋が立ち並ぶ北村韓屋村(プクチョンハノクマウル)。地域住民の生活を守るため、観光可能な時間帯が制限されている(筆者撮影)▲韓国ソウルで伝統的な韓屋が立ち並ぶ北村韓屋村(プクチョンハノクマウル)。地域住民の生活を守るため、観光可能な時間帯が制限されている(筆者撮影)

日本は人口1億人を抱え、国民による観光需要も決して少なくない。2025年の統計によると、日本人による国内旅行消費額は外国人旅行者によるそれを大幅に上回る26.8兆円である。国籍に関係なく、地域外から訪れる人が観光地を支える仕組みが確立すれば、財源確保の安定性は増すとともに、観光地としての持続性も増すだろう。

 

8. 二重価格が私たちに問いかけるもの

たかが外国人料金、されど外国人料金。観光立国を志して四半世紀の月日が経ち、国民を主な市場としてきた日本の観光地は、いまや外国人旅行者を重要な市場として受け入れるようになった。そして今、国籍や居住地にかかわらず同一価格が当然とされてきた時代から、外国人旅行者を対象とした二重価格という新たな考え方が生まれ、さまざまな議論が起こっている。それは単なる価格設定の問題にとどまらず、国際観光を経済・財政・政策・社会・倫理といった多様な視点から再度検討していくきっかけを我々に与えているとも言える。また、二重価格の議論を突き詰めると、「観光地は誰によって支えられるのか」という問題に帰着する。だからこそ、二重価格を単なる金額設定の問題と捉えずに、観光地の未来を誰が支え、どのような観光を目指すのかという視点から、多様な立場から慎重な議論がなされることが望まれる。

 

著者プロフィール:

西川 亮 立教大学 観光学部 准教授

1985年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学大学院都市工学専攻修士課程修了後、(公財)日本交通公社研究員。その後、博士課程修了。博士(工学)。立教大学観光学部助教を経て現職。専門は観光政策、観光まちづくり。持続可能な観光や観光地再生、観光行動変容などの研究に取り組む。主な著書に「ポスト・オーバーツーリズム(共著)」や「越境と風土・伝統の哲学(共著)」など。

 

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