インバウンドコラム
「世界観光ガイド連盟」(WFTGA)の第21回総会「WFTGA2026」が、2026年2月9日〜13日に福岡で開催された。世界47カ国から602名が参加し、そのうち510名が海外から、さらに94%が欧米市場からという、日本のインバウンド業界にとって極めて注目度の高い国際会議となった。
参加者の多くは総会だけでなく、前後のプログラムを含めて約3週間にわたり、九州や西日本に滞在した。彼らは単なる旅行者ではない。日頃から世界各地で旅行者を案内し、旅行商品や観光コンテンツを評価する「旅のプロフェッショナル」である。
筆者はホスト団体である一般社団法人九州通訳・翻訳者・ガイド協会(K-iTG)の常務理事として、誘致活動からツアー造成・実施、広報まで運営に深く関わった。本稿では総会の内容に加え、世界のプロガイドが日本の地域観光をどう評価したのか、欧米市場には何が響いたのか、そして日本側が何を学ぶべきかについて、現場で得た気づきを共有したい。
▲総勢600名近くが一度に記念撮影を行った閉館後の福岡市博物館でのユニークベニュー
世界70カ国・地域、20万人が加盟する世界観光ガイド連盟、福岡総会が実現
世界観光ガイド連盟(World Federation of Tourist Guide Associations)は、観光ガイドの専門性向上と国際的ネットワークの強化を目的に1985年に設立された非営利団体で、世界70カ国・20万人以上のプロの観光ガイドが加盟。ユネスコとの連携協定を有し、国連世界観光機関(UN Tourism)にも加盟している。
総会は2年に一度開催され、開催地は加盟団体によるコンペティションで決定される。2018年に福岡市からの要望を受け、検討をしつつ、2020年からK-iTGを中心とした実行委員会を立ち上げて誘致活動を開始。2022年の総会では初トライで敗退したが、2024年のシラクーサ総会で開催地として選ばれ、2026年に日本では初となる総会開催が実現した。
▲2024年1月、イタリアのシラクーサ総会での日本チームのプレゼンテーション
「オールJAPAN」で実現した日本初開催。参加者602名、94%が欧米市場
本総会の企画運営はK-iTGがホスト団体として担ったが、誘致開始時から、国土交通省、観光庁、日本政府観光局(JNTO)など地元福岡や九州の自治体を含めて「オールJapan」として取り組んできた。
WFTGAの本部はオーストリア・ウィーンにあり、加盟団体・会員の多くを欧米市場が占めることから、訪日旅行促進の観点でもの大きな期待が寄せられていた。その表れか、今回の国際会議は、日本政府観光局から2024年国際会議貢献賞を受賞している。
当初は、日本へ集客できるか不安があったが、実際に蓋を開けてみると、嬉しい悲鳴をあげることになる。通常300人程度で開催される総会に対し、今回は世界47カ国から602名が参加。そのうち510名が海外からで、海外参加者の94%を欧米市場が占めた。
テーマは「Sustainable Tourism for the Future」
WFTGA2026のテーマは、「Sustainable Tourism for the Future」だ。総会期間中の2月9日~13日は、ガイドを取り巻く環境やスキルアップ、ITとガイドの関係、日本文化や食文化などをテーマとしたセッションやワークショップ、ネットワーキング、福岡市、近郊のツアーを実施。
また、総会前後には九州や西日本各地を巡るプレ・プログラム、ポスト・プログラムも実施され、参加者は地域の文化や自然、暮らしを体感する機会を得た。参加者アンケートでも、「良い」「とても良い」が90%を超え、高い評価を得ることができた。
世界のプロガイドに向けた「学びの旅」を造成
筆者はツアー部会長として、K-iTGの各県支部長やガイド担当者と協議を重ねながら、これらのプログラム造成に携わった。企画にあたっては、プラスチックをできるだけ使用しない、紙資料を減らすなどの「環境への配慮・保全」はもとより、一子相伝などで受け継がれる伝統工芸の継承、地域で連綿と行われる祭りや神事、地産地消の食など、サステナブル・ツーリズムの考え方を反映した。
プレ・プログラム、ポスト・プログラムの概要は下記のとおりである。
開催決定後、日本の実行委員会事務局とWFTGA本部は、序盤は月1回、会期が近くなると週1回ほどオンライン会議で打合せを行った。その中で、WFTGAのセバスチャン・フランケンバーガー会長からは、「案内するガイドもプロフェッショナルでないといけない。そして、通常の観光旅行ではなく、ガイドにふさわしい『学びの旅』を」という要望が出された
そのツアー・プログラムを実施する中で、今後のガイド手配やコンテンツ・ツアー造成を考える上で参考になると感じた点が3つある。
(1)20人のゲストに1名のガイド、ガイド、ゲストともインカムの利用
まずは、ガイド体制である。今回はバス1台(40名程度)にガイド2名(スルーガイドとサブガイド)が乗車、訪問先では適宜2グループに分かれ、1名のガイドが20名以内の参加者を案内した。ガイド、参加者とも全員がインカムを利用できるよう600台を用意。これにより、離れてもガイドの説明をきくことができ、参加者からの質問や位置の確認もできた。これは世界のガイド現場ではスタンダードになっている。
▲インカムを使ってのガイディング
(2)世界のガイドをガイドするための総合的なスキル研修
次に、ガイドに求められるスキルである。WFTGA本部からは、英語の語学力だけでなく、総合的なスキルや対応力の向上を求められ、WFTGAトレーナーによる研修を実施した。KISS(Keep It Short and Simple)の考え方や、知識を伝えることに偏重しがちな日本人に多いガイディングではなく、もっと参加者をひきこんでいく表現などを実践。また、「Experience Design」(Must→Should→Could)の手法を学び、ガイドによる品質のばらつきを抑える工夫を行った。
(3)荷物はトラックで別送し、京都駅近くの廃校で引き渡し
参加者の多くが総会前後も含めて日本各地を旅行することから、ポスト・プログラムでは荷物の別送を行った。最終地点の京都では、関西・通訳ガイド協会の虎谷会長の協力のもと、京都駅近くの廃校跡を利用。参加者の宿泊施設ごとに分けられた600個以上の荷物の様子に「アメージング!」と感嘆の声を上げ、整然と並んだスーツケースの様子を写真に収める参加者も少なくなかった。

参加者に響いたのは「地域の物語」と「人との出会い」
WFTGA福岡総会の開催に合わせ、令和7年度MICE開催地としての魅力向上事業の採択プロジェクトとして、下記の6つの体験プログラムが実施された。ここでは、その概要と参加者に刺さったポイントを簡潔に示していきたい。
1 ユニークベニューとして閉館後の福岡市博物館を利用
総会3日目の2月11日、終日参加者全員が福岡市や近郊の学びの旅に出る「スタディツアー」の締め括りとして、閉館後の福岡市博物館をユニークベニューとして利用し、ネットワーキングディナーを開催。ロビーでのビュッフェに加え、博多ラーメンやうどんのキッチンカーを用意。階段や踊り場を利用しての宮崎県高原町の神舞や博多祇園山笠振興会による祝い唄の披露など、エンターティンメントの場としても効果的だった。
天候に関わらず、600名による集合写真(本記事1枚目)とドローンによる動画撮影ができることや、開始当初に地元ガイドによる常設展示の案内を行ったのも好評を博した。

2 被爆者講話&長崎の和華蘭文化を体験するネットワーキングディナー
ポストプログラムに参加した約400名が参加。長崎原爆資料館のホールにて、被爆者の英語による講話と資料館見学を行い、世界で唯一の被爆国である長崎の「平和を希求する想い」を体感してもらった。
その後の交流会「Nagasaki Stories」では、長崎大学の龍踊部による「龍踊」 や長崎検番の演舞、オランダ通詞に扮した司会による英語での「長崎はじめて物語」のプレゼンテーションなどを通じて、長崎の真髄である和華蘭文化を紹介。被爆者講話は、5分間にわたるスタンディングオベイションを受け、その後の文化交流会とのバランスがとれた1日との高評価を受けた。
▲長崎検番とともに踊りのパフォーマンス
3 野生のツルが飛来する環境を保全する取組 鹿児島県出水市〜鹿児島市
プレ・プログラムのBコースで実施。世界でも有数のツルの越冬地で、毎冬1万羽を超すツルが飛来し、特に絶滅危惧種のナベツルはここに世界中の90%が集まるという鹿児島県出水市を訪問。地元の人がツルを保護する取組や、武家屋敷群では、現在まで生かされている薩摩独自の防御システムと構造を学んだ。
その後、バス移動で、鹿児島市の大名庭園「仙巌園」を訪問、閉園間近での到着になったため、営業時間を1時間のばしてもらい、庭園の散策を楽しんだ。「武家屋敷や仙巌園にもっと時間がほしかった」との声が多く、歴史を刻む場所を好むヨーロッパ系旅行者向けの旅程の今後の参考になった。
▲ツル観察センターの2階からの風景 餌を定時で散布している
4 火山との共生を学ぶツアー 鹿児島県桜島
プレ・プログラムBコースの3日目に実施。世界有数の活火山である桜島では、噴火と成長の歴史に加え、島内に3500人、フェリーで15分の鹿児島市に約60万人が暮らしていることに参加者は大きな関心を示した。
火山によってもたらされる恵みと共生を体感できる学びの旅となるよう、火山学者の講話や桜島大根の農家での収穫体験、桜島の恵みを受けた黒酢工場、日本初の黒酢レストランでの食事を体験。火山、自然の恩恵を受ける「人々の暮らし」を実際に体感できたと好評だった。
▲「ファームランド櫻島」での櫻島大根の収穫体験
5 大名の末裔が語る未来と、匠の技が残る古いまちなみを守る 福岡県柳川市・大川
ポスト・プログラムのBコースの3日目に実施。福岡県筑後エリアの大川市、柳川市という昔ながらのまちなみ、自然、営みをまもる人々の取組にフォーカスした。
大川では、NPO小保・榎津藩境のまち保存会の取組を体感できるよう、別当の住宅である「旧吉原家住宅」の見学と伝統工芸である大川組子制作の体験、400年近い歴史を持つ「庄分酢」の酢蔵見学などを実施した。
柳川では水路を利用する暮らしを体感するための川下り、大名の別邸である「御花」で庭園や邸宅を見学し、末裔である立花千月香氏から次の100年を見据えた話を聞いた。参加者からは、「日本の小さなまち」の日常が高く評価された。
▲大川市・旧吉原家住宅での組子制作を参加者全員が体験
6 茶の体験と匠の手仕事 福岡県八女市
ポスト・プログラムBコースの4日目に実施。福岡県筑後エリア、八女は日本茶の中でも玉露など高級茶の里として知られるが、加えて仏壇や和紙、竹細工など伝統工芸を伝承し、発展させている。
参加者は「茶の文化館」では「八女茶」の真髄にふれ、「八女伝統工芸館」では「匠の技」を学んだ。また、伝建地区である八女福島地区で、歴史あるまちなみや地元の取組も体感した。
「抹茶だけでない日本茶」「受け継がれる伝統工芸」に関心が高かった上、サステナブルな運営を行ういちごの観光農園での見学と試食や地元食材を中心として提供する食事処での昼食、夕食など多様な食も魅力的だと評価をうけた。
▲八女茶の挿れ方を教わり、『うまみ』を味わう体験
SNS投稿コンテストで500件以上の口コミが集まる
誘致決定当初から、本総会の参加者であるガイドは「旅行のプロであり、欧米を中心としたインフルエンサー」としても期待されていた。以前の総会でも、訪問地を盛んにSNSに投稿していたからだ。
そこで、2026年2月1日〜28日にSNS投稿コンテストを実施した。Instagram、Facebook、YouTubeなどの個人(公開)SNSで、写真やリール動画に文章を添えてハッシュタグ「#wftga2026」と地域名を入れた投稿を募集。502件の投稿が集まり、非公開グループのWhatsAppをあわせると1000件以上の情報発信につながった。優秀賞は下記の投稿。
▲福岡タワーや防災センター、博多旧市街など福岡の伝統とモダンを綴った最優秀賞
ガイドは平和の架け橋に。長崎でのレガシープロジェクトから考えるガイドの使命
MICEでは、開催地に何かしらのレガシーを残すことが通例となっている場合が多い。本総会では、ポスト・プログラム2日目に実施した「長崎平和公園での折り鶴献納と平和宣言」が、そのハイライトにもなった。
▲左からK-iTG水谷会長、フランケンバーガーWFTGA会長、鈴木長崎市長
このプロジェクトは、2025年1月にWFTGAのセバスチャン・フランケンバーガー会長が視察で長崎を訪れた際に、鈴木長崎市長と『平和』をテーマとしたレガシーを残そうと計画したことで実現した。当日はポスト・プログラム参加の約400名が平和祈念像前に集合、鈴木長崎市長をはじめとする挨拶と平和宣言、署名、写真撮影などが行われた。
なかでも、フランケンバーガー会長の10分におよぶスピーチは参加者に深い感動を与えた。会長は、「ガイドは単に情報を伝達する存在ではなく、歴史や文化を紐解く『インタープリター』である。被爆地・長崎において、直接の体験者である『語り部』が少なくなっている今、直接惨劇を目撃していない我々こそが、人間としての尊厳を物語の中心に据え、歴史を風化させない責務を担うべき」と訴えた。
旅は平和が保たれている時こそ実行できる。そしてガイドは国・地域の相互理解を深めることができ、平和の架け橋として重要な使命を担うということを改めて認識した。
ガイドを取り巻く環境づくりのために
約3週間にわたる公式プログラムは、関係自治体や企業、ボランティアの方々など、多くの関係者の支えにより、大きな事故もなく終了することができた。
ここ数年、旅の高付加価値化を目指す動きにともない、国や自治体の補助、公募事業として、「ガイド育成とコンテンツ開発」をセットにした内容が非常に多い。筆者自身も年に5件以上は関わっている。そこで感じるのが、自治体や推進事務局の担当者、関係者の中で、ガイド付きツアーを経験した人が少ないということだ。
まず国内外で、「旅行者として」ガイド付きの旅を体験していただきたい。もちろんガイドの力量の差はあるだろうが、ガイドが伝える地域の魅力、物語についての対価はどのくらいが適切なのか、ガイドなしで訪問した場合とは何が違うのか、いろんなことが見えてくるはずだ。
今回の総会を通じて、旅を豊かにする「ガイド」という仕事について改めて深く考える機会となった。筆者自身はガイドではないが、研修などガイドを取り巻く環境を整え、旅行者とつなぐ役割を今後も果たしていきたい。
▼関連記事はこちら
3年で参加者10倍、福岡の取り組みに見るデジタルノマド誘致の新たな価値
最新記事
-

3年で参加者10倍、福岡の取り組みに見るデジタルノマド誘致の新たな価値 (2026.05.13)
-

デジタルノマドが福岡に集結、Colive Fukuoka 2025が拓く共創都市の可能性 (2025.10.23)
-

大分・由布院の上質な宿で体験する、地産地消のガストロノミーツアーレポート (2025.01.24)
-

45カ国400名のデジタルノマドが福岡へ集結、規模を拡大させたColive Fukuoka2024の中身 (2024.12.26)
-

24カ国から50人が滞在、消費額2000万円超。自治体初 デジタルノマド誘致プログラムが福岡にもたらしたもの (2024.04.12)
-

芸術を活用した観光振興、世界をひきつける九州のアート・文化芸術コンテンツの造成 (2023.05.31)
-

文化財の修復過程を観光コンテンツに、収益を保全に充てる熊本城の取り組み (2023.02.24)
-

タイ政府観光庁に聞く、東南アジアいち早く開国したタイの観光戦略 (2022.07.07)

