インバウンド特集レポート

【9月特集/OT対策Vol.1】地域に合ったオーバーツーリズム対策を見極める〜「分類」で考える問題の本質〜

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【9月特集/OT対策vol.1】地域に合ったオーバーツーリズム対策を見極める――「分類」で考える問題の本質

日本政府は2030年までに訪日客6000万人達成を目指している。過去最高を記録した2025年の4268万人からたった5年で1.5倍に引き上げるという目標は一見夢物語に聞こえなくはない。

ただ、円安等を背景とした昨今の日本旅行ブームや、コロナ禍を挟んだ2015年からの10年で同じく2000万人増を果たしてきた結果を鑑みると、決して無理ではないと思わせる勢いもある。

しかし、人口約143万人の街に国内外から年間6300万人近くが訪れる京都市のように、都市部のキャパシティに限界が訪れ、オーバーツーリズム(OT)の問題が顕在化しているのも事実だ。

そうした中、政府の「観光立国推進基本計画」では、「地方誘客促進」を柱のひとつに、訪日客の特定地域への観光集中の分散をオーバーツーリズムの抑制策に掲げている。だが、ここにはひとつの難しさがある。

「混雑している地域から、まだ余裕のある地域へ旅行者を移せばよい」という発想だけでは、オーバーツーリズム問題そのものを解決したことにはならないのだ。受け入れの準備が整っていない地域へ旅行者が急激に流れ込めば、これまで観光とは無縁だった生活道路や公共交通、自然環境、地域コミュニティなどに新たな負荷が生まれる。

つまりこれから求められるのは、単純な「分散」ではない。

そこで本特集では、「地方はどのようにオーバーツーリズムに備えるべきか」を念頭に置きながら、本稿ではオーバーツーリズム問題を「問題の種類」や「負荷」、「取るべき対策」などを分類して整理し、Vol.2では、世界遺産・白川郷がある白川村役場の担当者に実際の対策を選択したプロセスを聞く。そしてVol.3では、龍谷大学の阿部大輔教授に「旅行者への行動の働きかけ」について論じていただく。

 

「観光客が多い」だけでは問題の正体は見えない

オーバーツーリズムという言葉を聞いたとき、多くの人がまず思い浮かべるのは「観光客が多すぎる状態」だろう。人気観光地に人が集中している、バスが満員になっている、道路が渋滞している、観光客が列を作っている……。

週末を中心に、連日多数の人でにぎわう築地場外市場。▲週末を中心に、連日多数の人でにぎわう築地場外市場

しかし、人が多いという現象だけを見ても、それが地域にとってどのような問題なのかは分からない。例えば、同じ観光客が多い状態でも、「広い公園に一日をかけて分散して滞在する」のと、「狭い参道に数時間で集中する」のとでは、地域にかかる負荷は大きく異なる。

だからこそ、オーバーツーリズム対策を考える際には、「観光客が多い」という状態から一歩踏み込み、「何が起きているのか」を具現化することが重要になる。

 

「何が問題なのか」を分類してみる

その上で、本稿でいう「分類」とは、オーバーツーリズムを単純に種類分けすることではない。何が起きているのか、誰、何に負荷がかかっているのか、どのような対策が考えられ、どの段階で旅行者に働きかけられるのかを分解して考え、地域ごとに異なる問題の構造を見極めることである。

こうした視点に立つと、オーバーツーリズムによって生じる負の現象は、下記の表のようないくつかの種類に分けて捉えることができる。

【9月特集/OT対策vol.1】地域に合ったオーバーツーリズム対策を見極める――「分類」で考える問題の本質

これとともに行いたいのが、オーバーツーリズムが引き起こす問題により「地域の誰に最も負荷がかかっているのか」を明確にすることだ。

【9月特集/OT対策vol.1】地域に合ったオーバーツーリズム対策を見極める――「分類」で考える問題の本質

この分類が意味を持つのは、負荷が大きくかかっている場所を見極めることによって、取るべき対策が変わるからだ。

観光庁では、オーバーツーリズム対策を先駆的に行っている45地域の事例を公表している。本事例集を参照しながらこれを説明すると、青森県の奥入瀬渓流では、渓流沿いの国道が狭く、観光シーズンには自家用車が集中することで渋滞や路上駐車が発生し、歩行者の安全確保や自然環境への影響が課題になっていた。

ここで問題になっていたのは、単純に「観光客が多い」ということではない。観光客の移動手段として自家用車が集中し、それによって道路というインフラに負荷がかかっていたのである。

そこで実施されたのが、マイカー交通規制とシャトルバスの運行だ。結果、規制期間中のシャトルバス利用者は3830人から5211人に増加し、大規模な渋滞も発生しなかったという。

狭い国道を車が行きかう奥入瀬渓流。▲豊かな渓流美で知られる奥入瀬では、狭い国道を車が行きかう

ここで注目すべきは、観光客を減らすことではなく、「負荷を生み出している行動や移動手段」に手を入れている点だ。観光客は同じ人数でも、自家用車からシャトルバスに移れば、道路への負荷は変わる。つまり「人数」を見るだけではなく、「旅行者が何をしているのか」を見る必要がある。

また、この視点をもう一段深めると、観光地に重要なのは、観光客にとって便利な地域をつくることではないことがわかる。オーバーツーリズム対策では、「旅行者のための対策」と「住民のための対策」を分けて考える必要はない。むしろ、旅行者の移動方法を変えることによって住民の生活環境も変わるように、双方の負荷を同時に軽減できるポイントを探すことも重要だ。

一例として、埼玉県・秩父地域では、観光客による交通渋滞に対する取り組みで公共交通の利用を促進し、マイカーから公共交通への転換を図った。これは旅行者の利便性を高める施策であると同時に、地域住民の移動手段を守る意味を持つ。

 

「何をしたいのか」を逆算して考える

問題が明確になったら、次に考えるのが負荷を軽減する手段だ。

【9月特集/OT対策vol.1】地域に合ったオーバーツーリズム対策を見極める――「分類」で考える問題の本質

これらを負荷のかかっているところにあてていく。

例えば「特定の時間帯に観光客が集中している」ことが問題ならば、必要なのは人数規制ではなく時間帯の分散かもしれない。同様に「自家用車の集中」が問題ならば、観光客そのものを減らすより、交通手段を変える方が合理的かもしれない。「特定のスポットへの滞留」であれば、周辺への回遊を促すことが有効かもしれない。

つまり「分散」と一口にいっても、場所の分散、時間の分散、手段の分散があり、どこに問題があるかによって選択すべき方法も変わる。

この「分散」を考えるヒントになるのが北海道小樽市の取り組みだ。小樽では、人気スポットへの観光客集中に対して、北運河などへの回遊を促す取り組みを行う一方、朝の時間帯に観光コンテンツを設けることで、観光客の時間帯分散も図っている。

訪日客も魅了する小樽運河の景色。▲訪日客も魅了する小樽運河の景色

しかし、混雑している場所から別の場所に旅行者を送るという「場所の分散」には、ひとつ注意がある。一カ所の観光地に旅行者が集中している場合、周辺の観光地を紹介して人を移動させることは有効だ。しかし、移動先に受け入れ能力がなければ、新たなオーバーツーリズムを生むことになる。

だからこそ分散を講じる際は、移動先の「受け入れ能力」「交通機関への影響」「住民生活への影響」「自然環境への負荷」を確認する必要がある。分散が「問題を消す」のではなく、問題の発生地を移すことにならないように。

 

マナー問題の裏側にある構造を解く

オーバーツーリズムを語る際、しばしば「外国人観光客のマナー」が問題として取り上げられる。確かに、ルールを守らない旅行者の行動が地域に負荷を与えるケースはある。しかし、問題をマナーに集約すると、その背景にある構造を見落とす可能性がある。

例えば、北海道美瑛町では、観光客による農地への立ち入りや、観光バスの路上駐車、特定スポットへの観光客の集中などが課題になっている。こうした問題に対して、同町では特定の時期・場所に警備員を配置する取り組みを行っている。

ここで重要なのは「すべての観光客のマナーを改善する」という大きな目標を掲げるのではなく、問題が発生している場所と時期を特定して、そこに人的資源を集中させるという考え方だ。どこで、いつ、問題が発生しているかが分かれば、必要な場所に必要な対策を投入できる。

マナー啓発そのものを否定する必要はない。しかし、マナー啓発だけで解決できる問題なのか、空間設計や導線、監視・管理体制の改善が必要なのかを見極めることが重要だ。

 

旅行者とのタッチポイントを探す

では、実際に旅行者の行動を変えるにはどうすればいいのか。そこで重要になるのが「タッチポイント」という考え方だ。

旅行者は突然観光地に現れるわけではない。旅行先を検索し、情報を収集し、予約し、航空機や鉄道に乗り、宿泊地に向かい、観光を楽しむ。その一連のプロセスの中に、地域が旅行者へ情報を伝えたり、行動を促したりできる接点が存在する。

【9月特集/OT対策vol.1】地域に合ったオーバーツーリズム対策を見極める――「分類」で考える問題の本質

ここで頭に置いておきたいのは、旅行者に働きかけられる場所が、観光地の現場だけではないということだ。むしろ、旅行前の情報提供によって、旅行者が混雑する場所や時間帯を避けることができれば、現地に強い規制をかける必要がなくなる可能性もある。

一方で、タッチポイントを見つければ、それだけで対策が可能になるわけではない。例えば、旅行者がSNSで観光情報を得ているとしても、そのSNSを地域が直接管理できるわけではない。反対に、自治体が管理できる観光施設の入り口であれば、料金や予約、人数制限など、より直接的な働きかけが可能になる。

つまり、タッチポイントには「強弱」がある。旅行前の情報提供は、多くの旅行者に広く届けられる反面、実際にどの程度行動を変えられるかは不確実さが大きい。それに対して、施設入口での予約確認や人数制限は、対象者に対する強制力が高い。そして、強い対策ほど運用コストや旅行者の利便性への影響も大きくなる。

したがって、「どこで働きかけられるか」だけでなく、「どの程度の強さで働きかける必要があるのか」を考える必要がある。

 

「入口」がある地域と、ない地域

例えば、観光施設や自然公園など、明確な入口を持つ場所なら、旅行者の行動をある程度管理しやすい。

入口でチケットを確認できれば、予約制を導入できる。入域料を徴収することもできる。時間帯別に入場人数を設定することもできる。対して、一般の市街地や集落、生活道路、海岸、農村地域などには、必ずしも明確な入口が存在しない。

明確な入口が存在しないゆえ対策が難しい、江ノ島電鉄「鎌倉高校前駅」の踏切。▲明確な入口が存在しないゆえ対策が難しい、江ノ島電鉄「鎌倉高校前駅」の踏切

旅行者が自由に歩いて入ってくることができる場所では、「入域者数を管理する」という発想そのものが難しい。その場合、「鉄道駅で情報を出す」「レンタカー会社で案内する」「宿泊施設から事前に注意事項を送る」「旅行会社と連携する」「SNSや地図サービス上の情報を改善する」など、地域が直接管理できる場所だけではなく、地域の外側にある接点を組み込む必要がある。

つまり、ゲートがない地域ほど、旅行者の行動プロセス全体に対して働きかける必要がある。

 

「実施主体」の有無と「実行条件」

もうひとつ重要なのが、「誰が対策を実施するのか」という問題だ。

当たり前のことだが、オーバーツーリズム対策は自治体だけで解決できる課題ではない。また、負荷が一カ所に集中している課題であれば、単体の組織で取り組めばいいが、地域全体に負荷がかかっているのであれば、地域全体で解決するための体制が必要になる。

課題に対応する組織がないというケースもある。そうした場合は、新たに実施主体を作らなければならない。

参考になる先例がある。長野県の野沢温泉村では、行政、観光局、交通事業者、旅館組合、スキー場などが協議体を構成し、地域全体で課題に対応する体制が取られている。また、青森県の奥入瀬でも、行政だけでなく事業者や住民を含めた協議体が構築され、自然保護、観光利用、交通規制などを一体的に検討している。

そして、どれほど理想的な対策でも、地域側に実行する力がなければ機能しない。そこで必要になるのが、対策の「実行条件」を確認することだ。

 

この視点に立つと、「他地域で成功したから導入する」という発想の危うさが見えてくる。重要なのは、施策そのものをコピーするのではなく、その施策が成立している条件まで含めて見ることだ。

 

データは「答え」ではなく「診断」のために使う

ここで改めて、美瑛町のようなデータ活用の意味を考えたい。

人流データを集めれば、それだけでオーバーツーリズム対策の「答え」が見つかるわけではない。データが教えてくれるのは、旅行者がどこを移動しているのか、どれくらい滞在しているのか、どの時間帯に集中しているのかという「現象」だ。そこから「なぜここに集中するのか」「その結果、誰に負荷がかかるのか」「何を変えれば負荷が減るのか」を考える必要がある。

つまり、データは対策そのものではなく、診断精度を高めるための材料と捉えるべきだ。

さらに忘れてはいけないのが、対策による問題の移動だ。例えば、人気観光地への入場を予約制にした結果、施設そのものの混雑が減ったとする。これは一見、成功に見える。

しかし、予約時間まで周辺で待つ旅行者が増えれば、今度は周辺地域が混雑するかもしれない。人気スポットへの流入を制限した結果、隣接するスポットへ旅行者が集中する可能性もある。

 

対策後に、もう一度「何が問題か」を見る

そして、対策は導入して終わりではない。むしろ重要なのは、導入した後にもう一度、最初の問いへ戻ることだ。対策によって「何が、いつ、どこで起きているのか」「誰に負荷がかかっているのか」が、どう変わったのかを確認する。

例えば、観光客数は減っていなくても、ピーク時間帯の混雑が緩和されているなら、それは成果といえる。逆に、観光地の混雑は減ったものの、周辺道路の渋滞が増えているなら、新たな問題が生まれていることになる。住民の負担が減った一方で、旅行者の安全性が低下している可能性もある。

だから、評価すべきなのは対策そのものではなく、「当初想定した負荷が、本当に減ったのか」、そして「別の場所や別の主体に負荷が移っていないか」ということだ。

オーバーツーリズム対策は、一度施策を導入して終わるプロジェクトではない。地域の状況や旅行者の行動は変化する。その変化を把握し、必要に応じて対策を調整する。つまり、診断と対策を繰り返すこと自体が、持続的なオーバーツーリズム対策の仕組みなのである。

 

まとめ

最終的に、オーバーツーリズム対策の考え方は、次の4つの問いに集約できる。

【9月特集/OT対策vol.1】地域に合ったオーバーツーリズム対策を見極める――「分類」で考える問題の本質

この順序で考えれば、「とりあえず何かをやってみよう」という施策先行の議論から抜け出すことができる。

オーバーツーリズム対策の先にあるのは、必ずしも「観光客を減らすこと」ではない。目指すべきなのは、観光と地域住民の暮らし、自然・文化資源の保全、そして旅行者の体験を、どのようなバランスで成立させるのかを設計することだ。そして「観光客を呼ぶ地域」から「観光を受け入れる地域」、さらには「持続可能な観光を設計する地域」を目指していく。オーバーツーリズム問題を考えることは、突き詰めれば、これからの地域観光そのものをどう設計するかを考えることに通じるのだ。

>>次はこちら:なぜ、その取り組みに至ったのか〜世界遺産・白川郷のオーバーツーリズム対策、分析と実行〜

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