インバウンドコラム

ギリシャとEUから学ぶサステナブル観光の実践 仕組みと運用をどう結びつけるか【セミナーレポ】

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欧州を中心に、「持続可能であることを証明し、実装すること」が観光地に求められる動きが強まっています。

本セッションでは、ギリシャおよびEUにおけるサステナブル観光の実践をテーマに、ECOCLUB創設者であり、長年サステナブルツーリズムの普及に携わってきたフロッソ・ディミトラコプル氏が登壇。欧州の制度設計や現場での取り組みをもとに、観光と環境保全を両立させるための具体的なアプローチが共有されました。解説およびディスカッションは、一般社団法人JARTA代表理事の高山傑氏が担いました。

第4回セミナーレポート_アイキャッチ

 

制度と現場の両方に関わる実務家としてのキャリア

ディミトラコプル氏は、ロンドンで金融業に従事した後、南米での経験を契機に観光分野へ転身し、エコツーリズムの実践に携わるようになりました。その後、エコツーリズムの国際ネットワーク「ECOCLUB」を創設し、長年にわたり持続可能な観光の普及に取り組んできました。現在はギリシャを拠点に、EUの観光政策やプロジェクトにも関与し、制度設計と現場実装の両面から観光に関わっています。

 

EUのサステナブル観光政策 支援制度と資金を組み合わせて実装が進む

EUにおけるサステナブル観光の特徴は、理念の共有にとどまらず、制度と資金を組み合わせた形で実装が進められている点にあります。特に中小事業者(SMEs)に対しては、「COSME」などのプログラムを通じて資金支援と専門家の伴走支援が提供され、個別の事業改善が具体的に進められています。

また、単一の事業者への支援だけでなく、地域内の事業者同士をつなぐクラスター形成やエコシステムづくりが重視されています。これにより、個別の取り組みを積み上げるのではなく、地域全体で観光のあり方を変えていく構造がつくられています。

 

観光は拡大ではなく影響を前提に管理する対象へ

欧州では、観光を単に拡大させる対象としてではなく、その影響を前提に管理すべき対象として捉える動きが強まっています。

その背景には、オーバーツーリズムの深刻化があります。観光客の増加が地域の生活や環境に与える影響が顕在化し、訪問者数の調整や行動変容を促す取り組みが各地で進められています。

観光税の導入も広がっていますが、課題となっているのは「何に使われているのか」が見えにくい点です。こうした課題に対し、ノルウェーでは観光による影響を評価した上で使途を明確にした「ビジターコントリビューション」の仕組みが導入されており、徴収と地域課題の解決が結びついた制度設計が進められています。

 

体験で観光客の行動を変える ウミガメ保護を軸にした参加型観光の事例

ギリシャでは、制度だけでなく現場での実践として、観光体験を通じた行動変容が重視されています。ウミガメの保護活動を例にとると、ビーチでのガイド付きツアーやボランティア体験を通じて、観光客が生態系について理解し、自ら保全に関わる機会が提供されています。

また、「タートルフレンドリーホテル」といった枠組みによって宿泊施設も取り組みに参加しており、観光客だけでなく事業者側の行動も変えていく仕組みが整えられています。単なるルールの提示ではなく、体験そのものの設計によって行動を変えていく点に特徴があります。

第4回セミナーレポート_ウミガメの事例

 

日本への示唆 点から面へ、制度から運用へ

登壇者のディミトラコプル氏と高山氏によるディスカッションでは、日本の観光の現状についても議論が行われました。

日本では、観光税やサステナブル施策の導入が進む一方で、「どのように使うか」「どう運用するか」という点に課題が残っています。特に、徴収した資金の使途の透明性や、地域住民の理解をどう得るかといった点が重要な論点です。

また、個別の取り組みは増えているものの、地域全体として統合されたマネジメントや、事業者の巻き込みが十分とは言えない状況も見られます。EUの事例に見られるように、制度、資金、事業者、地域を一体として捉え、地域単位で運用していく視点が求められています。

さらに、観光体験の設計においても、単なる消費ではなく、地域の価値や取り組みを伝えるストーリーとして構築することが重要になっています。

第4回セミナーレポート_セミナー対談シーン

 

編集後記 制度を地域で回す仕組みが成果を分ける

本セッションを通じて浮かび上がったのは、サステナブル観光の実現においては、理念や枠組み以上に「運用の設計」が成果を左右するという点です。

EUの事例では、制度や認証そのものよりも、それを支える資金の流れや支援体制、さらには事業者の関与の仕組みまで含めて一体的に設計されている点が印象的でした。単発の取り組みではなく、継続的に改善が回る構造が前提となっています。

一方、日本では制度や施策の導入が先行する一方で、それが地域の中でどう機能しているのか、また誰が担い手となって動かしていくのかという視点は、まだ十分に議論されているとは言えません。特に、資金の使い道や事業者との接続が弱いままでは、取り組みが広がりにくいという課題も見えてきます。

観光を持続可能な形で続けていくためには、制度を導入することではなく、それを地域の中でどう回していくかという視点が不可欠です。誰が関わり、どのように意思決定し、どのように改善していくのか。その仕組みまで含めて設計できているかが問われています。

自地域では、制度や施策が現場の運営や事業者の行動と結びついているか。その仕組みは継続的に機能するものになっているか。こうした視点から観光のあり方を見直すことが、これからの地域に求められているのではないでしょうか。

 

「サステナブルツーリズム国際トークセッション」は、観光を単なる集客や経済効果の手段としてではなく、地域・社会・自然との持続的な関係性の中で捉え直すことを目的とした連続対談シリーズです。世界の最前線で議論されている観光の潮流をタイムリーに共有し、それを日本市場にどのように活かせるのかを明らかにすることを目指しています。

 

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