インバウンドコラム

海外DMOは何を重視しているのか、地域社会を起点にした観光地域経営の考え方【セミナ―レポ】

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海外のDMOでは、マーケティングもデータ収集もKPIも、最終的に「地域社会と住民の暮らし」「地域社会における雇用や投資の増加」に向けて設計されている。

今回は、公益社団法人日本観光振興協会 観光地域マネジメント部長の大須賀信氏を迎え、北米を中心とした海外DMOの最新事例を紹介していただいた。活動のベクトルを「地域社会」に向ける発想と、具体的な取り組みから得られる学びを整理する。

 

世界のDMO統括団体 Destinations International(DI)とは

大須賀氏が最新事例を紐解くにあたり、ベースとなっているのがDestinations International(DI)の知見だ。米国ワシントンを本拠とする世界的なDMO統括団体である。世界29カ国・1000名を超えるメンバーが参加しており、観光を通じて、世界中でより良い生活と社会的価値を生み出すことを目的に、教育プログラムや支援ツールの提供を通じて会員をサポートしている。

日本観光振興協会もパートナーとして参加しており、大須賀氏はDI内の2つの委員会に所属し、最新の知見を収集している。

 

「観光地の強み」と「地域連携」。海外DMOが重視する2つの軸

このDIが開発し、世界400地域以上で実施されている観光地診断ツールが「DestinationNEXT」だ。

これは、地域の観光事業者を対象とした意識調査をもとに、「観光地としての強み」と「地域連携」の2軸から現状を客観的に診断し、将来の戦略づくりにつなげるためのツールであり、それぞれれ12ずつの具体的なチェック項目が設けられている。

北米や欧州のDMOは、この両方にほぼ同等の力を注いでおり、誘客力と地域の支持基盤を両輪として回すことが、海外では標準的な考え方になっているという。

観光庁が示す観光地域づくりの考え方でも、「地域の連携」を土台とした上でマーケティング施策に進む流れが示されている。一方で、実際には成果が見えやすい戦略策定やコンテンツ造成から着手するケースも少なくない。

大須賀氏は、インバウンド誘致に注力した10年の流れは国策として自然なことだとした上で、地域連携の土台を意識的に固めていくことが持続可能な観光地経営のカギだと述べた。

 

データは誰のために使うのか? 住民との対話を生み出すための活用法

北米のDMOに「何のためにデータを使うのか」と聞くと、ほぼ「議会を説得するため」「住民に説明するため」と返ってくる。一方、日本では、取得データが観光庁への提出や理事会向け資料として活用されるにとどまりがちな側面もある。

大須賀氏は、収集したデータは住民向け説明会や地元メディアへの発信など「地域社会との連携を強める機会」に活用すべきだと提言した。データの中身を変えなくても、届ける先、伝え方を変えるだけで意味が変わるという発想である。もちろんDMOには今まで以上にステークホルダーとのコミュニケーション力が要求されることになる。

KPIについても、北米のDMOは「観光が生活の質に寄与していると考える住民の割合」や「住民と共に開発したコンテンツの割合」等を設定しており、日本でも、観光庁が定める必須KPI以外に任意KPIとしてこうした指標を加えることは可能である。

 

「訪れてよし」だけではない、観光を雇用や投資につなげる視点

北米のDMOでは「Community Vitality Wheel」という図が広く使われている。これは、DMOの活動が「訪れてよし・住んでよし・働いてよし・投資してよし」という4つの要素をつなぐ好循環を生み、観光が地域経済や住民生活の向上にまで波及していく様子を示した概念図である。バンクーバーでは、DMOがホテル協会と共同で将来の宿泊需要を予測し、2050年までに約1万室が不足するとの試算を出した。宿泊施設の整備パターンごとのシナリオや、それによる雇用・税収への効果も示し、誘致の根拠として活用している。

オレゴン州のDMOはサイト上で移住定住希望者向けの住宅探しの情報を、ローリー(ノースカロライナ州)のDMOは観光産業を中心に仕事探しの情報を提供している。これらを踏まえ、大須賀氏は「DMOのデータ戦略を、観光に加え、投資や雇用に結びつくところまで視点を広げて考えていくといい」と述べた。

 

司令塔ではなく見守り役、海外DMOに広がるスチュワードシップの考え方

海外のDMOでは「デスティネーション・スチュワードシップ」という考え方が広がっている。地域住民が大切にしている価値観を出発点に、環境・多様性・経済のバランスをとりながら地域を経営していくという姿勢である。

この考え方のもと、DMOの立ち位置は、上から指示を出す「司令塔」ではなく、地域社会と対等に対話を重ねながら一緒に考える「見守り役」に近い。行政との関係も同様で、委託先として受け身で動くのではなく、データを根拠に観光の重要性を説明し、対等な立場で話し合っている。

具体的な取り組みとして、フィンランドのDMO(Visit Oulu)は毎月朝食会を開き、事業者だけでなく住民も参加している。こうした地道な対話の積み重ねが、地域社会とのエンゲージメントを高めている。

 

“ポジティブマインドはお金がかからない”、今日から始められること

海外のDMOに共通するのは、あらゆる事業の目的が最終的に「地域社会と住民の利益」に結びついている点である。ただ、これを見て「日本は遅れている」と悲観する必要はない。

北米のDMOの原型は19世紀末に生まれ、日本とは120年の歴史差がある。だから、ただ海外の真似をするのではなく、海外DMOの取り組みを参考に、「これならできそう」というものを取り入れ、楽しく地域経営をしてほしいと語った。「ポジティブマインドはお金がかからない」──活動のベクトルを地域社会に向け直す意識の転換は、大きな予算がなくても今日から始められる。まずは意識を変えることが、その第一歩となる。

 

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