インバウンドコラム

世界のデジタルノマドが日本を選ぶ理由、離れる理由

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世界のデジタルノマドと話していると、「日本はずっと行ってみたかった場所」という声をよく耳にします。一方で、実際に訪れた人の多くは、「また来たい」とは言っても「ここに住みたい」とは言いません。世界各地で暮らし、福岡で55カ国・約500名のグローバルタレント受け入れに携わってきた私自身の経験から、その理由を考えます。世界の「選ばれる街」と日本の違い、そして地域が今からできる受け入れの工夫をお伝えします。

Colive Fukuoka × Nomad University 55カ国のノマドたちと▲Colive Fukuoka × Nomad University 55カ国のノマドたちと(筆者提供)

 

世界のデジタルノマドに「選ばれる街」の共通点

デジタルノマドという働き方が、世界で急速に広がっています。米国の人材ソリューションプラットフォーム企業MBO Partners ※ の調査によれば、世界のデジタルノマド人口は2023年時点で約3500万人、2033年までに10億人を超えると予測されており、単なるトレンドではなく働き方そのものの構造変化が起きています。

チェンマイ、バリ島に続き、近年新たなハブとして存在感を増しているのが、メキシコシティとバルセロナです。私自身、2026年にそれぞれ数カ月ずつ実際に住んだ街として、現場の肌感覚からお伝えします。

メキシコシティのRoma Norte、Condesaなどのエリアは、仕事ができるカフェやコリビング施設が充実し、現地の人々も海外からの訪問者への対応が柔軟です。サルサやバチャータを通じて現地の人と友達になる機会も多く、タコスからミシュラン星付きレストランまで食の幅も圧倒的。欧米ノマドの流入によるジェントリフィケーション(外国人や高所得者の流入により、地域の物価や家賃が上昇する現象)は進んでいますが、それでも人が集まり続けるだけの理由があります。

バルセロナは夏の日照時間が長く、自然へのアクセスも良いため、毎日が長く感じられ自然と幸福感が上がります。コリビングやコワーキングも充実し、何よりスペインはデジタルノマドビザの取得しやすさでヨーロッパ屈指。月収約2800ユーロ以上で申請でき(2026年7月時点)、実際に合法的に長期滞在する日本人にも現地で会っています。世界を旅したノマドが「もうここに住む」と一区切りをつける街。それがバルセロナです。

これらの街に共通するのは、ノマドを偶然受け入れているのではなく、設計して迎えているという点です。インフラ、コミュニティ、ビザ、生活の質。その全てが噛み合ったとき、人は長く留まります。

Akina氏とサグラダファミリア▲100年以上にわたり建設が続く聖堂サグラダファミリアと、場所に縛られない働き方

 

55カ国・約500名の声から見えた、日本が選ばれる理由

2023年に共同創設者として立ち上げたColive Fukuokaは、デジタルノマドをはじめとしたグローバルタレントを福岡に誘致する事業です。3年目の2025年には累計55カ国・約500名以上の参加者を迎えましたが、彼らに日本を選んだ理由を聞くと、いくつかの答えが繰り返し聞こえてきます。

「日本はずっと行ってみたい国リストの1位だった」という声をよく聞きますが、遠くて高くて言葉の壁もありそう、というイメージから一歩が踏み出せない人も多いです。それでも実際に訪れると、「驚くほど食べ物が安くておいしい」「英語が話せなくても翻訳アプリで歩み寄ってくれる地元の人の姿勢に感動した」といった声が決まって聞かれます。ハードルだと思っていたものが魅力に変わる体験が、リピートを生んでいます。

福岡の魅力も大きいです。歩いて移動できるコンパクトな街で、知り合いに偶然出会えるサイズ感が心地よく、「東京より住みやすい」という声も珍しくありません。屋台文化で地元の人との距離も近く、バンコクへの直行便もあるアジアの玄関口でもあります。

彼らは口を揃えて「また来たい」と言いますが、なぜ「住みたい」とはならないのでしょうか。

 

「また来たい」が「住みたい」にならない理由

「訪れること」と「住むこと」の間には大きな乖離があります。最も大きな壁はビザです。日本は2024年4月にデジタルノマドビザを導入しましたが、対象国は49カ国、滞在期間も最長6カ月で延長不可、年収条件は1000万円以上と、世界基準と比べて間口はまだ狭いのが現状です。

起業という選択肢も険しくなっています。Colive Fukuokaに参加したベラルーシ出身のカップルは福岡を気に入り、日本での起業を検討していましたが、2025年10月の制度改正で、経営・管理ビザの要件が大幅に厳格化されました。資本金3000万円以上、常勤職員の雇用、日本語で事業を運営できる体制などが求められるようになり、結果として日本に住む選択肢は遠いものになりました。

一方、すでに日本で起業しているチリ、アメリカ、イタリア出身のデジタルノマドに共通するのは「日本が大好き」であり、「パートナーが日本人」であること。制度を上回るほどの想いがあって初めて越えられるハードルが、まだそこに存在しています。

 

地域・DMO・自治体が今すぐできる3つのこと

1.「観光客」ではなく「滞在者」として迎える
ノマドが必要としているのは観光パンフレットではなく、「近所のスーパーはどこか」「月単位で使えるジムはあるか」といった生活情報です。「旅行者を泊める」から「生活者として迎える」への発想転換が第一歩になります。

2.デジタルノマドを「関係人口」として捉える
Colive Fukuokaにも3年連続で戻ってくるデジタルノマドがいます。母国の友人を連れてくる人、日本企業の仕事を受けるようになった人もいます。彼らの記憶が友人へ伝わり、新しい訪日者を生む。その連鎖が「関係人口」の広がりに反映されていきます。

3.地元の人も巻き込んだ、年間を通じた受け入れコミュニティをつくる
デジタルノマドが長く滞在したい街に共通するのは、「ここに友達がいる」という感覚です。鍵になるのは定期的なリズムを作ること。「毎週木曜はコワーキングデー」といった場を地元の人が主体となって開くことで、「また戻ってきたら会える」という感覚が生まれ、その街は単なる滞在地ではなく「帰ってくる場所」になります。

六甲山の静寂の中に、仕事場がある。自然と仕事が共存する、日本らしい一景▲六甲山の静寂の中に、仕事場がある。自然と仕事が共存する、日本らしい一景

 

日本を「選ばれ続ける国」にするために

世界中のデジタルノマドたちとの会話の中にも、「Japan」という言葉は決して低くない頻度で登場します。彼らは日本に来たいと思っていますが、「長く滞在したい国」「繰り返し戻ってきたい国」にはまだなりきれていません。その差を埋めるのに必要なのは、大きな変革ではないかもしれません。制度を少し柔軟にし、情報を少し整え、地域の人が少し扉を開く。その積み重ねが、日本を「選ばれ続ける国」へと変えていくのだと思っています。

訪日客数4000万人時代を迎えた今、次のステージは「いかに長く、深く、繰り返し来てもらうか」。そのヒントは、世界中を旅するデジタルノマドたちの声の中に、すでにあります。

※ MBO Partners(米国)は2011年より独立系・フリーランス人材に関する年次調査「State of Independence in America」を実施しており、デジタルノマドに特化した調査は2018年より継続。同分野では最も長く運営されている調査シリーズの一つとして広く参照されています。

 

著者プロフィール:

Akina|Nomad University代表・Colive Fukuoka共同創設者

2019年よりデジタルノマドとして旅を始め、2026年現在、世界6周目。これまで50名以上のデジタルノマドにインタビューを行い、ノマドのライフストーリーを発信するメディア「Nomad University」を運営。2023年にデジタルノマド誘致事業「Colive Fukuoka」を共同創設し、3年目の2025年には55カ国・約500名のグローバルタレントを福岡に迎える。2026年にはColive Fukuokaが「Nomad Retreats Award 2025」でBest Global Nomad Festを受賞。個人としても2024年にデジタルノマド新人王として世界一のタイトルを獲得。朝日新聞・South China Morning Post・President Onlineなど国内外メディアへの掲載多数。

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