インバウンドコラム
いま、世界の旅行市場で存在感を高めている「Multi-Generational Travel(多世代旅行)」。祖父母・親・子どもといった複数世代での旅行は、高単価・長期滞在といった特徴を持つ市場として注目されている。
本記事では、多世代旅行の市場背景や拡大の要因を整理するとともに、滞在スタイルや海外・訪日事例を通じて、その実態と旅行者ニーズの特徴を読み解く。

多世代旅行の市場規模は?2033年に約92兆円へ拡大
Multi-Generational Travel(多世代旅行)とは、祖父母・親・子どもなど三世代以上が参加する旅行形態を指す。近年は、祖父母と孫のみで旅をする「Skip Generation Travel」も広がっている。
アメリカの市場調査会社Growth Market Reportsによると、その市場規模は2024年時点で3105億ドル(約49兆円)に達し、2033年には約1.9倍の5794億ドル(約92兆円)へと拡大する見込みだ。2025年から2033年にかけて、年平均7.2%で成長すると予測されている。
世界18の国と地域、約2万2000人を対象に行った、Skyscannerの調査(2025年6〜7月実施)では、家族旅行が2026年の主要トレンドの一つに位置付けられた。過去2年でミレニアル世代の51%が親と旅行し、22%が三世代旅行を経験している。
また、世界14の国と地域、約1万4000人を対象に行ったHiltonの調査(2025年6月実施)でも、複数世代での旅行の増加が予測されている。レポートによると、回答者の84%が2026年に家族全員での旅行機会を求めており、多世代旅行は今後も世界的に拡大すると見られる。
なぜ多世代旅行が増加しているのか? 価値観の変化と経済的メリット
多世代旅行の拡大の背景には、価値観の変化と現実的なメリットの両面がある。
コロナ禍では、移動制限などにより家族と自由に会えない時間が続いた。そうした経験から、「会えるうちに会っておきたい」という意識が広がり、「今この瞬間を家族と過ごす」ことの大切さが改めて見直されている。あわせて、モノよりコトを重視する消費傾向が広がり、記憶に残る体験として旅行が選ばれている。特に若い世代を中心に、親や祖父母と過ごす時間を大切にしたいという意識が高まり、平均寿命の延伸も相まって、多世代で旅する機会は自然と増えている。
また、多世代旅行は心理的な価値だけでなく、経済面や旅行のしやすさという点でもメリットが大きい。世代間で費用を分担できるほか、祖父母世代が旅行を「贈り物」として負担するケースも増えている。さらに、祖父母の存在は子育ての負担をやわらげ、親世代にゆとりの時間をもたらす側面もある。経済環境の変化の中で、家族全体で支え合いながら体験価値を最大化する手段として、多世代旅行は選ばれている。
多世代旅行の滞在スタイル、ヴィラ・クルーズなどに共通する特徴は?
多世代旅行では、旅先での過ごし方や時間の使い方そのものが満足度を左右する。実際に欧米の旅行会社や調査から見えてくるのは、「家族全員が無理なく過ごしながら、共通の体験を持てること」を重視したスタイルだ。
例えば、カナダの高級旅行会社Butterfield & Robinsonやイギリスのオーダーメイド旅行を手がけるAudley Travelは、ヨットチャーターやヴィラ滞在、サファリ、クルーズなどを多世代向け商品として展開している。これらに共通するのは、一拠点を軸に滞在しながら、日中は世代ごとに異なるアクティビティを選択し、食事や特別な体験で再び合流するという設計だ。クルーズやオールインクルーシブ型リゾートの人気も同様の理由によるもので、移動負担を抑えつつ、子どもから高齢者までの多様なニーズを1カ所で満たせる点が評価されている。
宿泊についても、ヴィラやバケーションレンタルといった貸切型が選ばれる傾向が強い。イギリスのオーダーメイド型旅行会社Original Travelは、「プライベート空間と共有空間を両立できることが、多世代旅行の満足度を高める」と指摘する。個室で休める安心感と、リビングで自然に集まれる環境が、「一緒に過ごす時間」を支えている。

さらに体験においては、「全員同じ」ではなく「それぞれが楽しめる」ことが重視される。例えば、Butterfield & Robinsonが展開するた世代向けアフリカのルワンダ旅行では、若い世代は火山国立公園でのトレッキングやマウンテンゴリラとの出会いを楽しみ、祖父母世代は湖での穏やかなクルーズや文化体験に参加するなど、過ごし方の選択肢が用意されている。こうした設計により、全員が無理なく参加しながら、最終的には家族としての共通体験を持つことができる。
多世代旅行が観光業界にもたらす価値とは? 高単価・長期滞在につながる理由
多世代旅行は、観光事業者にとって収益性の高い市場でもある。複数世代・大人数での旅行となるため、ヴィラ貸切や専用車、プライベートガイドなどの手配が必要となるケースも多く、一組あたりの消費単価は高くなりやすい。
また、世代ごとに異なる体力や関心に配慮した行程が求められることから、滞在は長期化する傾向にある。さらに近年は、家族で特別な体験を共有することへの志向が高まり、ラグジュアリー市場との親和性も高い。実際、オーダーメイド型の多世代旅行は拡大を続けており、単価・滞在日数の両面で、地方の観光事業者にとっても安定した収益につながる有望な市場といえる。

訪日多世代旅行の事例から見る、滞在の特徴と受け入れの課題
実際に、多世代旅行の訪日旅程を見ると、日本がどのように選ばれているかが見えてくる。
カナダの旅行会社Butterfield & Robinsonの事例では、東京マラソン出場を目的に来日した旅行者が、妻や子ども、両親とともに三世代で旅程を組んでいる。東京滞在後、「古き良き日本を体感したい」という意向のもと、京都や奈良、金沢へと足を延ばし、和紙づくりやそば打ち、茶道、舞妓との交流といった文化体験を家族で共有している。
また、宿泊先の選び方にも注目したい。ある中華系アメリカ人が実際に訪日した際の旅行ブログによると、彼らの多世代旅行(4人家族と両親の計6名)では、都内でキッチンやリビングを備えたアパートメントタイプの宿泊施設を選び、家族でゆったりと過ごせる環境を重視していた。6人で利用可能な客室を選びつつも、両親のために別の部屋を確保するなど、世代に応じた配慮も見られる。その後の京都での3泊でも同様にアパートメントタイプに滞在。こちらでは、部屋の広さや寝室を分けられる間取り、トイレが2つある点などを理由に、6人全員で一室を利用している。
一方、中国とアジアのニュースを報道するサウスチャイナ・モーニング・ポストの記事には、香港からの親戚を含む約10人の中華圏の多世代旅行者が北海道を訪れた旅行の様子が掲載されている。この旅では、小樽や余市、旭川、富良野、札幌などを1週間かけて巡っている。最初の宿泊には温泉旅館を選び、広い客室で日本ならではの懐石料理を囲みながら、家族での時間を楽しんだという。

こうした事例から見えてくるのは、観光地を巡るだけでなく、「安心して滞在できる環境の中で、家族で体験を共有すること」そのものが旅の中心に据えられている点だ。多世代旅行は、「観光地を巡ることを主目的とした旅」から、「滞在と体験を重視する旅」へとシフトしていることが読み取れる。
この点から見ると、治安や交通利便性に優れ、地域ごとに多様な体験資源を持つ日本は、多世代旅行との親和性が高いデスティネーションといえる。特に、移動負担を抑えながら複数の地域を組み合わせられる点は、日本ならではの強みだ。
一方で課題もある。公共交通が限られる地域では移動負担が大きくなりやすく、食事の選択肢や多様なニーズへの対応も十分とは言えない場合がある。だからこそ、「安心して滞在できる環境」と「無理なく体験できる仕組み」をどう整えるかが、日本、特に地方における多世代旅行受け入れの成否を分けるポイントとなるだろう。
今回は、世界で広がる多世代旅行について見てきた。多世代旅行において重要なのは、「すべての世代が無理なく過ごせる環境」と「世代ごとのニーズに応じて楽しめる体験」の両立だ。これらをどう整えるかが、今後の地域の競争力を左右するポイントとなる。
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