データインバウンド
世界の旅行・観光市場11.6兆ドル、成長率トップはアジア太平洋 WTTCが2036年までの市場を予測
2026.09.08
やまとごころ編集部世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)が8月に発表したレポート「Economic Impact Research: Global Trends Report」によると、2025年の世界の旅行・観光GDPは過去最高の11.6兆ドルを記録し、世界経済全体を上回るペースで拡大した。なかでもアジア太平洋が成長を牽引し、日本も国際旅行者数の増加に大きく貢献している。
本記事では、2036年までの市場予測や注目の成長国、各国の観光政策を提示する同レポートから、日本のインバウンド事業者が捉えるべき機会と備えを探る。
世界の旅行・観光GDP、過去最高の11.6兆ドル
2025年の世界の旅行・観光産業によるGDPへの寄与額は前年比4.1%増の11.6兆ドルとなり、世界GDPの9.8%を占めた。成長率は世界経済全体の2.8%を上回り、2019年と比べても8.7%高い水準となった。
地域別にみると、アジア太平洋の旅行・観光GDPは3.3兆ドルで、北米と欧州の各3.0兆ドルを上回った。2026年には3.5兆ドルとなり、約1800億ドル増加する見込みで、増加額は世界最大となる。さらに2036年には5.9兆ドルまで拡大すると予測されている。
一方、北米は2025年の3.0兆ドルから2036年に4.0兆ドル、欧州は3.0兆ドルから3.8兆ドルとなる見込みだ。現在は3地域の市場規模に大きな差はないが、今後10年間でアジア太平洋が大きく引き離す予測となっている。
雇用面でも旅行・観光産業の存在感は大きい。2025年には世界で3億6600万人の雇用を支え、世界の雇用のおよそ9人に1人に相当する。コロナ禍後に新たに生まれた雇用の3分の1を旅行・観光産業が支えたとしている。
旅行需要も過去最高を更新した。2025年の国際宿泊旅行者数は前年比5.6%増の15億4000万人となり、前年から8200万人増加した。増加数が特に大きかったのが中国、フランス、日本で、この3カ国で世界全体の増加分の約30%を占めた。
WTTCは2026年も成長が続くと予測しており、世界の旅行・観光GDPは前年比3.2%増の12兆ドルに達する見込みだ。世界経済全体の成長率予測2.4%を引き続き上回る。
さらに2036年には17.1兆ドルへ拡大し、世界GDPの11%を占めると予測する。2026年から2036年までの年平均成長率は3.6%で、同期間に新たに約8870万人の雇用を生み出す見通しだ。
世界で最も伸びたアジア太平洋、2026年も5.4%成長へ
地域別で最も高い成長を見せたのがアジア太平洋だ。2025年の旅行・観光GDPは前年比8.1%増となり、世界平均の4.1%を大きく上回った。中東の5.3%、アフリカの5.0%を上回り、世界で最も高い伸びとなった。
その勢いは今後も続くとみられている。2026年の成長率は5.4%で、アフリカと並んで世界で最も高い。さらに2026年から2036年までの年平均成長率も5.4%と、世界平均の3.6%を大きく上回る予測だ。
一方、中東は、イランをめぐる紛争による空域閉鎖や航空便への影響、旅行需要の減少などを受け、2026年は14.5%減と大きく落ち込む見通しだ。ただし、2026~2036年には年平均6.3%で成長し、長期的には世界で最も高い成長率になると予測されている。
WTTCはアジア太平洋の成長を支えた要因として、ビザ免除やトランジットビザ、生体認証などを活用したスムーズな移動、交通をはじめとするインフラ整備、観光商品の多様化、観光を後押しする政策などを挙げる。
日本にとって、アジア太平洋の旅行市場拡大は訪日需要のさらなる成長につながる可能性がある。一方、域内各国も観光への投資や旅行者の受け入れ環境整備を進めており、拡大する旅行需要を巡る競争も強まっていくことになりそうだ。
日本は国際旅行者増加を牽引、国内旅行市場も世界有数
レポートでは、旅行・観光市場で特徴的な動きを見せる国も取り上げている。
日本について注目したいのは、前述の通り、2025年の国際旅行者数の増加を世界で牽引した国の一つとなったことだ。中国、フランス、日本の3カ国で、世界全体の増加分の約30%を占めた。
同時に、日本は世界有数の国内旅行市場を持つ。WTTCによると、2025年の国内旅行支出は1770億ドルで世界7位。日本の旅行・観光支出の7割以上を国内旅行が占めている。なお、日本の観光庁が発表した統計でも、2025年の日本人国内旅行消費額は前年比6.5%増の26兆7845億円となり、過去最高を記録した。
日本では人口減少などを背景に国内旅行市場の縮小が懸念される一方、WTTCのデータからは、現在も世界有数の規模を持つことがわかる。訪日客が増加するなか、インバウンド向けの商品・サービス開発への関心は高まっているが、国内客は依然として日本の観光市場を支える大きな存在だ。地域の食や自然、歴史、暮らしなどを生かし、国内客にも訪日客にも選ばれる体験やサービスをつくることは、需要の変動に対応するうえでも一つの選択肢となる。
次の成長市場はどこか、インドネシアの海外旅行が拡大
今後の訪日市場を考えるうえで注目したいのが、アジアの新たな海外旅行市場だ。
WTTCが今後の成長国として取り上げた一つがインドネシアである。2026年から2036年にかけて海外旅行支出が年平均9.4%で成長すると予測されており、世界でも特に高い伸び率となる。WTTCはインドネシアを「新たな主要アウトバウンド市場」と位置づけている。
日本のインバウンド市場では韓国、中国、台湾、香港など東アジアからの旅行者が大きな割合を占める一方、東南アジアからの訪日需要も拡大。2025年のインドネシアからの訪日客数は、前年比23.8%増の64万600人だった。人口約2.8億人を抱えるインドネシアの海外旅行市場が予測通り拡大すれば、日本にとっても中長期的に重要性が高まる可能性がある。
一方、旅行者を受け入れる側ではタイの成長が目立つ。タイの国際旅行者支出は2026年の590億ドルから2036年には1280億ドルへ拡大し、年平均8%で成長する予測だ。東南アジアでは最も高い伸びとなる。

WTTCの予測から見えてくるのは、アジアの旅行市場の成長が、訪日旅行にとって「需要拡大」と「競争激化」の両方をもたらすということだ。インドネシアのように海外旅行需要が急速に拡大する国は、日本にとって新たな送客市場となり得る。一方、タイをはじめアジア各国も観光投資や受け入れ環境の整備を進め、旅行者の獲得を図っている。
今後の市場選定では、現在の訪日客数だけを見るのではなく、海外旅行支出がどの国で伸びるのか、航空ネットワークがどう変化するのかといった中長期的な動向も重要になる。成長市場を早い段階から捉え、情報発信や商品造成、受け入れ環境を整えることが、新たな需要の取り込みにつながりそうだ。
スペインに学ぶ、旅行者を「時期」と「地域」で分散
旅行者数を増やすだけでなく、増加する需要をどのように受け入れるかも大きな課題となる。
その事例としてWTTCが取り上げたのがスペインだ。2025年には旅行・観光産業が同国GDPの15.3%を占め、国際旅行者支出は1300億ドルに達した。雇用でも7人に1人を旅行・観光産業が支えている。
こうした成長を支えてきたのが、政府による継続的な観光政策と投資だ。EUの復興基金から34億ユーロを観光のサステナビリティ、デジタル化、観光地のインフラ整備などに投入したほか、旅行者が集中する時期や地域の分散、観光商品の多様化を進めている。
スペイン政府が2025年10月に公表したデータによると、閑散期の旅行者数は2019年比で27%増加し、その伸び率は繁忙期の約3倍となった。
さらに「Spain Tourism Strategy 2030」では、50の施策を盛り込み、日本、中国、中南米などからの旅行者をターゲットとすることで、欧州市場への依存を減らす方針も掲げている。
訪日客が過去最高水準となる日本でも、一部の都市や観光地への旅行者集中が課題となっている。スペインの取り組みは、単に旅行者数を増やすのではなく、「いつ来てもらうか」「どこを訪れてもらうか」「何を体験してもらうか」を組み合わせて需要を広げていくという点で、日本の観光地域づくりにも参考になりそうだ。
世界の観光投資、1兆ドルを突破
もう一つ、今回のレポートが強調しているのが観光への投資拡大だ。
世界の旅行・観光分野への設備投資は2025年に前年比8.5%増加し、2019年以来初めて1兆ドルを突破した。2026年もさらに5.9%増えると予測されている。
なかでも米国、中国、インド、サウジアラビアの4カ国だけで2025年に4940億ドルを投資し、世界全体のほぼ半分を占めた。
最大の投資市場である米国は2025年に2450億ドルを投資した。一方、中国は1750億ドルで世界2位だが、2026年から2036年まで年平均7.8%で成長し、2036年には4020億ドルと米国を抜いて世界最大になると予測されている。
インドも急速な拡大が見込まれる。2025年の500億ドルから2036年には1160億ドルとなり、その時点では東南アジア全体を上回る規模になる見通しだ。
投資先は宿泊施設や観光施設だけではない。交通やデジタル技術、観光地の整備、旅行者向けサービスなど、旅行を支える基盤そのものへの投資が各国で進む。
【編集部コメント】
成長するアジア市場、需要獲得の競争も激しく
今後10年、世界の旅行・観光市場は世界経済を上回るペースで成長し、その中心となるのがアジア太平洋だ。日本にとっては、インドネシアをはじめとする新たな送客市場の成長が大きな機会となる一方、タイなど域内各国との顧客獲得競争も一段と激しさを増す。単なるプロモーションにとどまらず、各国の海外旅行支出や観光投資の動きを見極め、アクセスや受け入れ環境、体験コンテンツへ継続的に投資していくことが、次の需要を取り込む鍵となるだろう。
(出典:World Travel & Tourism Council, Economic Impact Research: Global Trends Report)
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