インバウンドコラム

観光地域づくりに住民参画をどう取り入れる? 海外・墨田区に学ぶ地域マネジメントの実践

2026.10.09

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持続可能な観光の実現に向けて、観光事業者には環境への配慮だけでなく、地域社会と共存する観光のあり方が求められている。東京都と東京観光財団(TCVB)は2026年度、「持続可能な観光の実践に向けた第一歩」をテーマに、地域や観光関連事業者向けの「持続可能な観光」セミナーを全4回にわたり開催している。

第2回は「都市型観光地域マネジメントの実践」と題し、持続可能な観光を支える地域マネジメントの実装をテーマに、2026年9月4日に開催した。株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツのシニアコンサルタント 丸山芳子氏が、観光地域マネジメントに住民参画を取り入れた海外の事例を紹介し、一般社団法人墨田区観光協会理事長の森山育子氏が、墨田区における住民参画の取り組みについて講演。両氏によるパネルディスカッションも行われた。本記事では、セミナーで語られたポイントを紹介する。

▲左:株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツ 丸山 芳子氏、右:一般社団法人墨田区観光協会 森山 育子氏

▶第1回セミナー:誰もが楽しめる観光へ。「インクルージョン」とユニバーサルツーリズム実践のポイント

 

月1回の住民調査で意識の変化をデータで把握するコペンハーゲンDMO

基調講演を行ったのは、株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツの丸山芳子氏。丸山氏はDMO専門家で、特に海外事情に詳しく、世界最大のDMO団体デスティネーションズ・インターナショナルの評議員を3年間務め、同団体の幹部資格を日本で唯一取得しており、UNツーリズムの「観光を通じた持続可能な開発目標(SDGs)」の指標策定にも、日本のチームリーダーとして関わった経験がある。

WeWork 渋谷スクランブルスクエアで開催撮影場所:WeWork 渋谷スクランブルスクエア

丸山氏は都市型観光の特徴を「住民が住むところが観光客にとっての見どころになり、観光と暮らしが同じ場所で起こる」と指摘。このためリゾートより住民との対立が生じやすく、都市での持続的な観光推進には住民の関与が重要であり、「世界の都市観光は近年、住民起点へシフトしている」として、二つの海外事例が紹介された。

一つはコペンハーゲンのDMO「Wonderful Copenhagen」の取り組みで、2017年発表の「The End of Tourism as We Know It(“いままでの”観光の終わり)」戦略が紹介された。丸山氏は大胆なタイトルで世界に衝撃を与えたこの観光戦略について「従来の誘致一辺倒から地域住民との共存にシフトし、観光客の増加に対するマネジメントに地域として先進的に取り組んだ」と説明し、観光客の理解を促すため、母国語だけでなく英語版も制作している点を特徴として挙げた。

Wonderful Copenhagenは2019年に、観光客増加の推移を2030年まで予測し、ほぼ予測通りの経過を辿っている。「しかし観光の成果は宿泊者数にとどまらず、より幅広い価値を測るべきという考え方から『人を中心とした成長』を目指す戦略にシフトし、住民と観光客双方の『気持ち』をデータ化する取り組みを行っている」と丸山氏は指摘。具体的には住民満足度調査を毎月行い、音楽イベントが集中する5月はごみの増加が原因で不満度が最も高くなるなど、住民の意識の動きをデータできめ細かく把握していることを紹介した。

 

学びのある体験を通じて旅行者の行動変容を促す「CopenPay」の取り組み‎

Wonderful Copenhagen が2023年に旅行者を対象にアンケートを行ったところ、「環境に良い行動をしたい」人が82%を占めたのに対し、実際に行動を変えた人は22%にとどまった。このような意図と行動のギャップを埋め、旅行者のふるまいを変える目的で2024年にスタートしたのが「CopenPay」という取り組みだ。

観光地域づくりに住民参画をどう取り入れる? 海外・墨田区に学ぶ地域マネジメントの実践

清掃活動や都市農園でのボランティアなど、環境に良い行動をした旅行者に博物館の入場料割引などのインセンティブを提供する制度で、2024年は26のアクティビティ事業者・博物館が参加して4週間実施された。2025年には規模を3倍、期間を9週間に拡大し、2年間で延べ3万人以上が参加した。2026年には「Destination Pay」として、デンマーク国内の他地域にも横展開された。

観光地域づくりに住民参画をどう取り入れる? 海外・墨田区に学ぶ地域マネジメントの実践

丸山氏はインセンティブを目的にCopenPayに参加した人は23%に留まり、48%は学びのある珍しい体験ができるという動機で参加しているというデータを示した。「『人はインセンティブがあるから動く』という思い込みを覆す結果で、インセンティブにかける予算が十分でない自治体にとって大事なヒントとなった」と指摘した一方、施策によるCO₂削減率など、効果測定については発展途上であることを課題として挙げた。

 

カナダ・ビクトリアでは観光計画策定に「主役」として住民が参画

もう一つ紹介されたのは、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の州都ビクトリアの事例だ。クルーズ船での来訪者が増加し国際会議の誘致が好調な一方、ビクトリアでは、州がビジネスホテルをホームレス向けの支援付き住宅に転用したことなどから、10年間で客室数が27%減少したという。特に中低価格帯の宿泊施設が不足しているほか、民泊規制や交通キャパシティなどの課題もあると丸山氏は説明した。
こうした課題を背景に、ビクトリアが2025年に策定した10年間の観光計画「デスティネーションプラン2035」について、「注目すべきは住民を観光振興の『主役』と位置付け、計画の策定段階から住民を参加させた点」と丸山氏は述べた。具体的には、1年かけて多様な方法で住民へのヒアリングとアンケートを実施した。住民が観光のもたらすメリットをどのように捉えているか、観光振興について何を大切にしたいか、何を懸念しているかについて丁寧に把握し、計画に住民が納得した内容を盛り込んだ。「この観光計画では住民を『気をつかう対象』ではなく、主役であり観光を一緒に担う仲間と捉えている」と丸山氏は指摘した。

二つの事例から学ぶべき共通点として、丸山氏は「観光の成功指標を来訪者数・消費額から住民満足度・生活の質の向上へシフトする」、「住民参画を継続的な仕組みとして制度化する」、「データを活用した透明性の高い情報公開」の3点を指摘した。

観光地域づくりに住民参画をどう取り入れる? 海外・墨田区に学ぶ地域マネジメントの実践

 

住民を「観光の応援団」に。墨田区観光協会が進める住民参画

続いて、墨田区観光協会で理事長を務める森山育子氏が、墨田区における観光施策への住民参画について講演を行った。森山氏は金融業で19年、メディア系企業で11年の経験を経て、墨田区観光協会がDMO登録を行った2018年理事長に就任。当時、同協会は資金繰り難や縦割り組織、累積赤字などの課題を抱えており、その立て直しを進めるなかで住民参画の必要性に気づいたという。

撮影場所:WeWork 渋谷スクランブルスクエア

「観光の応援団」としての住民参画を促す重要性を強調した森山氏は、住民主体の取り組みとして2つの事例を紹介した。一つは、住民主体の取り組み事例として2020年に設立された「すみだファンCLUB」だ。区内外を問わず誰でも入会可能で、希望者には「すみファン名刺」を支給し、地域の魅力を発信する日常的なPR活動を担ってもらう。入会経路は知人の紹介が4割以上と最も大きな割合で、「イベントやメディアなど地域で活躍している会員が多く、そこからつながりが広がっている」と森山氏は述べた。2024年7月時点の会員は277名で、45%を占める区外会員の中には、九州や東北など関東以外の会員もいることが示された。

観光地域づくりに住民参画をどう取り入れる? 海外・墨田区に学ぶ地域マネジメントの実践

もう一つの取り組みが民泊への対応だ。墨田区では民泊施設が増加しており、住民生活との調和を図るため、2026年4月に平日の営業制限や管理者の常駐義務などを定めた条例を施行した。今後は優良施設認証制度の設計、行政・民泊運営事業者・町会による協議会設立の二軸で取り組む方針だ。森山氏は協議会設立に先駆け、民泊事業者との意見交換会を年2回開催していると述べた。
「地域住民が民泊施設の清掃やガイド、災害時の誘導などに関与できる形を、行政・民泊事業者・町会ともに目指している。優良施設の認証も、観光協会と民泊事業者が協力して行うべきという思いは共通している」として「地域に優しい民泊の成功事例を作りたい」と述べた。

森山氏は「観光を持続させるのは観光客を呼ぶ仕組みではなく、住民が誇りを持てる事業を回す仕組み。住民参画の本質は住民の意見を聞くだけでなく、事業者と住民が一緒に決めること」と述べた。

 

観光が生活に好影響を与えているか?「どちらでもない」層への注目が重要

パネルディスカッションでは、住民アンケートにおける「中立層」が話題に上がった。森山氏は墨田区が行った住民アンケートで、区の観光振興を肯定する回答は70〜80%に達する一方、「観光が自分の生活に良い影響を与えているか」の問いには「どちらでもない」という中立層が70%を占めることを報告した。「どちらでもない」の中身として、国際的な観光地化や税収増、整備促進はプラスに評価しつつも、治安や火災、ごみや騒音への不安が主な懸念であることを明らかにした。
森山氏が「どちらでもない」に注目した点を、丸山氏は高く評価した。丸山氏は「デスティネーションズ・インターナショナルも、観光振興に対する中立的な層に注目することが最も重要と指摘している」と述べ、「賛成にも反対にも動く可能性があるこの層に観光への理解を深めてもらうよう、巻き込んでいくことが必要」と述べた。

最後に、観光地域づくりに必要なこととDMOの役割について、両氏が考えを述べた。森山氏は、DMOの役割を「住民が真ん中にいる観光を牽引し、誇りや暮らしと観光を両立させる仕組みづくり」とし、活動の見える化も重要だと指摘。丸山氏も「観光地域づくりでの合意形成の主体は住民」としたうえで、DMOにはプロデューサーとして各プレイヤーの適切な役割分担を促す役割があると述べた。
両氏に共通していたのは、住民を観光施策の「対象」ではなく、地域の観光をともにつくる主体として捉える考え方だ。住民の意識を継続的に把握し、その声を施策や事業に反映するとともに、住民自身が参画できる仕組みをつくることが、持続可能な観光地域づくりにつながる。

 


<次回セミナー>
第3回「持続可能な観光」セミナー
観光分野における「サステナブルフード」の重要性
2026年10月28日 (水) 10:00~12:00

<関連リンク>
■東京都・TCVBによる「持続可能な観光」の推進に関する事業について
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■TCVBサステナブル・ツーリズム・パートナーシップについて
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