インタビュー

日帰り観光の奈良を「泊まる街」へ。100室超の長期滞在型宿泊から描く地域の未来

印刷用ページを表示する



日本有数の歴史都市でありながら、奈良は京都や大阪からの日帰り観光先として語られることも少なくない。その街で、宿泊を起点に新たな滞在のあり方をつくろうとしているのが、株式会社コンフィーステイ代表取締役の金児(かねこ)崇行氏だ。

同社は奈良を中心に、キッチンや洗濯機などを備えた長期滞在型の宿泊施設を展開。旅館業法に基づく施設運営、自社一貫の運営体制、AI活用を組み合わせながら、「暮らすように泊まる」滞在を支える宿泊モデルを築いている。

今回は、金児氏に、宿泊事業の原点や奈良で長期滞在型施設を展開する理由、そして宿泊を起点とした地域づくりや、「世界が最初に出会う日本の感動拠点」という同社が掲げるビジョンに込めた思いを伺った。

 

奈良を「泊まる街」に、宿泊事業の原点

―奈良を拠点に宿泊事業を始めたきっかけを教えてください。

奈良は私の地元です。高校卒業後はアメリカの大学へ進学し、その後は東京や大阪、名古屋、福岡など、さまざまな都市で仕事をしてきました。若い頃は都会への憧れが強く、奈良を離れたいと思っていた時期もありました。ただ、外に出たことで、改めて奈良の良さに気づいたんです。

「奈良時代」という言葉に象徴されるように、かつては都が置かれ、日本の文化や歴史を象徴する場所として、国内外で高い知名度があります。

一方で、現在の奈良に目を向けると、人口10万人あたりの宿泊施設数は全国でも少ない水準にあり、多くの旅行者が訪れる場所であるにもかかわらず、宿泊や消費につながりきっていません。このギャップに大きな可能性を感じ、奈良で宿泊事業に取り組もうと考えました。

―具体的にどのようなステップで始めたのでしょうか。

海外から帰国したあとも英語を使う機会を持ちたいと思い、カウチサーフィンをはじめました。カウチサーフィンは、自宅の空き部屋などを無償で提供し、旅行者との交流を楽しむコミュニティサービスです。

フランスの方がワインを持ってきてくれたり、ブラジルの方に現地料理を教えてもらったりと、ゲストというより友人のような関係でした。

その後、アメリカの友人からAirbnbを紹介され「交流だけでなく、宿泊という形でも価値を提供できるのではないか」と考え、有償で部屋を貸し出すようになったことが、現在の事業のスタートです。

私はカウチサーフィンの頃と変わらず、ゲストを飲みに連れて行ったり、一緒に過ごしたりしていました。自宅には20種類ほどのウイスキーを並べていたこともあり、「あそこに行けばホストと一緒に飲める」と口コミが広がり、レビューも増えていったんです。

こうした経験を通じて、旅行者が求めているのは観光地巡りだけではなく、その土地の暮らしや人とのつながりなのだと実感しました。その原体験が、現在のコンフィーステイが目指す「暮らすように泊まる」という考え方にもつながっています。

 

「暮らすように泊まる」を支える長期滞在型の宿泊モデル

―現在の事業内容と、宿泊施設の特徴を教えてください。

現在は奈良を中心に計25施設109室を運営しています。キッチンや洗濯機、乾燥機、調理器具など、生活に必要な設備を備えた長期滞在型の宿泊施設が特徴です。

大阪では3施設を展開しており、4施設目の立ち上げを進めています。奈良でも新たな施設を複数準備しており、年内には30施設規模になる見込みです。

私たちが提供したいのは、観光地を巡るためだけの滞在ではなく、旅行先でも普段の暮らしに近い環境で過ごせる宿泊体験です。いわば、「暮らすように泊まる」ための拠点づくりです。

昨年、子どもを連れて1カ月ほどヨーロッパを旅行した際、何度も荷造りをして移動することの大変さを実感しました。また、ホテルで長期間過ごすと、洗濯や食事の面で不便を感じる場面も少なくありません。その経験から、こうした施設の必要性を改めて感じています。

また、住宅宿泊事業や特区民泊ではなく、ホテルや旅館、ゲストハウスと同じ旅館業法に基づく施設運営を選んできました。年間営業日数の上限に左右されず、通年営業が可能な旅館業法の方が、事業としての安定性や持続性を高められると考えたからです。

つまり、キッチンや洗濯機などを備えた長期滞在型の宿泊施設を、旅館業法に基づいて一定規模で運営していることが、私たちの事業モデルの特徴です。

なお、私たちの知る限り、奈良のような地方都市で、100室以上を管理・運営している事業者は全国的にほとんど例がありません。施設数があるからこそ、宿泊者の傾向や運営改善につながるデータを蓄積できる点も強みだと考えています。

―どのようなお客様が利用されているのでしょうか。

時期などによって変わりますが、全体を通してみると、日本人と海外のお客様がほぼ半々です。海外のお客様は、アメリカ、フランス、ドイツ、オランダ、イギリス、オーストラリアなど、欧米圏の方が中心です。

コンフィーステイを利用される欧米のお客様の中には、日本に2〜3週間ほど滞在する中で、一つの地域に3〜4日ほど滞在しながら移動する方も少なくありません。当社が提供する一棟貸しの施設は、家族旅行や三世代旅行、グループ利用との相性が良く、大人数でも快適に過ごせる点が評価されています。

また、旅館やホテルが非日常の滞在を提供する一方で、キッチンや洗濯機などを備えた宿泊施設は、長期滞在や家族・グループでの旅行に向いています。宿泊の選択肢が増えることで、奈良での滞在時間が延び、地域で過ごす時間を増やすことにもつながると考えています。

 

現場の気づきを品質向上につなげる自社一貫運営

―施設の運営体制について教えてください。

宿泊施設では、予約管理から清掃に至るまで、運営をできるだけ自社で一貫して行っていることが特徴です。

現在は社員とアルバイトを合わせて約40人の体制で運営していますが、部署ごとに業務を分けるのではなく、スタッフもゲスト対応に関する情報を共有し、一つのチームとして施設を運営しています。

また、全員が清掃業務に対応できる体制を整えていることも特徴です。私自身も少し前までは現場で清掃をしていましたが、最近はスタッフから「私たちの方が早くて綺麗なので、社長は清掃を手伝わないでください」と言われるくらい、現場のレベルが上がりました(笑)。

社員やアルバイトが現場に出ているからこそ、そこで得られた気づきがすぐに社内で共有され、改善につながる。この積み重ねがサービス品質の向上につながっていると思います。

 

DXとAIで、人にしかできない価値を高める

―現在はすべて無人運営とのことですが、その体制に至った経緯を教えてください。

事業を始めた頃は、私自身が宿に住み込み、ゲストと一緒に食事へ行ったり、交流したりしていました。ただ、部屋数を増やすにつれて、すべてのお客様に同じような対応を続けることは現実的ではなくなりました。

そこで、チェックインや予約管理など、人が対応しなくてもよい部分はシステム化し、人が本当に価値を発揮すべきところに時間を使える体制へと変えていきました。

現在は全施設を無人運営とし、独自のシステムを導入しています。ゲストはスマートフォンなどを使ってセルフチェックインできるため、スタッフが現地に常駐しなくてもスムーズな受け入れが可能です。

―AIも活用されているということですが、具体的にどのように活用されているのでしょうか。

大前提として、AIの活用やDXそのものが目的ではなく、課題解決の手段として捉えています。特に、奈良をはじめとする地方都市では、人手不足が大きな課題となっている一方で、お客様への対応品質を維持するだけでなく、さらに高めていく必要があります。そのため、現在は生成AIを活用してブラウザ上から多言語で音声問い合わせができるシステムの開発を自社で進めています。

海外のお客様の場合、日本国内向けの電話窓口への問い合わせはハードルが高く、メールやチャットに限られやすいという課題があります。そこで、ブラウザ上から音声で問い合わせができる仕組みを整え、24時間・多言語で対応できる体制を目指しています。

このAIの活用によって、スタッフは定型業務に時間を取られにくくなります。その分、「このお店がおすすめです」「こんな体験もできます」といった地域ならではの情報提供や、お客様一人ひとりに合わせた案内など、人だからこそ価値を発揮できる仕事により多くの時間を使うことが可能です。この仕組みは、施設数が増えても対応品質を保ち、限られた人員でも多拠点運営を続けていくための基盤になると考えています。

 

宿泊から地域づくりへ。その先に描く「奈良国際空港」構想

―現在、力を入れて取り組んでいることを教えてください。

奈良は、歴史や文化という大きな魅力を持つ一方で、京都や大阪からの日帰り観光先として見られることが多く、滞在時間や地域での消費につながりきっていない面があります。だからこそ、まずは奈良に「泊まる」「過ごす」「働く」ための環境を整えることが重要だと考えています。

現在準備しているのが、新施設『白(HAKU)』です。宿泊施設だけでなく、仕事ができる場所や人が集まる場所をつくることで、短期滞在や二拠点生活が可能な場にしていきたいと考えています。

観光で数時間だけ立ち寄るのではなく、1週間、1カ月と滞在しながら地域の人や事業者と関わる。そうした接点が増えることで、奈良に新しい仕事や交流が生まれる可能性があると思っています。

次の段階として考えているのが、30〜50室規模のブティックホテルです。これまで培ってきた長期滞在型の宿泊施設運営のノウハウを生かしつつ、宿泊施設を単なる「泊まる場所」ではなく、人や情報が集まる地域のハブとして機能させたいと考えています。こうした施設を奈良はもちろん、全国の地方都市に展開することで、新たな人の流れを生み出すのが狙いです。

―そうした取り組みの先には、どのような構想を描いているのでしょうか。

私たちが最終的に目指しているのは、実際に「奈良国際空港」をつくることです。

もちろん、現時点で具体的な建設計画があるわけではありません。ただ、単なる比喩として掲げているのでもありません。奈良を世界中の人が訪れ、滞在し、交流する玄関口にしたい。その将来像を象徴する目標であると同時に、いつか実現したい構想として、本気で掲げています。

奈良は「シルクロードの東の終着点」ともいわれ、遣隋使や遣唐使を通して、海外からもたらされた文化や技術を受け入れながら発展してきた歴史があります。かつての奈良は、国内外の人や文化が行き交う場所でした。私は、そうした開かれた都市としての姿を、現代にもう一度つくりたいと考えています。

その思いが強くなったきっかけの一つが、中国の西安を訪れた経験です。都市のスケールや、歴史と現代が共存する姿に大きな衝撃を受けました。かつて奈良から大陸へ渡った人々も、異なる文化や都市に触れ、「自分たちの場所にも新しいものをつくりたい」と感じたのではないか。そう考えるようになりました。

将来的なリニア中央新幹線の奈良市付近への駅設置も視野に入れながら、奈良を世界と直接つながる都市にしていきたい。その究極の形が奈良国際空港です。

ただし、空港だけを先につくっても、人が奈良に滞在し、地域と関わる土台がなければ意味がありません。まずは宿泊施設を増やし、「白」のような滞在や交流の拠点をつくる。さらにブティックホテルを展開し、奈良で泊まり、働き、人と出会う流れを少しずつ育てていく。

奈良国際空港は、そうした一つひとつの取り組みを積み重ねた先にある長期的な目標です。

―大きな目標に向かううえで、事業を続ける原動力は何でしょうか。

次の世代が、「奈良で暮らしたい」「奈良で働きたい」と自然に思える地域をつくることです。

奈良は教育への関心が高く、多くの人材を輩出している一方、進学や就職を機に県外へ出る人も少なくありません。奈良に滞在する人が増え、仕事や交流が生まれれば、この街で新しい挑戦をする人も増えていくはずです。宿泊事業は、その流れをつくる入り口だと考えています。

事業を始めた頃は、私自身が清掃やゲスト対応に入り、目の前の運営に向き合っていました。ただ、施設数やスタッフが増えた今は、現場を支えながら、会社が次にどこへ進むのかを示すことが私の役割になっています。

奈良国際空港という目標から見れば、私たちはまだ階段の「0.2段目」にいるにすぎません。まずは目の前の宿泊事業を着実に育て、人が奈良に泊まり、働き、交流する流れを一つずつつくっていく。その積み重ねが、奈良を世界に開かれた地域へ変えていく第一歩になると考えています。

 

最新のインタビュー