インバウンド特集レポート
訪日旅行者が注目されているタイは、観光立国としても文字通りアジアのリーダーとして躍進している。2013年の国際観光客到着数は2600万人、世界観光機関のランキングで10位に躍り出た。2012年に10位だったマレーシアを抜きさり、アジアで1位に輝いたのである。2014年は政情不安により影を落とすものの、2015年は3000万人を達成する目標を掲げている。幾度の危機的状況に際しながら、世界から旅行者を集めるタイの観光面の優位なポイントを検証。今年6月に開催された旅行博TTMや取材を通して「学ぶべきポイント10」をピックアップしてみた。
目次:
●外国人目線、観光での危機管理、タイアップキャンペーン
●安全対策、体験を通してタイを知る、アフター7市場
●宿泊施設施設の充実、ショッピング天国、メディカルツーリズム、団体の受け入れ
●タイと日本のツーウェイツーリズム
外国人目線、観光での危機管理、タイアップキャンペーン
①タイ国政府観光庁(TAT)のプロモーションが徹底した外国人目線
タイの魅力を世界にプロモーションするタイ国政府観光庁(以下TAT)は1960年に創立。現在、日本には東京、大阪、福岡の3ヵ所に事務所がある。世界各地15の事務所を設置し、対象国にあった細やかなマーケティング、プロモーション戦略を展開してきた。対象国のターゲットも細かく分類し、メディアや強いエージェントを選定、タイ舞踊や食をPRする一般向けのイベントも直に行ってきた。
日本では20年以上前から「Amazing Thailand」のコンセプトを掲げ、カオスと寺院のバンコク、エレガントなビーチリゾート・プーケット、古都チェンマイなどを中心にプロモーションを展開。周遊観光のパッケージ旅行、OLのシティ&リゾートステイ、ゴルフ、最近はロングステイなどのマーケットを開拓してきた。2013年には訪タイ日本人は150万人を超え、全体の第4位(中国、マレーシア、ロシアに次ぐ)、その7割がFITという多様性を帯びた市場に成熟させている。
特に、日本においてはエリアごとのイメージビジュアル、ガイドブックなどの素材を日本のメディアや日本人クリエーターに作成させていることが多い。複数回の取材により「日本人目線」を反映して、ツボを押さえた内容になっている。通常は現地で用意した内容を翻訳することが多いこれらの情報を対象国の目線で創りあげていることは評価されるポイントだ。
②観光での危機管理が地道かつスピーディー

マレーシアのエージェントにTAT撮影班がインタビュー。これも動画にアップ

5月31日に撮影された中国からの旅行者の動画。安全性を語っている

TTMのランチやディナーの際には、必ずムスリムコーナーが設けられている
近年、タイの観光はたびたび危機的状況に陥った。04年のスマトラ島沖地震の津波被害、08年の空港占拠事件、11年の洪水被害、そして今年の軍部によるクーデター、戒厳令と続いた。旅行者が増加して順調かと思いきや、重大な危機が起こり、旅行者が激減するサイクルを繰り返す事態に。TATは観光客を呼び戻していく施策に注力せざるを得なかった。
TATのHPなどで現状を頻繁に発信し、タイを訪れている旅行者のインタビュー動画をアップ、各国のメディアをファムツアーで招待し、生の情報を現地で発信してもらった。
実際に日本でも東日本大震災~放射能汚染の際には、同様のことを必死に行った。このような危機のときには打ち手は同様で、地道に情報発信し、旅行者自身の口コミを広めていくしかないと考えられる。
例えば今年6月のタイの旅行博(※1)は通常通り行い、エージェントやメディアを世界中から招待。日本現地では各地で一般旅行者向けセミナーや業界向けロードショーを行いながら、7月下旬にもまたメディア招待を行っている。そのスピードと招待人数などボリュームも徹底している。
※1:Thailand Travel Mart。タイのB to B旅行博のこと。
「TTM+2014(Thailand Travel Mart 2014 Plus)」
クーデター、戒厳令発令によりまたもや観光では危機的状況となった6月4日~6日にタイのB to B旅行博「TTM+2014(Thailand Travel Mart 2014 Plus)」は開催された。
中国、英国やオーストラリア、インド、遠くは南アフリカなど45ヵ国から343名のバイヤーが参加、ホテルや観光施設、旅行業者などのセラーとアポイント制による商談会を行う。ここには、世界各国のメディアも招聘(「やまとごころ」は日本のメディアとして招待され取材を行った)。
商談会によるビジネスマッチングを狙うとともに、「タイは全土にわたり安全で、ディスティネーションとしての魅力は変わらない」ということを世界に示していく場でもある。会場内では各国のバイヤーやメディアに対してインタビューが行われ、TATのホームページでアップされてい
る(http://theitravelchannel.tv/category/shows/ttm-2014/)。
③対象国現地での細やかなタイアップキャンペーン

カニと卵のバランスが絶妙のプーパッポンカリー。10年以上前から日本でも有名に(Epochana)
先述したようにTATの現地事務所では当該エリアでの積極的なエージェント、メディア、消費者向けのプロモーションを行っている。7月には大阪でも天神祭とタイの水の祭典である「ロイクラトン」とのタイアップキャンペーンを開催するなど、日本でもエリアごとにタイの文化性が深く浸透する仕掛けを頻繁に行っている。
なかでも福岡事務所では「クッキング・パパ」の作者・うえやまとち氏を取材旅行に招待し、プーパッポンカリーと、当時日本ではあまり知られていなかった隠れた名店を漫画のストーリーに登場させるなどきめ細やかな打ち手が日本人スタッフによってなされている。
最新のインバウンド特集レポート
【万博特集】食の多様性で高まる日本の魅力、海外ゲストをもてなす上で大切な心構えとは? (2025.02.14)
人口1200人 鶴岡市手向地区が挑む、出羽三山の山岳信仰を活かした持続可能な地域づくり (2025.02.07)
【万博特集】MICEの持つ可能性とは?MICEの基本から諸外国の成功事例、最新動向まで徹底解説 (2025.01.31)
サステナブルツーリズムを目指し、観光庁「持続可能な観光推進モデル事業」で変わる日本各地の地域づくり (2025.01.30)
2025年のインバウンド市場はどうなる? アジアから欧米豪中東まで11市場 12人の専門家が徹底予測 (2025.01.30)
20〜30代FIT層急増、ムスリム対応が成長のカギ。2025年のマレーシア訪日市場 (2024.12.25)
消費力が高いメキシコ市場、2025年の地方誘致は建築・アート・マインドフルネスなど特別な体験がカギ (2024.12.25)
2025年の訪日消費拡大と地方誘致のカギに、米国市場が注目する6つの新トレンド (2024.12.24)
リピーター増と共にローカル志向高まる中東市場、2025年 旅行者に選ばれるための重要なポイントとは? (2024.12.23)
完璧な事前の準備よりオープンな心で対応を、2025年拡大する豪州市場の地方受け入れに必要なこと (2024.12.20)
地域体験を求めるFIT急増、2025年シンガポール市場獲得に向けて地方ができることとは? (2024.12.19)
まだ見ぬ景色を求めて地方を旅するタイ市場、2025年は二次交通が地方誘致のカギに (2024.12.18)